第4話 話しが違くない?

「えっ? 詩なんだけど?」


 小説だと思っていた私は、ケンから渡されたノートを見て、たじろいだ。


 私が たじろぐ筋合いは無いのだが、詩である。

 ポエムである。自分が書いたものではないが恥ずかしかった。


「いや、小説だとさ、時間がかかっちゃうじゃん?別に、書いてあるの部分だけ渡しても良かったんだけど、それだと、アレじゃん?」


(アレとは?)


「時間かかっちゃうじゃん」

「いま聞いたよ」


 小説から詩に変わったことにどうやら大した理由は無いらしい。

 理由はあったとしても、言う気は無いらしい。

 長年の付き合いから、即座にそう判断した私は、ひとまず もう一度読み直した。一回 読んではいるが、内容が頭に入って来ていなかった。

 ケンが熱い視線を送ってくる。自分の書いたモノが評価されるのだから、当たり前か。

 だが、私にとっては正直煩わしい。

 宿題をやっている最中に、大型犬がリードを咥えて宿題が終わるのを待っているようだ。


「待て」

「う、うん?」


 流石に、ワンとは答えないか。

 そこまで意思疎通出来ていたら、逆に怖い。


「分からないよ」

 私には、詩の良し悪しが分からない。


「分からない?」

「うん」

「じゃあダメだな」


 私の言った「分からない」の一言で、自分が作った作品に見切りをつけてしまった。


「ちょっと待ってよ。 ハナはまだ読んでないんでしょ?」


 読む人が読めば、良作なのかも知れない。

 それを私の一言で、駄目とされてしまうと、今まで気にしていなかったが、透明の薄いフィルムが偶然 捲れて、その存在に気がつくように、自分の言葉には、責任が伴うかも知れないと気がつかされた。


 ただ、

 –––– そんなに大げさに考えなくて良いだろう。

 –––– 透明なフィルムくらいの重さの責任だろう。

 この時の私は、ケンの遊びに付き合っている。

 そんな感覚でいた。


 私が自分の責任について、甘い見積もりを出していると、


「う〜ん、あいつはなぁ」


 ハナの意見も聞くことに対して、ケンは渋い顔をして見せた。


「ハナの意見は……まぁ、置いといて。 それより、今度はお前の番だよ。 なんか書いてよ」


「えっ?イヤだよ。 詩なんて書けないよ」


「詩じゃなくてもいいんだよ。 なんか、こう、……散文的なものでもいいから」


 自分では気がついていないが、私はタメ息をついたはずだ。


「分かったよ。 なんでも良いのね?」


 ケンは言い出したら、聞かない。

 それを知っている私は、すぐに従った。


「うん、なんでもいいよ」


 なんでもいい。

 その言質を取った私は、ここまでの経緯を書こうと決めた。

 書くと言うか、記録してやろうと思った。

 もちろん、それがケンの意図を汲んでいるとは思っていなかったが、ケンは「なんでもいい」と言ったのだ。


 それも記録してある。

 文句は言わせない。


 そう決めて、家に帰ってから ここまでの事をザラっと書いて、私はケンから預かったノートを 翌日ハナに渡したのだった。




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