第12話 受け取ったもの


 そして見ていた夢は切り替わる。

 膨大な知識と知恵に続いて、卑弥呼さまからの意識が、シオンの頭の中に一方的に入ってくるのを感じていた。

 こちらから話しかけられないのは、これが保存されていた記録だからに違いない。


「『えにし』により、あなたが私たちの力を受け継ぐ者ね。私は卑弥呼。呪術者であり、神に仕える巫女でもあるのよ。だからみんなからミコって呼ばれているの」


「あなたには、私たちの知識と技を与える事にしたのよ。これには秘密があるので、今の時では、与えられるのはあなた1人だけ。それに残念な事に、私たちの技術者がこちらの世界に来ていないの。だからいろいろな鉱物の加工や技術は与えられないのだけど。その件については謝るわ」


「私の仕える神からの神託によると、あなた達には避けられない災いがあるらしいのよ。ても、前を見て進んで。あなたの側に私たちは存在しないけど、あなたは倭人。神に選ばれし人属なのよ」


 シオンが、卑弥呼さまから聞いた話は、要約すると殆どが神話であった。

 かつて倭の国の邪馬台国という国を治めていた、卑弥呼の話である。

 とても貴重なはなしだった。


 倭の国は鎖国していて、他の国との接触をしなかったのだが、呪術師である卑弥呼が治める時代、周辺諸国に争いが起こった。

 邪馬台国は、攻めてきたゲルマン国から、自国の防衛をする事が急務となったのである。


 国の内部で、緊急の話し合いが行われ、防衛を兼ねて敵を殲滅することが決定したため、神の船である〔天の磐船〕を起動することとなった。

 その操縦には神降ろしができる呪術師が必要であり、当然のごとく卑弥呼の出番となる。


 攻めてきたゲルマン国と攻防戦となり、双方の神具の力が暴走した結果、神の船である〔天の磐船〕は制御不能となり時空を超えてっしまったそうだ。そして、この地へ不時着したらしい。

 そして、神の船はその機能を失った。

 そんな国から転移してしまった卑弥呼一行は、あらゆる方法を試してみたのだが、元の地へ帰るに帰れず、この地に骨を埋める事にしたそうだ。

 この地の人と交わり、知恵を未来へと紡ぐ。

 それがこの里の始まりになったらしい。





 卑弥呼の治める倭の国は、島国であり、世界の理想の地でもある。

 その地が完成するところへ至るまでが、神話であった。

 おとぎ話としてもよく出来ていると思うほど信じられない内容だ。





 何もない空間に神が生まれた。

 神は神言を使い、何もなかった空間に色々な星々を作った。

 そして神は何もない空間に、物質界を作り、そこから様々な神々を作り出して世界を構築していったのである。


 その中で青い水の星を与えられた神は、星の上に巨大な島を作り、植物をあらゆる場所にばら撒いて、その神の思う理想の星に作り変えていった。

 空気が澄んで多彩な植物が繁茂する中、その捕食者として様々な動物を作り出し、神の眷属にそれを管理させたのである。

 その眷属が人である。


 神は気がつかなかったのだが、そこに悪意も生まれていた。

 他の星々の神が産み落とした者たちが、紛れ込ませたのだ。

 大きな力を持つ神には、小さな事はわからない。


 神が、僕としての人を形作った時に、その本質面で何度も失敗を重ねた。

出来上がった人は、紛れ込んだ悪意が関与して、神の理想から離れた人にしてしまっていたからだ。

 そんな事もあり、星には、シュメル人やモンゴアンなど、ありとあらゆる失敗した人が暮らし始めている。

 それでも神は諦めず、好戦的だったり、選民思考や傲慢さを取り除いて、やっと神のしもべとしての人を最終的に完成した形になる。


 それが倭人であり、本質的に思いやりと知恵に満ち温厚で優れた人種なのである。

 神は倭人を人々を導く存在として位置付け数々の神具を渡した。

 倭人は神具だけでなく、言葉の力を操り、星を読み、風を使う。


 倭人は祝詞により、神に感謝と祈りを捧げ、神は倭人に加護と祝福を与えてくれる。

 倭人は捧げ物とともに、譜を歌い舞を舞って神を楽しませ、それは神楽と呼ばれた。

 これを喜んだ神により、祝詞と舞には邪を祓う力が与えられ、それが倭人の技の1つとなった。


 そして神は、時折神託を与え、決定した未来の出来事と倭人のするべき事を伝えるのだ。


 初めは倭人も神の教えに従い、他国の人間に知恵を授けていたのだが、他国の者たちが、神の失敗作であるために、争いを好み、恩を感じず、自己主張ばかりで害をなすばかりだったばかりか、授けた知恵を悪用するので、とうとう鎖国をして他国との付き合いをやめたのである。


 その頃の世界は、ヲシテ文字を使用する倭人の邪馬台国とルーン文字を使用するゲルマン人のゲルマン国が中心であり、その周辺に象形文字や楔形文字を使い始めたばかりの蛮族の国々が存在していた。

 倭人が神により作られる前は、ゲルマン人が人々を導く立場だったのだが、ゲルマン人があまりにも好戦的なため神は見放したのである。


 倭の国とゲルマン国は優れた国家であるが、周りが蛮族ばかりなのでどちらも鎖国をしており、独自文化へと発展していたのであるが、何を思ったのかゲルマン国は突然世界統一を宣言し、神具を使ったその圧倒的な戦力で各国々に攻め入って属国にしていったのである。

 そして倭の国は防衛のために〔天の磐船〕で迎え撃ったのだ。


 この倭の国にある倭人の末裔が治める邪馬台国は、ヲシテ文字を使って呪術を極めていた。

 ヲシテ文字は表語文字であるので1字毎に意味を持つ。

 この文字を規則に従って並べる事で術を発動できるのだ。


 この文字が優れているのは、表音文字として使う事ができ、五文字と七文字の組合せで並べれば呪文として成り立つらしいのである。

 それが譜である。

 言葉は力を持つし言葉は光であるのだ。


 実際にあの神社では自称神を岩に刻んだヲシテ文字で封じていた。

 また、この里の数々のお地蔵様には里を護る文字が彫られていて、それが全部で里を護る巨大な呪印になっているらしい。

 そのために魔獣はこの里を恐れて近づかないそうだ。


(ヲシテの呪印とルーンの魔方陣か。それに呪術と魔法。独自文化とは言え似ているな。この世界へ飛ばされたのは倭人だけではなかったらしい。だからルーン文字があるのだと思う。長い年月の間に呪術は封印され、魔法は広まった。それにはどんな訳があるのだろう)


 ラタカナからどうやって帰ったのかもわからないが、シオンが気がつくといつもの寝ぐらだった。






 翌日。

 昨日までのことが、まるで夢だったように全く違和感を感じない。

 シオンの記憶に間違いがなければ、卑弥呼さまから沢山の物を貰ったはずである。

 現に、この廃村の所々に存在する祠の復旧作業に取り掛かったのが証拠だ。


 何となくだが、壊れているのを放置しておくのが我慢できなかったのだ。

 石を削るための、ノミと金槌はあるので、消えかかっていたヲシテ文字を刻み直す。

 祠はこの村に数多く存在するが、村を、外部の邪悪な意志から守る結界を形作る重要なものだ。

 今は、この村自体が忘れ去られているためか、直接この村に向けられたものはない。


 呪術には、呪いと結界、使役、占いがあるようだが、今の所役に立ちそうなのは、式神くらいだ。

 だが、今のシオンの経験レベルでは、1つの小さな式神を作ることさえも難しい。

 できることといえば、この地の呪法の復元をすることくらいである。

 その中には、あの、自称神の神社も含まれているが、意図的に後に回した。


 今まで、何となくこなしてきた、早朝の武術訓練だが、かなり改善しないとならないのだとわかる。

 動きに無駄が多く、力に頼る部分も大きかったのだ。

 確かにこれは、シオンの領地のコオタたちを含め、父に連れられて行った王都でも同じだった。

 シオンの知る限りでは、力任せの技が大半を締めていたため、体格の良い者が猛者として讃えられていたのである。


 シオンの目指すべきは、卑弥呼の舞の優雅で流れるような動きである。

 式神作成は、毎晩寝る前に訓練することに決め、早朝訓練は、舞の動きを真似ることだ。

 幸いにも、舞のイメージは、シオンの頭の中に存在していたのである。

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