第18話 ピンクの願い

『あなた~、ごはんにします~、お風呂にします~、それとも……あん、ダメですぅ♡ え? どうして裸エプロンかって? んもぅ……だって、私があなたの一番の大好物かと―――』


 美人のお姉さんが裸エプロンで男性に後ろから……おぉ、揉まれて、丸見え!


「あ、す、すごいよぉ~! うわ、こ、うわ、こんなに!」

「女性の方もなんて淫らで……あぁ、こんなに……」

「し、信じられない……んもう、なんなのよぉ!」


 セカイくんがアネストちゃんに提供したアダルトメモリー魔水晶に映し出されるヤバいシーンを見ている私たち。

 もう、今の自分がどんな顔しているかとか周りとかそんなの気になんないというか……


「なぁ、オレンジ。ピンク。お前らも力貸すなら、何かくれてやろうか?」

「うぇええ、そ、そうなの? うは~、どうしようかな~……」


 うん、私も色々と興味津々な女の子だもん。ムッツリなアネストちゃんじゃなくたって、こういうの興味あるもん。

 いつか彼氏ができたりとかして、こういうイチャイチャラブラブだって……好きな人となら……


「いらないわよ! 変態じゃないんだから」

「ちょっ、ディー! そ、それでは貰う私が変態みたいではないですか!」

「十分そうよ!」

「違います! こ、後学のために……それに、メモリー魔水晶も時空間魔法も希少ですし、貰ったり、覚えたりするのは決して悪いことではないです!」

「うっ、たしかに時空間魔法は……服とか雑貨とか色んなものをいつでも好きな時に取り出せるって便利だけど……」


 えっちぃことにはまだ抵抗があるディーちゃんだけど、それはそれとしてセカイくんが教えてくれるという時空間魔法には惹かれている様子。

 うん、来月までのグループワークを真面目にやることと、そしてクラスのみんなにもやる気を出させるのと引き換えに……う~ん、おいしいかも……


「まぁ、でもアネストがクラス皆にやる気を出させるよう頑張るって言うなら私も協力するわよ」

「あ、それもそうだよね!」


 うん、それは当然。見返りは関係なく、友達としてそれは当然だよね。

 でも……


「でもさ~、セカイくんさ~、私も~見返りもちょこっと欲しいかな~って」

「確かに、今のままだとアネストだけ魔法とエロスなアイテムばかり貰えてるし……あんたは私たちに見返り払いなさいよ」


 うん、それはそれ。これはこれ。

 アネストちゃんには協力する。無償で。だって友達だもん。

 でも、セカイくんには有償で♡ 友達だけど、ソレはソレ♡



「お前らもエロ本とかでいいのか?」


「「せっかくだから違うの!」」


「じゃあ、お前らの欲しいものはなんだ?」



 うん、エッチ本もメモリー魔水晶も魅力的だけど……いや、友達相手に見返り求めるってのもどうかと思うけど~、でもせっかくだしね~

 で、欲しいものか~。う~ん……



「欲しいもの……彼氏? うは~、な~んちゃって。セカイくん勘違いしちゃだめだよ? 勘違いして、『俺がお前の彼氏になってやる』とか言ってそのまま制服脱がされちゃって……あっ、でも、そうなるとアネストちゃんに悪いから……二人同時に? でもディーちゃんだけのけ者だと可哀想だから……えええ、ランボーパーティー!? わたし、大人の階段上り過ぎだよぉ!」


「ちょ、な、なんてことを口に出しているのですか、シャイニ! どうしてそんな発想になるのですか!? だいたい、私に悪いって何ですか! そもそも私は二人同時なんて嫌です! 初めては二人っきりが……って、そうではなくて!」



 あ、やばい。声に出してた。つーか、私もアネストちゃんもかなりきわどいこと言って――――


「で、このビッチ二人は置いておいて、お前はどうすんだよ、ピンク」

「う、う~ん」

「なんでもいいぞ?」


 おお、スルーされた!? セカイくん、この手の話題にアタフタしない!?


「なんでもって……それって、何でもは無理でしょ?」

「あん? 俺のコネを甘く見るなよ」

「じゃ、じゃあ………『虹色アイスケーキ』……なんてムリよね」

「は? 何それ? 帝都に売ってんのか?」


 っと、そこでディーちゃんが真面目な見返りを口にしてた。


「ううん。帝都じゃないわ。海の向こうの大陸……トティモトーイ王国にいる、世界最高と名高い職人が作り出すケーキよ」

「ほう」

「その噂は海を越えた帝都まで届いているけど……王国限定なのよ……それを、パパとママと一緒に食べたいの」


 それは、ディーちゃんが小さいころからずっと食べたいって言ってたケーキだ。

 いつか旅行で……って話だったけど、おじさんもおばさんも忙しいから、海を越えた長旅はできないってことで……


「かっかっか、そんなもんでいいのか。海の向こう? そんなもん、取り寄せりゃいいんだろうが! へい、マスター! 応答せよ!」


 そして、セカイくんはまた『例のマスター』とやらに念話を始めた。

 たぶん、楽勝だと思ったんだろう。でも……


「え? 無理!? なんで!?」


 そのマスターさんの声は聞こえないけど、ムリって返答が返ってきたみたい。


「なに? ……アイスだから溶ける? そんなもん凍らせたら……なに? 氷結魔法を使うとスポンジの味が損なわれるからという職人のこだわりで配送されてない? じゃあ、その職人連れてくることは……年寄りで足が悪くて移動できない? 弟子もいない!?」


 そう、そういうことなんだ。



「そういうことよ。そのアイスケーキはその国に行って出来立てを食べないとだめなの。配達もできないし、出張の営業もされてないし、レシピも門外不出。だから帝国で食べることはできないのよ」


「……ちなみにその国ってどれぐらいの距離なんだ?」


「そんなことも知らないの? 船で往復一ヶ月」


「い、いちっ!?」



 そう。私たちと同じで忙しい勇者のお父さんを持つディーちゃんがご両親と一ヶ月も旅行なんて無理なんだよね。

 だからって、一人で行くわけにもいかない。


「ちょっとイジワルだったわね、悪かったわ。まぁ、何か奢ってくれれば私はいいわよ。メンドクサイけど、アネストのためにも協力するわ」


 ちょっと溜息吐いて、ディーちゃんは行っちゃった。

 無理だと分かってても、少しだけセカイくんに期待しちゃったのかな? と思う。


「……ぬう……何か今、すごいガッカリされたような気がするが……」

「そ、そんなことないよ、セカイくん!」

「そうです。ディーも無茶だと分かっていたと思います。だから、セカイは気にしないでください」


 セカイくんも「何でも」と言っちゃったことからも、少し悔しそうな感じ。

 

「そんなに、そのケーキがいいのか?」

「う、うん。まぁ、ディーちゃんが小さいころから食べたいって言ってたから……食べたらみんな幸せになるって噂で……」

「そんなこと、ありえねぇだろうが。それなら人間も魔族もそのケーキ食えば戦争無くなるだろうが」

「あははは、だよね……でも……うん、最近はそういうのにも……うん。まぁ……うん……色々とあるんだよ」


 ここから先は言えないよね。

 いくら友達でも、人の家庭の話だもんね。

 最近、ディーちゃんのお父さんとお母さん、あまり仲が良くないって。

 家でも話さないようになっちゃったって。

 ディーちゃん自身も魔法騎士には将来なりたくないってことで、色々とあるみたいだし。

 でも、そのケーキを家族で食べたら、ひょっとしたら……っていう、藁にもすがる思いが……


「まぁいい。いずれにせよ、そのケーキをどうにかすりゃ、あいつも本気出すんだな?」

「え? ま、まぁ、そうなると思うけど……」

「よし。ソッコーでワープでも覚えるか……確か時空間魔法の応用でできる……はず。よし!」

「はい?」


 なんか、急にセカイくんの目がメラメラと燃えて、スゴイやる気出しちゃってる?

 そして、セカイくんは走り出してディーちゃんを追いかけて……


「待て、ピンク!」

「……ッ!?」


 そして、ディーちゃんの手首をガっと掴んで……



「お前の願い、叶えてやる! その望みを叶えることで、お前が本気を出してくれるなら、俺が必ず何とかしてやらぁ!」


「セ、セカイ……」


 

 わぉ……男らしい……。いつものディーちゃんならこんな風に男の子に触れられたら「触るんじゃないわよ、変態!」みたいに跳ねのけるはずなのに、ドキッとした顔してる。

 うん、分かるよ。

 こんな男の子と、今まで出会ったことないもんね。

 


「そ、そんな無理しなくても……大体、どうしてそんな……」


「将来、本気を出して成長したお前と共にあるためにだ!」


「は、……はっ!? しょ、将来!?」


「俺はそんなお前に認めてもらうためにも、期待に必ず応えてやる。だから、俺を見ていろよ?」


「は……あぅ……は、はい……じゃ、なくて、別に私は無理しなくてもいいって言ってるじゃない! っていうか、言い方! 大げさすぎよ! 勘違いするじゃない!」



 一緒に戦うためだよね!? 

 魔王軍と一緒に戦うためにだよね!?


「……セカイ……誰にでもそういうこと言うのは……むぅ……」

 

 いや、私も分かってるけども、ディーちゃんも分かってるはずだけど顔が真っ赤っかで、アネストちゃんはちょっと「む~」とむくれてカワイイ!

 っていうか、ディーちゃんは魔法騎士にならないんだけど?

 でも……


「いや~……なんかすごいや……セカイくん……」


 無理なはずなのに、なんか何とかしちゃいそうな感じがする。

 

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