最終話 襲名

「#######!」

 唸りとともに、敵が弾丸のような速さで飛びかかってきた。

 それをメイのサポートがモニターに出て動きを助けた。


「ここよ!」

 叫んだメイの口元には血が見える。限界が近いのだろう。それでも怯むことなく手を動かし続けている。


「極意その一、敵の攻撃を……」

 突き出された爪を左へ躱し、敵の背中とエクソダスの背中が平行になる。

「誘え!」

 振り向きざまの蹴りを寸でのタイミングで宙返りして回避し、視界の天と地がひっくり返る。だが感覚は狂わない。


 目を見開き、次の行動を選択する。


 施設の窓が割れ、ガラスの雨が降る中で体を捻らせた。エクソダスの頭頂部が地面を見やり、吠え声を上げる敵が見えた。空中の自分へ頭部を向け、飛びついて撃ち落とさんとしている。


 その光景に冷静さを保ったまま、ハンドガンをその逆さまの敵へと向けた。


「ここへ撃って!」

 メイの指示が出た場所へ三発、弾丸を放つ。

「その二、敵の武器破壊はしっかり狙え」

 弾丸は敵の右手に命中し、爆発した。メイは落下中もモニターの情報を更新し続けている。


「次に、その三!」

 そして怯んだ敵へ着地もそこそこに飛び込んだ。


「隙は見逃さない!」

 どんな奴でも隙があれば倒せる。


 狙うより撃って怯ませるべく、ハンドガンを乱雑に撃ち放つ。目まぐるしく動くモニターの中で、弾丸に当たり怯む敵が見えた。


 弾丸の威力では決して怯まない。だがこの距離でボロボロの装甲を狙えば有効になる。


「まだよ!」

 まだ勝ったとは思えない。


「その四、油断大敵!」

 敵が咆哮と同時に左足を振り上げ、ハンドガンを吹き飛ばした。しかしそれは予想の範疇。


「隙を晒せばそこで終わる!」

 その足の軌道から逸らすように、返しのシールドで敵の頭を殴りつけた。


「そして隙とは手足から生まれ、手足にて消すもの!」

 かつてボーンは、そう言っていた。


「##########!」

 敵は地面に足を着けないまま、片足だけでそこから飛び退き逃げようとした。


「極意の五!」

 逃がすわけがない。

 殴った勢いをそのままに、シールドと装甲を捨て一気に近づき後ろから敵機の頭を鷲掴む。そして敵のカメラと思わしき部分を指で突き割った。


「トドめに、容赦はいらない」

 敵の次の行動を許さず、その場に組み伏せ右手のサーベルから光を発振。それをコックピットへと向けた。


「確実に!」

 自分の顔がそこには見えた。


 だが、それは僕じゃない。


「シメろ!」

 誰かの顔が、光で包まれる。僕にはわからない表情をしていたが、消えてなくなった。




 獣はピタリと動きを止め、体から火花を出し始めた。施設からも火が噴き始め、巻き込まれる前にペダルを踏み、エクソダスをその場から飛び退かせた。




 着地地点の地面が重力を失っていき、宇宙へと溶けていく。施設の機能が停止していく。




「戦闘終了」

 獣は爆発することなく、散っていった。




「僕は強くなったかな、メイ」

 メイはただ、安堵に満ちた表情をしていた。



「……脱出できたよ、おつかれさま」

 ようやく出てきた言葉は、たったそれだけだった。

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