第19話:再会

「やあ、ようやく帰って来れたよ、我が愛おしい妻よ」


 遠征から戻ってこられたセラン皇太子殿下が、満面の笑みを浮かべておられます。

 恥ずかしいので、家臣達の前で抱擁するのは止めてください。

 まだキスもした事ないのに、心臓が破裂しそうではありませんか!

 身体がカチカチに固まってしまって、指一本動かせません。

 息をする事もできなくて、このままでは窒息してしまいます。

 私は本当にどうしてしまったのでしょうか?

 人を恋するというのは、こんなに苦しいモノなのでしょうか?


「皇太子殿下、ユリア太妃殿下が固まってしまわれています。

 もう少し、順序を追って優しく進められてください」


 アナベル皇太子後宮総取締が助け船を出してくれたので、ようやくセラン皇太子殿下は私を解放してくれました。

 でも、手を繋いでエスコートしてくださるので、顔が真っ赤になってしまっているのが、自分でも分かるほどです。

 手汗が出てしまって、殿下に気持ち悪いと思われてしまわないでしょうか?

 緊張しているのか、身体中から汗が流れていて、体臭が気になってしまいます。


「はっはっはっはっ、そんなに私の事を想ってくれているのかな?

 それならとてもうれしいが、その想いに応えられるか少々心配だな。

 だがまずは嫌な話しから片付けてしまおうか、プラット王国の事なのだが……」


 プラット王国と聞いて、今まで舞い上がってた私の心が一気に引き締まりました。

 アーサーの事はともかく、実家の事は重大な話ですから。

 実家のエンドラ公爵家が取り潰しになると、私の後ろ盾がなくなります。

 まあ、あっても利権を貪ろうと足を引っ張るだけではあるのですが。

 それでも、形だけでも家があり、経済力と兵力を保有している事は、私を護る盾にもなり、反撃するための剣にもなると、後宮で争う相手に思わせることができます。


「プラット王家と有力貴族は全て潰したよ。

 これで頭になって反乱を企てる奴はいなくなったと思う。

 ただエンドラ公爵家は一族を皆殺しにしただけで、家は潰さなかった。

 ユリアが女公爵として、領地を支配してくれればいい。

 もっとも後宮からは出られないから、信頼できる者を代官にしてくれ。

 今はまだ心許せる者がいないだろうから、しばらくは私の家臣が代官を務めるよ」


 皇太子殿下はそう言われると、私が継承するはずの領地の絵図と、ここ数年の収支決算書類やら何やらを、私の前に積み上げられます。

 私は最初に領地図を確認したのですが、明らかに領地が広すぎます。

 私が領地だと認識していなかった広大な土地がエンドラ公爵領とされています。

 ひと目でそれがアーサーの王太子領だったと分かりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る