十八巡目

 宝くじの一等を二回連続で当たるようなものである。

 九蓮宝燈チューレンポートー天和テンホーを立て続けに揃えた後輩君は、たぶん人生の運を使い果たし、さらに大きな負債があるような状態だろう。


「あなたが今どういう状況かと言うと、今日の帰り道に事故に遭って死ぬ…どころの話じゃないの。とか、そういうことが起きても不思議じゃない状況なのよ。え? そんなこと絶対に起きない? あなた麻雀始めてから何回役満でアガったの? そして九蓮宝燈の後に天和でアガるなんて積み込みでもしないと不可能だと思うけど、あなたはそれを素でやってしまったわけだよね? 断言するけど何かが起こる。だから帰り道は気をつけて。ずっとずっと気をつけて。一生気をつけて。落石注意の場所とか行かないように。船とか飛行機には乗らないように。というか家から出ないように。会社…は、在宅勤務にすれば? あなたが出社したらいきなり建物崩壊するかも。あ、でもそれは家にいても同じか。まあとにかく、なるべく何もせず静かに生きるのよ?」


 言うべきことを言った後、私たちは解散した。もうこのメンバーで麻雀をすることはない、少なくとも私はするつもりはない。それは寂しくもあり、でもホッとする面もある。


 私、通算でいくら負けたんだ…?


*****  *****  *****


 帰路の途中、スマートフォンがぶんぶん震えた。後輩君からの電話だ。


「先輩! 大変です!」


 おお、早速何か起きたのか。


「今緊急ニュースの速報があって、なんか大気圏で燃え尽きるはずの隕石群が、燃え尽きずに突破してしまったみたいです!」


 本当に隕石かよ!

 お前、幸運の清算に地球ごと壊す気なのか…?


「一つ一つはすごく小さいらしいんですけど、数が多いみたいです! で、その落下予測地点が!」


 お前の家か。


「先輩の家の近くみたいなんです! 外にいたらすぐどこかの建物に避難してください!」


 え、、、



 わ た し か よ !



「じゃあ切ります! 気をつけて!」


 いや気をつけたいけど。

 周囲を見渡す。


 ここは環状の幹線道路の両脇に設けられた歩道である。高速道路ではないが片側三車線のため交通量が非常に多く、騒音防止のフェンスが道路沿い(というか歩道沿い)にずっと建てられている。


 建物があるのは、フェンスの外側である。フェンスの切れ目にコンビニがあったりするが、近くには無い。


 建物に逃げ込むためには、500メートルは走る必要がありそうだ。


 でも、まさか本当に隕石が落ちてきて私に当たるなんてことはないだろう。だって私、何もしてないし、九蓮宝燈と天和アガったのは後輩君だし。


 そんな楽観的に考える私の目の前に、何かが落ちてきて、地面に突き刺さった。


「…………」


 隕石。


 何故か四角くて、地面に刺さっているのは角のところだ。

 大きさは人の頭くらい。あと模様が文字に見える。気のせいだろうけど。


 中?


 まあ気のせいだろう。


 と、嫌な予感がして、私はダッシュでその場を離れた。すると、私か立っていた辺りに立て続けにいくつもの隕石が落ちてきた。


 危ねえ…。

 偶然じゃなくて狙われてるぞ?


 今のところ隕石は7つ確認できている。すべて似たような四角い形で、すべて文字が書いてあるように見える。気のせい…だよね?


 とにかく逃げないと。しかしどちらに逃げればいいのか分からない。


 見上げると、何かが煌めいて見えた。私はまたダッシュする。


 ずどどどどど、と隕石がまた私の立っていた場所に突き刺さった。


 洒落にならん。


 これで隕石の数は13になった。


 ん? 13?


 私は隕石の模様をあらためて見てみた。


 最初、中。

 あとは發と白、東南西北、一九萬、一九筒、一九索。


 


 これはつまり、役満の大チャンスである。


 そうか、そういうことなのか。


 これは天からのご褒美だ。これまで役満でアガったことのない私に、天が役満をプレゼントしてくれるということだ。


 麻雀の打ち手として、これほど嬉しいことはないのではないか?


 私はうんうんと頷く。それから叫んだ。


「って、そんなアホなことあるかー!」


 死んでまで役満をアガりたいとは思わない。


 しかし情け容赦なく次の隕石が飛んでくる。

 私は避けようとした。でも今度のは避けられるコースではない。ああ、結局、役満で死ぬのか、まあ死ぬ前提なら悪くない死に方である…と思いながら迫る牌を見た。



 二筒リャンピンだった。



「ぬおおおおおお、そんなんで死んでたまるかぁー!」


 私は全力で頭の位置をずらし、顔面直撃コースの隕石を避ける。


 さらに隕石が来襲するが、私はすべて避けつつ、その模様を確認した。

 全部外れ! 么九ヤオチュー無し!


 私は空を睨む。そして吠えた。


「さあ来い。今日こそは役満でアガってみせる! 私を射抜きたければ、ちゃんとアガリ牌を持ってくることだ!」


 こうして。

 私の麻雀戦史、最後にして最大の戦いが始まった。





〜終わり〜


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麻雀初心者の後輩に今日も惨敗する私 猫とホウキ @tsu9neko

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