第23話

タスマニアさんが由有子と初めて会った時からの回想です。



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私はタスマニア、とある商会での会頭をしている。

規模としてはこの王国で5本指に入るくらいだと自負しているがTOP3がかなり大きな商会なので実際は中規模商会という所なのをなんとかしたいと思って躍起になっているところだ。


しかし、最近いつも泊まる宿が空いておらず料理がマズいと有名な宿に泊まったのが幸運だったのだから人生は面白いものだ。

たまたま居合わせた母親が料理を娘のために厨房を借りて自分で作ると母親が交渉しているのを見て正直コレより美味いものだったら私の分も作って欲しいと思いつつ酒をチビチビ飲んで空腹を誤魔化していたのだ。

そんな中彼女が娘に作ってきた料理はとてもいい匂いがし、つい我慢が出来ず自分にも何か作って欲しいと頼むと、隣の席の冒険者の女の子が自分にも作って欲しいと便乗して頼んでいた。

その母親は私らの頼みに食堂にいたほとんどの人から自分もと頼まれて困惑していると宿屋のオーナーの爺さんまでも頼んでいたので断れなかったのだろう、同じ物は作れないと思うが、ある材料で作れるものを用意してくれた。


サッと作って出てきた物は“フライドポテト”と言う物で要は揚げ芋だったのだがコレがまた美味い!

酒飲みが多かった事もありまずツマミになる物をと言う心遣いもまた素晴らしい。

その後“チーズフォンデュ”とやらとステーキなどが出てきたがどれも王都で食べた高級料理店より美味かった。素材は対して良いものでは無いのに…


普通の宿屋の料理が銅貨30~50枚が相場だが、ここは銀貨1枚払っても良いくらいだ。

素材がもっと良ければ金貨を払って食べれるレベルかもしれないがここで私が金貨を出したら周りが困るだろうから彼女には別の形で後日なにかお礼を考えることにしよう。

翌朝もねだって作って貰った料理は美味かった!


その後彼女、ユーコさんはあの宿屋『精霊のヤドリギ』に住み込みの料理人として働き始めて連日食べに行く事となったり、お付きのロンを料理人として育ててもらえることになって預け将来は王都で料理店を開かせる事を楽しみにしつつあの町に行く用事を作ってはせっせと通っていた。


そんなある日、町に滞在している時商会にロンが小さな包みを大事そうに持って駆け込んできたのだ。

「会頭!大事件です。スグに2人だけでお話があります。」

ちょうどこの町の支店長と打ち合わせをしていたのだがあまりの勢いだったので別室に移り話を聞くことにした事に後で自分でも褒めたいくらいだ。


「それで?大事件とは?ユーコさんに何かあったのか?」

「あ、いえユーコさんにというか、ユーコさんがです。コレを預かったのでまず舐めてみてください。」

大事そうに抱えていた包みを差し出し舐ろという。

わけも分からず包みを開くとそこには茶色い塩のような物が入っている。

まぁ見た目で判断できない何かがあるのだろうと言われた通りに舐めてみると塩ではなく“砂糖”だったのだ。

「まさか、」

「そのまさかです。目の前で完成する所を見ました。」

私がまさかユーコさんが作ったのか?と思い呟くとロンは真剣な顔をして答える。

「ユーコさんからの伝言です。コレについて話したい事がある。との事でしたので時間がある時に宿にいらしてください。」

なんと!貴重な砂糖を自分で作り出しその上その砂糖について相談をするという事はこれは急がねば、この商機を逃すなんて大バカ野郎のする事でしかない。

そうして私は支店長との打ち合わせは延期、しばらく出かけると近くにいたスタッフに叫び宿屋へ走り出したのだ。


ユーコさんとの話を終えて次は領主館に急ぐ、コレは時間との勝負だと思う呑気にことを構えていたら誰かに嗅ぎつけられる恐れもあるしとにかく確固たる後ろ盾も必要なのだから、幸いここの領主様は話のわかる方で仲良くさせてもらっているし、ウチのロンと同じく領主のマイク様もウィスター君をユーコさんに預けている仲だ。


マイク様に、ユーコさんについての火急の用件と伝えたところ、すっ飛んで来てくださったのには少し笑ってしまう。

「それで?ユーコさんに何かあったのか!?」

うーんさっき私もロンに同じ反応をしたな。

「はい、彼女がとんでもない事を成し遂げてくれました。」

そう言って私はロンから預かった小袋を渡し、舐めてみるよう伝えた。


「こ、これは…」

まぁそういう反応になると思う。この砂糖は今までのモノより雑味が少ないのだ。

「はい、とても上質なものだと思うのです。」

これを彼女が作ったことを伝え、将来的には大量生産をとユーコさんが考えている事も伝えた。


「ふぅぅぅ、彼女は本当に凄いな。いったいなにものなのだろうか…」

そう、以前からマイク様とは話していたが彼女が持っている知識や教養の水準が高いのと、こうやって新しい料理などの事をどこで知ったのかと言う事は話していたのだ。

「そうですね。しかし、周りを幸せに豊かにしてくれますが悪いことをする訳では無いのでやはり詮索せずこのまま陰ながら応援と保護をしていきましょう。」

「そうだな、タスマニアも出来る限り出良いから彼女の事をよろしく頼む。」

「私も出来る限りのことはさせていただきます。なによりユーコさんの料理が食べれなくなるのは困りますからな。」

「まったくだ!」

その後私たちはユーコさんの為に出来ることは何かと話し込むのであった。

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