12,高嶺さん


ボクは高額院高嶺。高額院グループ本家のお嬢様さ。

ボクは委員長にぞっこんなんだ。と言っても色恋ではなく、

女性として凛とし、学業優秀、本人は刈り上げにしたりメガネしたり服をだっさくしたりして隠しているけど、その美貌をボクは見抜いているし、いろいろ破壊しまくり、いろいろ恐れまくられたりしているその立派な女性として成り立ってる委員長が、ボクには人類女性の理想に見えるのだ。


ボクは両親や兄弟たちに羽交い締めにされても全員を「ハッ!」って木端微塵にし、電動バリカンで委員長見たいな刈り上げを強行した。虎刈りになったのは愛嬌だ。もちろんメガネは瓶底で、ぐるぐる模様もマジックで書いた。

制服は、ボクは委員長とペアに成るようにと詰め襟にした。これで竹刀を持つと、なんかカッコイイかんじがしないか?竹刀だけに、しない、とか言ったらだめだ。


こーきて、こう、こーきたら、こう、、ほら、カッコイイだろう?



委員長に興味を持ったのは随分前の、小さい頃。小学生だった。

子供がいるのに、子供だからなにもわからないだろうと、父たちは密談いている部屋でボクが遊んでるのを咎めなかった。

そのときに、”売ろうとしていたのにあんなんなりやがって売れねーだろーがっ!!”とか父が憤慨していたのが、委員長だと知ったのはその後。

父はかなりぼったくれない取引には手を出さない。なので、それだけぼったくれそうなお嬢様だったのが、どーなったんだろう?と興味が湧いた。

父に「お父様ぁー」って甘えて、その子の居場所を聞き出した。なんとボクと同じ**学院だった。



ショックだった。おボッチャまお嬢様学園と言われる**学園に、刈り上げ女子!小学生でも今時では庶民でもいないだろうというほどの完璧な刈り上げ!目には丸メガネ、いかにもダサい代名詞をもろ体現したようなその丸メガネ!服装も、男子と一緒で、しかも微妙に安っぽい!その微妙にってのが絶妙な微妙感を出している!!

(小学校は制服ではない)


なんだろう?そのショックは、ボクにとっては悪いものではなかった。

なんつーの?異次元に行きました、みたいな?


そのコーディネートの素晴らしさにボクは虜になっていたようだった。自分では気付かずに。

でも、それはボクだけではなかったようだ。クラスはいつの間にか彼女の言動を気にしていた。

彼女は目立とうとはしなかった、というより、意識的に目立つことを避けていたようだ。終業後は間髪入れずに教室を飛び出していった。後から知ったことだが、家族を養うためにバイトをしていたようだ。

小学生でバイトをしている、ということ自体がボクにとって昭和初期を思わせる異次元であり、実感できうるものではない。

だが、彼女は実践していた。

皆、彼女の家の事情を少しづつ知り始め、彼女が学園をやめねばならない日も近いのだろうと恐れていた。

誰も彼女と懇意にしていないけど、彼女は私達クラスの心の拠り所になっていたのだ。


クラスの委員決めになったとき、全員一致で彼女を委員長に選んだ。これはクラス替えになっても、中学に上がっても、高校に上がっても、彼女のクラスは全員彼女を選んだ。

気付いたら高校になっていたが、その間、彼女は家族の生活費どころか安くはないこの学園の学費、そして親の借金の返済まで自分一人で稼ぎ出していたそうだ。

皆その内容など知らないし、特に知ろうともしなかったが、「委員長ならやりのける」といつの間にか自然に思っていた。


ただ、ボクは、それを成し遂げてしまうという彼女の生き様に激しく憧れた。ここが他の生徒と違う。

ボクはお父様のようになるくらいなら彼女のようになりたい、とハゲしく憧れている。


中学時、

リーマンショックのように仕組まれた乱高下はその後何度も行われたが、その情報を彼女に渡そうと何度思ったことか。お父様はそれがある毎回、夕食時にそれを自慢するのだ、俺はこの情報を持っている、特別な階層なのだ、この国での貴族なのだと言いながら。なので事前にいくらでも情報は入った。が、彼女はそれを望むだろうか?と考えたら、躊躇してしまった。一度でもその情報を彼女に渡したら、ボクが彼女を「かわいそうに思っている」と思われてしまうのではなかろうか?そうしたら委員長はボクを避けるだろう。

クラスにはそのような情報を手に入れることができているだろう家庭の子たちは他にも何人かいた。その子達も彼女に情報を渡した気配はなかった。皆やはりボクと同じようにそれを怖がっているのだろうか。


そう悩んでいると高校に入ってしまった。


ほどなく、委員長には時間の余裕ができてきたように見え始めた。

できない子達に勉強を教え始めたのだ。放課後、学校に残るということをし始めたのだ。

彼女の家が私の父達の陰謀で破産させられてから、彼女が放課後学校に残ったのは初めてだろう。

しかも毎日だった。


普段彼女が授業中に他のことをしているのは多くのクラスメートは知っていた。

たぶん、しごとではないかな?とボクは親しい子と分析した。でもそれさえも最近は無い。

ただ、ぼーっとしていて、時折、ノートのはしにメモ書きをしている様子が見れるだけ。



思い切って、放課後に彼女に勉強を教わっている子達にきいてみた。

「なんで委員長、放課後に残れるようになったか、知っている?」

「えー、なんでもぉー、お仕事の先がかわってぇ、よくなったんだってー。外国らしいよ?10倍位のギャラになったってー」


流石私の委員長だ!!

そうだ、国内はうちの父のような者達が支配しているので、庶民は生きられるぎりぎりまで削られようとしている。

だから委員長はそれをわかって見切りをつけ、取引を海外に移したのだろう!なんてことだ!父たちはさとられないように削りに削りまくって喜んでいるというのに、彼女にはモロバレだったのだ!

しかも余裕であの浪費癖のひどいご両親様と、それが作った馬鹿の支払い(=騙される方が悪い)と言われているあの借金の山を返し続けている!!ここのくそ高い学費も!!

後日知ったのだが、学費はそんなに高くない。うちではお父様は恩着せがましく”高い学費!”を連呼していだだけだったようだ。



本来、彼女に相応しいのは生徒会会長だろう。学園を支配するのが相応しい。

しかし、生徒会会長や各生徒会の職は、生徒の親の格で決まっている。

だから彼女にとっての最高位はクラス委員長までになる。


私達のクラスの者達は、過去、彼女と同じクラスになったものたちは、彼女を誇るだろう。

私にとっても彼女は偉大な誇りだ。彼女と一緒のクラスになり、彼女を委員長に選んだのは、私達の誇りだ。


この学園に、ほとんど長髪女子がいなくなったということも、その現れではなかろうか?

この学園の女子に、プチ刈り上げが増えたのも、その現れではなかろうか?


我々が卒業し、親の世代から我々の世代に世代交代した時、我々は何をなせるだろうか?あの委員長の眼鏡にかなうような。



今日も、私は詰め襟で学校に行き、副委員長として委員長の隣りに立つ。

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