第19話

「やぁ!お嬢さんこの宿屋にいる噂の料理人はどんな方かおしえてくれるかな?」

私がフロントで今夜の予約を確認していると、オーラ全開の金髪イケメンさんが宿に入ってくるなり声をかけてきてくださるが、この世界の服装とかよく分からない私でも分かる気がするほどのお忍びできた貴族様という出で立ちなのよね。

「どんな噂かは存じませんが、この宿の料理を担当しておりますユーコと申しますわ。」

礼儀作法もよく分からないし相手もお忍び?のようなのでここはニッコリ微笑んで誤魔化してしまいましょう。


「なんと、このような少女が!?」

日本人は欧米人の中に混じると幼く見られると言うけれども、実はここでもよくあるようで20歳以下に見られることも少なくないのよね。

私もう26歳なのに。

「ふふ、こう見えて成人して10年ほどは経ってます。」

この世界の成人は16歳なのだが、20歳くらいまでは少年少女(半人前)扱いのようで20歳過ぎたくらいから1人前と認めてもらえるそう。

「なんと!コレは大変失礼をした。私はルッカ・ドン・ジョバンニ、よろしく頼む。」

「はい、ジョバンニ様、それで、コチラにはお宿に泊まりに?それともお食事のみでしょうか?」

宿泊したいと言われてもシングル部屋が1部屋しかないので後ろで黙っている2人のお次の人?は泊まれないのよ。

「なんと、この宿は食事のみを受け付けているのか!」

「はい、宿屋が満室で泊まれなかったお客様がせめて料理だけでも食べたいといらしたり、住民の方がいらっしゃいますので。」

まだ料理だけの方は1席空いている…それよりも個室の予約は今日はない事だしこの方々にはそちらに案内した方が他のお客さんの事も考えるといいのかもしれないわ。

「噂の料理はそんなに人気なのだな!それならば食事のみでも良いだろうか?何人まで大丈夫かい?」

「食堂はあと1席だけですので4名様まで、後は個室料がかかってしまいますが10名様まで入れるお部屋がひとつございます。」

以前作った個室はロン君とウィスター君が居てくれるので常時使用可能となり今ではほとんど予約で埋まる人気ぶりでそこそこ身分の高そうな方々もいらっしゃっているが、今日はたまたま予約がないので案内することができるわ。


ここの個室料は元々客室を潰して作ったので宿屋の主人であるキリスさんに渡している。

最初は要らないと断られたのだけれども、咲百合を奥さんのミチェさんにお願いしていることもありお礼も兼ねていると言って受け取ってもらっているわ。

「それでは、個室をお願いするとしよう。人数は私を含め7人で頼む。」

「かしこまりました。お食事開始は夕刻の金がなる頃で個室料が銀貨2枚、お食事がおひとり様銅貨50枚ですので合計銀貨5枚と銅貨50枚になりますわ。」

値段も聞かず即決するという事はやっぱり貴族の方のお忍びのようね。

後ろにいる護衛?の方がスっと銀貨6枚を出してきたのでお釣りを用意しようとすると、

「お釣りはいらないよ、それではまた夕刻お邪魔するのでよろしく頼むよ。」

ジョバンニ様は爽やかな笑顔でそう言うと颯爽と宿をあとにするのを見送り私は急いで厨房にもどりロン君とウィスター君に追加予約のことを伝え個室の支度に向かう。


ジョバンニ様にはなんとなく今後も縁がありそうな気がするのよね、せっかくだし特別メニューにする事にしようかしら。

前菜にウーコッコを蒸し鶏風にしてワインビネガーでドレッシングを作り茹で野菜を添えて、スープはコンソメベースの野菜スープはいつものを、メインディッシュはミノタウロスのステーキを試行錯誤してアイテムボックスで熟成させておき、パンは天然酵母で作ったモノを用意しデザートにクレープ風の生地に木苺ジャムを重ねてミニミルクレープぽく仕上げたモノを用意したわ。


ちなみにミルクレープ風のはアンナさんがちゃっかり味見して夕食後に食べたいとリクエストされたりもしたわ。


ちょっとコース料理を意識した感じにしてみたものの上手くいくのかがちょっと不安だわ。


「ユーコさん、ジョバンニ様が個室に入られました。」

ウィスター君が厨房に顔を出して声をかけてくれる。

今日はホール担当はウィスター君の番で毎日ロン君と交互に厨房とホールの仕事をこなしてくれているのだけれど、ココはやはりホールは別に人を雇う方が彼らにとってもいいのかもしれないわね。

お給料は私が出している訳では無いから尚更料理の腕前が早く上達するようにしてあげなければ行けないわ。


「ウィスター君ありがとう。先にお飲み物をお出ししておいてね。」

さっ、マズは前菜は既に出来上がってアイテムボックスに入っているから出して持って行くだけだからいいとして、次のスープは他のお客さんと同じモノだからスグに出せるので、ひとまずスープをだし終わるまでは食堂のお客様の料理をさっさと終わらせてしまいましょう。

私はひとまず目の前のオーダーを捌くことに集中することにしたのだった。


実は由布子の予感はあながち外れてはおらず、この後ルッカ・ドン・ジョバンニとは何かと縁が続くのはサンクートのみが知ることだったりする。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

あら?あの彼と由布子、なかなか相性いいじゃないの!

ちょっとドキドキしちゃう展開とか楽しみだわ!

由布子達は知らないがサンクートは娯楽にも飢えているのだった…

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