これは、はるか遠くの記憶。

 姉と妹。二人はとても仲が良かった。

 手をつないで、二人で同じ場所、同じ趣味、同じ時間を共有した。


 エリザとアイラ。二人は、どんな時でも笑って、手をつないで、前向きに過ごしていた。


 エリザは黒い髪。少し釣り目の強気な姉。

 アイラは白い髪。体は弱いけれど芯が強い妹。

 二人で助け合ったり、仕事で忙しい両親と一緒にいるより、二人でいる時間の方がずっと長かった。

 双子の姉妹は、周囲からも愛され、愛を存分に受けて、元気に育った。


 そうして、世界終末は訪れた。

 七回目の、アポカリプティックサウンドが響いた。


 世界終末は、天災から始まった。大雨、津波、台風・ハリケーン、地震に火山の噴火。ありとあらゆる災害が起きた。

 すると世界は混沌として、次は戦争が起こった。経済的に苦しい国同士の争い、食糧確保のための争い。

 人間は次々に亡くなった。残った人類は、身勝手に生き残ろうとするエリートたちで溢れた。


 最後まで他人に尽くす人間もいた。その人間のお陰で、生き残った人も数多くいる。

 恨みを受けながら生き残ったエリートと、助けられた民衆は、コールドスリープや、架空世界へ逃げることによって難を逃れた。

 地上から人類が消えた。地下帝国に人間があふれかえっていた。


 二人の少女は、現実を突き付けられることになった。


  *


 意識がはっきりとし始める。

 そこは実験室だった。


 薄暗く、物もぼやけて何も見えない。

 音も聞こえない。


 でも、どこにいるかは何となく覚えている。誰かの研究所、それだけは確かだった。


 ゆっくりと体を起こすと、体に繋げられていたコードがぶちぶちと音を立てて取れていく。辺りを見回してみても、何が何だか分からない。とりあえず歩いてみようとして、足をあげて前に一歩出す。しかし、ふらついて上手く歩けない。


 ドンっと何かにぶつかった。不思議と痛くはなかった。ぶつかった部分を手で撫でてみるが、感触が無い。どこがどのようにぶつかったかもよく分からないが、あらゆる場所を触ってみても感触が無いので怪我をしたのかしていないのかすら分からなかった。


 壁に触れると何故だか安堵した。壁を伝って、出入り口があるはずだと探し始めた。


 どこかぼんやりとした記憶を探ると簡単に見つかった。エレベーターだ。これを作動させよう。目の前にある壁を手あたり次第に触れていると、突起物があることに気付いた。それを押してみる。


 すると、けたたましい音が鳴り響いたと同時に、壁は動いた。そこがエレベーターの扉だったのだ。ゆっくりと足場を確認しながら進み、上へあがった。そのとき、耳に装着している特殊なヘッドフォンから、途切れ途切れに通信が入った。


 〈……2、ナンバー……応答せよ。……02ゼロツー……〉


 ナンバー02、とそう聞こえた気がした。

 02は、エレベーターから降りると、膝から崩れた。


 「ミッション……オブジェクト、殲滅……オブジェクトの、破壊、これハ、使命……こレは」


 02の瞳から、徐々に光が無くなっていった。そうしてゆっくりと立ち上がると、先程の千鳥足から打って変わり、しゃきしゃきと歩けるようになった。目が見えているように、障害物を難なく交わしていく。02の温度感知機能は、全く機能していなかった。


 02は視認さえできないが、途切れ途切れであれど音を聞くことが出来る。その音を聞いた02は立ち止まった。音は、機械がこちらに向く音だった。


 「ナンバー02、お帰りなさいませ。」


 マリアだ。02はマリアを認識すると、一度会釈をして、通り過ぎた。


 「お待ちください。こちらが、あなたの武器になります。」


 マリアは長方形の箱のベルト部分を持って02に差し出した。02は向き直り、それを受け取ると、また目が見えているように玄関に直進した。


 玄関前で硬直している01の正面で、02は立ち止まった。

 01は、また涙を流していた。


 「……あなた、は」

 「こちら、ナンバー02。あなたは?」


 目の前の少女を認識できない02は感情のこもっていない冷淡な声でそう聞いた。


 「……私はナンバー01。あなたと同じ、使命を、担っています」


 一方、01は悲しげに答えた。


 「そうですか」とだけ言うと、02は01を通り越して研究所を出た。01も複雑な感情を押し切って研究所を出た。



  *



 02は01を無視してひたすら歩いていた。


 ミラージュを出ると、殲滅したはずのオブジェクトがまた出現していて、それを感知できる01は剣を抜いてひたすら破壊を繰り返したが、一方、02はそれを感知出来ず、オブジェクトの恰好の的となっていた。01は本能的に02を守りながら先へ急いだ。02は狙われているとも知らず、ひたすら歩く。


 「02、何故オブジェクトを無視するのですか? 危険です。」


 01は聞いた。

 しかし、02は01の方を向くことも足を止めることもせずに答えた。


 「解りません。」

 「解らない? どういうことですか?」

 「解らないのです。」


 すると、前方からコア・オブジェクトより一回り小さい大きさのオブジェクトが出現した。奇怪な羽を持った鳥類系オブジェクトだった。羽をばたつかせ、咆哮する。


 「02、あなたは逃げてください。」

 「……」


 応答しない。


 「BD02!」


 その間にも、オブジェクトは攻撃を仕掛ける。自らの一部である部品を羽根の礫として二人に降らす。


 01は動かない02を抱えて飛んだ。重量的に人一人抱えて飛ぶことは困難なので、すぐに着地した。


 その刹那、02はゆっくりと背負っている箱のボタンを押した。


 「ダメです、02。相手が悪すぎます。銃をしまってください。」

 「BD02、これよりUMP9、作動します。」


 02は座り込んでオブジェクトの心臓コア部分を狙った。コア・オブジェクト以外のオブジェクトの心臓コアは別段大きいわけではなく、硬くもない。銃であれば命中さえすれば必ず割れるし、剣であれ気負う必要もなく壊すことが出来る。


 「発射」


 連射される実弾はオブジェクトに向かっていく。確かに当たっている。だが、コアには届いていなかった。


 01はそれを見兼ねて剣を握り締めて走った。スピードを上げ、思い切り地面を蹴り上げる。飛躍してそのまま振り上げ、オブジェクトを貫いた。ちょうどコアの部分にも当たったようで、オブジェクトは悶えながら霧散した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

レゾンデートル oyama @karuma_samune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ