セピア色の花

もうずっとずっと昔に 抱いていた

まだ形になっていないくらいの 淡い花


本当は 少しずつ少しずつ

育てていくものだった はずなのに


ある日 まわりがはやし立てて

きちんと咲く前に つぼみの中を知りたがり


結果 花は無残にあばかれてしまった



優しかったあの人は「それでも良い」と 言ってくれたけど

「好きだよ」と 耳に口を寄せて 応えてくれたけど


あばかれた花は まだ全然 色づいていなくて

私は 無言で立ち尽くすしかなかった



今なら そこからでも

いびつながらにでも

もっと 「どうにか」しようも あったと思うのに


あの頃の自分は 頭がまっ白で

全てを なかったことにしたくて

花も彼も 遠ざけてしまった


そのうち 花ははかなく枯れた

だってまだ 根さえきちんと張れていなかったのだ



あのまま 咲いていたなら

どんな花が 咲いていたのだろうと

今でも ときどき 思い出す……

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