なんでこんなに学校の時間は長いんだよ!!

ちびまるフォイ

時間圧縮で効率的な毎日を

「ええ!? もうこんな時間!? ゲームやってるとあっという間だなぁ」


時計を見ればもう深夜。

まだまだ体はゲームを求めているが、そろそろ寝ないと明日に響く。


「はぁ……。ほんと時間は不公平だ。

 ゲームの時間はすぐすぎるのに、学校の時間はクソ長い」


授業終わりの残り5分なんて途中で時計が止まってるんじゃないかと思うくらい遅い。


「やだなぁ学校……爆破でもされていないかな……」


どっかのヤバめな人が爆破予告でもしていないかと祈りながら

時間を確認するためにふとスマホを見たとき、見慣れないアプリが入っていた。


「時間圧縮アプリ……こんなのいつ入れたんだ?」


最新のゲームは予約ダウンロードしているため、

予約していたことを忘れたころにダウンロードされているときがある。

これもそのひとつなんだろう。


思い出すのもかねてアプリを起動すると、時計が画面に表示されていた。


「なんだこれ。ゲームじゃないのか?」


目覚ましのアプリかもしれないと、時刻を明日の時間に設定し「スタート」を押した。

その瞬間、カーテンから朝の日差しが差し込んでいた。


「え!? な、なんだ!?」


布団から飛び上がってしまった。

記憶喪失にでもなったのか、自分がいつ寝ていたのかも覚えていない。


時刻はきっちり自分が設定した時間になっている。


「時間がスキップした……のか?」


体には寝たことで長時間ゲームの疲れが抜けきっている。

しっかり服もパジャマに着替えてさえいる。

記憶はないし、時間が経過した感覚もないのに、その時間をちゃんと過ごしていたようだ。


「時間圧縮ってそういうことか」


秒で理解した。今度はいつもの通学時間を設定してスタートボタンを押す。

気づけば教室に到着していた。


「すげぇ! 指定した時間を一瞬で進められるのか!」


校舎の外の自転車置場には自分の自転車が置いてある。

いつものように自転車通学し、自転車を停めて教室へやってきたのだろうが

時間を圧縮したことで1秒もその記憶は残っていない。

まるで自動運転モードでもされているようだ。便利。


「1時間目は……げっ。数学か。これも圧縮しちゃおう」


大嫌いで最も時間が長く感じる数学の授業を圧縮した。

先生が教室に入ってくるや時間は圧縮され、あっという間に後片付けになっていた。


「本日の授業はここまで。ちゃんと復習するように」


もう授業終了。

圧縮してもスキップしたわけではないので、頭に授業の内容は残っている。

授業を受けていたという実感はまるでないが。


「これ最高の神アプリじゃないか!

 ようし、今度は学校の時間そのものをスキップしてやる!」


帰宅時間に合わせてスタートボタンを押した。

本来過ごす時間が圧縮されて数秒で過ぎ去り、気づけば自宅についていた。


「もう学校が終わった! こっからはパラダイスだ!」


時間圧縮の使い方を覚えてからはもう使い倒すようになった。

学校の時間はすべて圧縮して数秒ですぐに終わってしまう。


ゲームして寝て、一瞬学校を挟んで、またゲーム。

一番1日で楽しみたい時間だけを残すことができる。


「時間圧縮って最高だーー!!」


すっかり時間圧縮の魅力に取りつかれてしまった。

とはいえ、1日が24時間であることには何ら変わりがないし、学校の時間で一日の大半の時間は消耗してしまい、残ったおまけみたいな時間で大好きなゲームをする日常に変化はない。


そこでもっと1日の活動時間を増やそうと睡眠時間を削ることにした。


時間が圧縮されてなかったら睡眠不足でボロボロの体に、

学校という追い打ちをかけて死にそうになるけれどその地獄の時間は圧縮される。


これでますます大好きなゲームの時間を長く取れるというわけだ。


「あーもう! ほんと俺って天才!!」


天才過ぎてノーベル物理学賞から受賞の連絡が来るんじゃないかと思ったが、来たのは学校からの呼び出しだった。

職員室に入るとすでにキレ気味の先生が待っていた。


「あの……俺なんかしたんですか?」


「なんかした、だと? お前、自分が学校でしたことも覚えてないのか!!」


「ええっと……」


学校にいるときの時間や体験は圧縮しても体に蓄積される。

圧縮された時間の中でケガをすれば、元の時間の流れに戻ってもケガは残る。


けれど、どうしてケガをしたのかという記憶は体に染み付くほど鮮明でない限り覚えちゃいない。

誰だって今朝の雲の形なんて見てはいるけど、思い出すことは難しい。


「俺はどうして呼び出されたんでしょう……」


「お前の授業中の居眠りだよ!!!」


先生は怒りのあまり机をぶっ叩いた。


「居眠り……?」


「ここ最近授業中にどうどうと居眠りばかりしやがって!

 お前いったい何しに学校へ来てるんだ!!」


しまった、と思った。


睡眠不足のまま学校へついた俺はどうやら授業中も居眠り三昧。

けれど時間圧縮で今日の学校での記憶なんてろくに残らないから気づかなかった。


最近は学校に行ってもやけに体が疲れていない気がしたのも当然で、

圧縮された時間の中で爆睡してればそりゃ疲れることもないだろう。


「いいか、今このときは今後の人生で大きく糧となる大切な時期なんだ。

 それを居眠りという雑な時間過ごし方をするなんて先生は許さん!」


「時間をどう使おうと俺の勝手じゃないですか……」


「お前はもっと時間を大切に使えと言ってるんだ!」


濃密な説教を受けて反省したので今度は真面目に学校へ行くことにした。

数秒後にはそのことを後悔することになった。


「な、なげぇ……クソつまんないのにクソなげぇ……」


普段は圧縮により秒で終わる通学時間も今日は必死に足を動かして自転車をこぐ。

学校につけば退屈な授業を1億年くらいかけて聞かされる気分になる。


「圧縮すればすぐ終わるのに……」


2時間目が終わるころには心が折れそうになり、残りを圧縮しようかと考え始める。

でも圧縮してしまえば、圧縮された時間でどう過ごしているか記憶に残りにくくなる。

自分が怒られないように日常を過ごすためには時間圧縮はダメ。


「ああもう! なんでこんな便利なものがあるのに使えないんだ!!」


ライターが目の前にあるのに、木をこすって火を起こすようなもどかしさ。


「……いや待てよ。だったらみんなに教えちゃえばいいんじゃないか?」


そもそも自分だけが時間圧縮をしていて、他の人は意識をしっかり持った状態で日常を過ごしている。

だから誰が居眠りしていたとか小さなことにもつい気づいてしまう。


みんながもし時間圧縮を使ったらどうだ。


みんな学校の時間を圧縮し、魂の抜けた自動操縦モードになる。

いちいち誰が居眠りしていたとか気にすることもないだろう。


「そうだよ! 楽しい時間こそ長く楽しんで、

 辛くて苦しい時間こそ圧縮して雑に過ごすべきなんだよ!!」


さっそく口コミで時間圧縮アプリを広めて回った。

アプリの存在を知った人の反応はみんな好意的で「もっと早くに知りたかった!」と言っている。


こうして時間圧縮が流行れば、時間圧縮中の問題行動で

俺だけ吊るし上げられるようなことも減るはずだ。


「やっぱり俺の頭脳は国家財産レベルだな!!」


そんな俺に届いたのは国家財産として認める保証症ではなく再びの呼び出し状だった。

けれど今度ばかりは納得いかなかった。


職員室にはまた先生が待ち構えている。

しかも今度は机の上に反省文を書かせる準備までされている。


「なんで呼び出されたかわかるか?」


「わかりませんよ! むしろ説明してほしいくらいです!

 俺はここ最近はしっかり寝て授業に望んでいます! 居眠りなんてしてませんよ!!」


「ちがう。お前が呼び出されたのは居眠りのことではなく……コレだ」


先生は自分のスマホを取り出して見せた。

その画面には見慣れたアプリがインストールされている。


「時間圧縮アプリ……!」


「これをクラスメートに宣伝して回っているそうじゃないか。

 最近、授業中で雑談してもまるで学生がリアクションしないから

 なんか怪しいと思っていたがみな時間圧縮していたんだな」


時間圧縮中には本人の意識が強く反映されない。

いわば勉強をするロボットなんだから先生自慢のすべらない話もダダ滑りするんだろう。


「職員会議の結果、本校では時間圧縮アプリを禁止することにした」


「はあ!? なんでですか!! 意味がわかりません!

 勉強はちゃんとしているでしょう!?」


「そういう問題ではない」


「じゃあどういう問題なんですか!

 先生だって学校で過ごす時間は辛いでしょう!?

 仕事の時間を短くしたいって思っているでしょう!?」


「前にも聞いたが、お前はなんのために学校へ来ているんだ」


「なんのためって……そりゃ勉強のためでしょう。やりたくないですけど」


「その勉強は机の上でノートを書き写すだけのことをいうのか?」

「え?」


「学校で教えているのは社会勉強という勉強なんだ。

 友達と過ごし、人間関係や距離感を学び、嫌なことにも努力する。

 そういった人間的な成長も勉強に含まれているんだよ」


「せ、先生……!」


「だから私はけしてこの教師としての時間を圧縮などしない。

 心ここにあらずの自分なんかで生徒を導けるわけないのだから!!」


「先生……俺まちがっていました!!

 辛い時間を過ごして苦労することがプラスになることを

 ちっとも考えられていなかった!!」


「これからはもう時間圧縮なんてするんじゃないぞ」


「はい!! 俺はもう時間圧縮なんてしません!

 どんなに辛くて退屈な時間でも、ちゃんと向き合って生きています!!」


「わかってくれたようだな。それじゃ、反省文を書いて先生に提出してくれ」


「もちろんです!! 嫌な時間でも向き合う大切さをしたためます!!」


勢いよくペンを取ると、向かいに座る先生はおもむろに応接用のソファで寝転がった。


「あの……先生? いったいなにを?」




「書けるのをただ待つのも時間の無駄だろ。反省文書けたら起こしてくれ」


先生が目を覚ますと反省文が提出されていた。

体感的には時間が圧縮されたようにあっという間だった。

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