第2話


 今はテスト期間中だから部活もない。放課後になるとみんな一斉に帰宅する。


 女子グループもひとかたまりになって、キャッキャと無駄話をしながら下校することになっていた。

 メンバー全員の準備が終わるまで、みんなは輪になって話に興ずる。その輪は、サヤカを意図的に締め出す形で閉じられていた。


 サヤカははあっとあからさまに溜息をつくと、心なしか声を張り上げて言った。


「わたし、先に帰るから」


 誰一人として、振り返りもしない。

 サヤカは凛と背筋を伸ばして、輪から外れていく。


「あ、ユイナ。こっちおいでよ〜」

 グループの一人があたしに声をかけた。

「うん、ちょっと待って」

 荷物をまとめてグループのもとへ向かうあたしと、サヤカの目が、合った。


「……じゃあね」


 サヤカは言って、微笑んだ。


 あたしは身の毛がよだつ思いがした。


 ──あたしに話しかけないでよ!?


 あんたと喋ったら、あたしも同類だと思われちゃうでしょ!

 あんたは一人でも生きていけるんだから、これ以上あたしと関わらないで。

 それとも、あたしがターゲットにされてもいいっていうの?


 あたしはプイッと顔を背けた。怒りで頭が沸き立っていた。サヤカなんか、もう知らない。こんなに空気が読めない子だとは思わなかった。


 あたしが無言で通り過ぎる時、サヤカの笑顔が急速に萎んでいくのが見えた。ざまあみろと思った。


 グループはまたしてもくすくすと笑っている。


「ねえ、今アイツに挨拶されたよね?」


 「アイツ」。サヤカにはターゲットととして正式な名前がついたということだ。

 あたしは憤然と頷き、小声で返す。


「された……。ちょっと、ありえないと思う」

「迷惑だよね。分かんないのかな?」

「分からないんだよ。ココがイカレてるから」


 メンバーの一人が人差し指で頭を差した。忍び笑いが広がった。

 それから女子の一団は、ぞろぞろと校舎を後にした。住宅街に出て、踏切にさしかかると、運悪くサヤカが足止めを食らっていた。


 くすくすくす、サヤカに聞こえるように笑う女子たち。道路に広がり、サヤカからかなりの距離を保って、電車が通り過ぎるのを待った。

 遮断機が開くと、サヤカはつかつかと先に行ってしまった。


 でも、不運は続いた。

 みんながそれぞれの帰路について、あたしは一人で歩いていた。


 あたしの帰り道には、急な上り階段がある。その一番上で、サヤカがあたしを待ち伏せしていた。


 あたしは無言で通り過ぎようとした。これで意思表示になると思った。あんたとはこれっきりだという。


 ところが、よりにもよって、サヤカはあたしの腕を捕まえた。

 ゾワッと鳥肌が立った。


「ねえ、ユイナ」

「イヤッ。触らないでよっ」

「わたし、あなたに嫌われるようなことしたかな」

「離してったら」

「ユイナ」

「いい加減にしてっ」


 あたしがちょっと力を込めて振り払うと、サヤカはバランスを崩した。


 その時サヤカがどんな顔をしていたか、思い出せない。


 宙に仰向けに投げ出されたサヤカは、石段に叩きつけられて、勢いのままごろごろと転がり落ちていった。真っ赤な跡が、軌跡を描く。最下段に辿り着いても勢いは収まらず、道路にまで転がって行って──ドシャッ、とトラックに轢き潰された。


 あたしはその惨劇の一部始終を、凍りついた目で見ていた。

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