第九話 少年と少女とプラモデル

「僕には、どういうプラモデルが合うのかな」

「直球だなおい」


 パソコンでメールを打っていたボーンに、シュウはさっそく聞いてみた。


「すぐにやったほうが、いい気がして……」

「そうだな、それがいい」

 尻すぼみになった言葉を気にすることなく、ボーンはシミュレーターを指差した。

「じゃああれ、使うか」




「パイロットシート固定完了、シミュレーター起動……動作チェック開始……」

 起動させ、モニターが点いた。

「モニター始動、通信は、なし……」

「元気ないぞシュウ。やるって決めたんならハキハキしろよ」

 メイの声ではなく、ボーンの声が通信から聞こえてくるこの状況。

「いつもと違うと、なんだか、ね……」

 大きく息を吐き、仕方ない割り切ることにした。



「これまでやってきたデータを利用して模擬戦を行う。勝ち負けでどうにかなるわけじゃないから思い切ってやれよ」

 ボーンが気楽に言って、戦闘が始まった。



「反応が遅い! 回避か防御かすぐに判断しろ!」

「いきなりは無理だってぇ!」


 内容は全く気楽なものではなかった。


「衝撃はないんだ。練習なんだから恐れず飛び込め」

「でも迫って来てるし……」

「ならば飛び込めるまでやるんだ!」


 ボーンはこれまでの戦闘記録をメイに見せてもらっていたらしく、的確にギリギリできそうな状況を模擬戦の舞台にしてきた。


「怯むな! 目を逸らしたら負けだ」

「厳しいよぉ」

「ああ、メイはここまでやってないだろうからな」


 シュウの泣き言をボーンは軽く流し、次から次へと戦闘を始めた。


「これまでこの機能を使ってなかったんだろ? 使えるもんは使っとけ」

「……戦闘以外で使いたくなかった」

「気持ちはわかるが今は違うだろ!」




 これまで戦ってきた敵機と場所が用意され、シュウはボーンに乗ってそれらをひたすら相手にしていく。



「うわあ、うわあ……うわあぁぁあん!」



 戦場にひきずられ、指導に泣きながらも、シュウはどうにか食らいついていった。








「今日はこんなもんだな。またやるから体休めとけよ」

 シミュレーションが終わり、シュウは滝のような汗を流しながらシャワー室へとフラフラと歩いた。



「練習、してたみたいね」

 メイは目を覚ましており、心配そうに顔を覗き込んできた。


「それで、肝心の機体はできたの?」

 シャワーから出たシュウはメイの質問に答えることなく、毛布に包まった。


「……まだ、だけど……もう少し……」

「無理してない? 大丈夫?」

「メイほどじゃ……ないから……」


 メイがなにか言う前に、シュウは目を閉じて眠った。



 もし万が一、メイに危機が迫った時に自分になにができるのかと思うと、シュウは眠る時間すら惜しいと思えた。


 自分が力になれるのならと思うと、それだけでよくなった。



◇◇◇◇◇◇



「今日はここまでだ」

「もう少し……」

「いや、休め。まだ掴めてないのはわかるがな」


 ボーンにたしなめられ、シュウはシミュレーションを終了させた。



 シュウはシミュレーターに入り浸るようになっていた。少しづつできることが増えていく感覚が、シュウを模擬戦へと駆り立てた。


「今までやってなかったからって……」

 メイは口を尖らせていたが、今では模擬戦に参加し始めていた。



 ボーンがこの部屋に来てから二十日。シュウとメイは模擬戦を繰り返し、少しずつ成長していった。プラモデルの支給もあったが、シュウはどんな機体が自分に合っているのか掴みかねており、組み上げて試しては首を捻っていた。



「今日は俺の仲間が手伝ってくれることになった」

 ある日、シミュレーターへ向かうシュウにボーンが言った。


「それって、プラモデル?」

「ああ、模擬戦の相手になってくれるってさ。メイにも師事してくれるだろうし」

「もしかして前に連絡取ってたのって……」

「おう、そいつらだ」


 話しているうちに模擬戦が始まった。今までの戦場を混ぜたような場所に、ボーンとそれに乗ったシュウは降り立った。




「模擬戦開始……あ、誰かいるわね」


 メイの通信を聞いて、シュウはモニターの先を見据えた。



「初めまして。ホタルと申します。この度は模擬戦の相手として、ボーンより呼ばれてこちらへ来た次第です」

「私はブルース。以後、お見知りおきを」」

 装甲を手足に付けた人間の少女がモデルのプラモデルと、ヒロイックな姿をした全身が青いロボットのプラモデルがそこにいた。


「ボーンより話は聞いております。よろしくお願いします」

「今後君たちがどういった成長をするのか、私に見せてもらおうか」

 硬い挨拶をするホタルと、どことなく上から目線のブルース。



 この二体が自分たちを指導するのだと思うと同時に、ちょっとした疑問が湧いた。

「プラモデルって、ロボットだけじゃないの?」

「このホタルって女の子のは、ホントに世間に流通してたの?」

 質問にボーンは苦笑いをだけを返した。

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