6 可惜
彼女が死んだ。
正確には殺されたのだ。
そのニューズが世界を駆け巡った。
かつて彼女が世界を駆け巡っていたときよりも早く。
彼女が死ぬことで世界は変わらない。
何の意味もないのだ。
意味がないのだ。
彼女を殺したのは若い女だった。
あるときを境に、若い女はA団体に入った。弱っていた心に手を差し伸べられ、救済されていく感じだった。考えが改められていくようで、自分に足りなかったものが、一条の光としてそのときの若い女の心に射し込んだのであった。だが、熱心に通い続けていくうち、余裕のできた心の隙間に疑問が芽生え始めた。
そんな時だった。同じA団体に通っていた者に勧められ、違うBという活動団体へと顔を出すようになった。そのB団体は、自分たちの置かれた状況を打開すべく研究し、世に訴える活動をしていた。B団体は自分の思いを代弁してくれている、と若い女はB団体に入り活動した。しかしB団体は、生来のものに対する言い訳であり、それを盾にしながら武器として使っていた。それでは満たされなくなった若い女は、次第にB団体の考えとの齟齬が生じてきた。
若い女はCという団体の者と知り合い、交流という名目でその団体へ遊びに行った。C団体は自分のいるB団体とそう変わらなかったが、自分の団体は受動的要素が強く、その者がいるC団体はより能動的だった。直接働きかけることで、改善させる。そこに団体の魅力を感じた。その団体に活動の意義を見出した。
若い女はC団体に身を置き活動していった。自分が変わっても、訴え続けても、社会が変わらないなら変えさせよう。そう思うようになっていた。しかし、それでも変わろうとしない社会に、変えないのなら変えてやろう、と思い。やがて若い女の思考は、変えるしかない、と変貌を遂げた。
社会に、世界にある諸悪の根源に、若い女は辿り着いた。
機械人間の育ての母と呼ばれた、機械人間を一般へと普及させ、機械人間の保護を唱え、人の善き革新を訴えていた科学者に、若い女は
「これで世界が変わる!!」
と、叫びながら何度も――。
その場で逮捕された若い女は、後日事情聴取を受け、犯行に至った経緯を話した。そこで何故最初の団体に入ったのか訊かれ、「当時つきあっていたパートナーを機械人間に奪われたから」、と答えた。
日に日に冷静さを取り戻した若い女は、自分のしたことに戦慄したが、「何故そんなことをしたのか分からない、わたしを研究材料にし、わたしのような人を作らない社会にして欲しい」、と言っていたという。
博士は思い出していた。
天真爛漫だった彼女の笑顔はもうない。
残されたのは悲しみだけ。
博士はあらゆる手段を使い調べた。
若い女が渡り歩いた団体は、それぞれ世界に分球されていた。
博士が携帯情報端末機で通信すると、相手は直ぐ応答した。
『ちょうどわたしも連絡しようと思っていたところでした』
相手の男はそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます