第2章 捨てられた少女

第9話 風車の町

 伊織たちが水郷村から大和皇国に向かった時、一人の少女が寝転がっていた草原の地面から起き上がった。その少女は背中にかかる長さの輝かしい艶がある金髪をしており、身長は伊織より少し小さい百六十五センチのカジュアルな服を着ている。スタイルは鍛えているのか引き締まった身体をしているようで、出るところは出ている。


 その少女は二重のパッチリとした目元と、スッキリしている鼻筋が特徴の可愛らしい小顔をしている。少女の頬に優しく触る優しい風を身に受けながら空を見上げた。その空は雲一つない快晴の空であり、腰に差している剣の鞘に太陽の光が反射していた。


「聞いていた男性が村に現れたようね……私も動く時が来たのね……」


 少女は立ち上がると、腰に差していた剣を鞘から抜いて空に向けた。


「私は必ず未来を掴む! もう泣いたりしないわ!」


 そう快晴の空に向かって宣言をすると、少女がいる草原に数センチ宙に浮きながら慌てて誰かが訪れていた。


「愛理ちゃーん! 愛理ちゃーん!」


 少女の名前を呼ぶ人は背中に白い綺麗な翼を二枚生やし、少女と同じカジュアルな服装をしていた。


「どうしたのルイちゃん? そんなに慌てるなんて珍しいわね」

「どうしたのじゃないよ! 勝手に町からいなくなって町長が怒ってたよ!」

「マジで!? うわぁ……また怒られるの嫌だわぁ……」


 愛理は綺麗な金髪が地面に触れる程に落ち込んでいた。ルイと呼ばれた少女は青色の髪色の短髪をしており、抽象的な顔をしている。ルイは愛理に早く帰ろうと言うと、草原の奥から一匹の巨大なイノシシが現れた。そのイノシシを見た愛理は、これを手土産に帰りましょうと喜んでいた。


「いやいやいや! 逃げようよ! 危ないって!」


 ルイが愛理の肩を掴んで前後に揺さぶっていると、愛理が離れてとルイを自身から遠ざけると、愛理は持っている剣に火属性の魔法を付加させる。


「この魔法簡単で好き! これで引き裂く!」


 愛理は剣を構えて突進をしてくるイノシシの右側に移動をして、火属性の魔法を付加した剣でイノシシの腹部を切り裂いた。イノシシは一体何が起きたのか理解が出来ないまま、切り裂かれた腹部から大量の血を吹き出して地面に倒れてしまう。愛理はルイを手招きして呼ぶと、ルイにこのイノシシで怒られないわねと話しかけた。


「怒られるわよ! 絶対怒られるわよ! 絶対ね! 私は嫌よ!」

「そんなに怒られるって言わないでよ! 私だって嫌なんだから!」


 愛理は溜息をつきながらイノシシの肉を大量に切り裂いて部位ごとに並べた。それをルイが風の魔法で町まで運ぶことになった。草原から西に五キロほど歩くと、愛理とルイが暮らしている風車の町がある。


 風車の町は名前の通り風車が立ち並び、牧畜や周辺にいる魔物を倒すことで生計を立てている。風車の町は人口が千人いる大きな町であり、自警団や農家に鍛冶師など多くの職を持つ人が暮らしている。愛理とルイはその風車の町に帰ってくると、村の入り口にいた白い剣を持ち青い翼を生やしている筋肉質の若い男性二人が愛理とルイに町長が怒っていたぞと笑いながら話しかけた。


「マジで怒ってるじゃない! 私はただ草原で寛いでいただけなのに!」

「何か頼まれてたことがあったんだろ? それサボってたからだな!」


 若い男性が二人して笑い合っていると、愛理は手前にいた男性の脛を強めに蹴った。


「痛って! 急に蹴るなよ!」

「笑ったバツよ! 私が倒したこのイノシシの肉は食べさせないわよ!」

「え!? もしかして草原にたまに出るあのイノシシを倒したのか!?」

「お茶の子さいさいよ!」


 愛理が胸を張って自慢をすると、ルイが早くしないと腐っちゃうよと急かす。


「そうね! 早く行きましょう!」


 愛理はまたねと二人に言うと、町の中に入っていく。町の中では若い翼が生えた人たちが多数笑い合いながら歩いたり、仕事をしていた。愛理は道行く人たちと挨拶をしながら町の北側にある町長会館に向けて歩いていた。


「やっと着いたわ……怒られるの嫌だわぁ……」


 愛理が肩を落としながら会館の前に立った。ルイはとばっちりを受けるのかなとテンションが下がっていると、愛理が入りましょうと言った。愛理が入った町長会館は、二階建ての横長の建物である。この会館には町の運営をする行政機関が集約されている会館であり、町長は二階の中心部分の部屋にある町長室にいる。愛理とルイは一階の受付カウンターの女性に来館した旨を伝えると、町長に取り次いでもらえた。その際に受付の女性が肉を受け取りますと言い、会館内にある巨大な冷凍施設に保管しておきますと言ってくれた。


「あ、お願いします! 肉が腐らないか心配で……」


 ルイが申し訳なさそうに魔法を解除して肉を渡すと、イノシシの肉から腐りそうな匂いを感じた。受付の女性とルイは臭いと声を合わせていた。


「ごめんなさいって言ってるでしょ! 何度も怒らないでよ! お母さんの怒りんぼ!」


 愛理が受付の女性から借りた白い小さな紙を耳に当てながら町長と言い合っているようである。その様子を見ていたルイはまたやってるよと頭を抱えていた。


「すぐ行くから! 待ってて!」

「行くよ! ルイ!」


 愛理がルイの手を引いて会館の階段を上ろうとした。その際にルイは行きたくないと何度も叫んでいたが、愛理はその声を聞かずにのしのしと階段を上った。愛理は町長室の入り口の前で深呼吸を何度かすると、ドアをノックした。


「入りなさい」


 愛理は聞きなれている耳触りが良い綺麗な透き通っている声を聞くと、失礼しますとドアを開けた。


「今帰りました! 怒るならどうぞ!」


 愛理のその声を聞いたルイは溜息をついて頭を再度抱えてしまう。愛理のその声を聞いた町長は、怒る気を失くしましたとルイと同様に溜息をついていた。

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呪われし姫は聖騎士と共に奪われた未来を取り戻す~七つの聖剣が導く先の未来を創る物語~ 天羽睦月 @abc2509228

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