明太フランスパン

 最近小説が書けていない。


 といっても忙しいという訳ではなく、自粛で家にこもっている以上時間は山のようにあるし、私はというとデスノートのLのように椅子の上でじっとしているだけである。

 別にこれは私が極めて消極的な人間であるという事を言っているのでは決してなく、単純に大学から送られてくる課題に追われているから外に出る事がままならないのだ。

 私の学科では古文の崩し字を解読したり、太宰治の未完の作品を完結させるといった課題があるのだが、これが如何にも頭を使う。特に崩し字に関しては何時間かけても終わらず、終いには頭の奥の方が痺れて日本語が読めなくなってくるのだ。

 そうして長い間頭を悩ませていると、書きたいものが沢山あるのに小説を書くという行動に移ろうという気が起きなくなってくる。

 私はプロットを書かない人間なので基本的に起承転結や場面の切り替えなどは頭の中で構成するのだが、今はそれを文に起こすのが一番難しい。

 けれど、そんな脳死状態でも尚伝えたいと思った美味しいものがあったので今回はその時の感覚に沿って紹介しようと思う。


 今回紹介するのは“圧倒的白米派がおすすめする明太フランスパン”である。

 きっかけは父が先日ふらっと出掛けたかと思うと、突如大量買いしてきたパンだった。

 何故買ってきたのかと聞かれた本人は「なんか人気だったから」とケロッと言っているが、これが案外珍しい事で、父は肉や魚はよく買ってくるがパンを買ってくる事は今までに無かったのだ。というのも父は基本的に食の流行に対してそれ程の関心がない。

 我が家の食の変態である姉が行列に並んで買ってきたパンを食べて「うまいうまい」と言う位だったのだが、今回はなんと自発的に買ってきたと言う。

 今回、わざわざ父が出掛けて買ってきたのは東京の西荻窪にある「パン工房 そーせーじ」という店。どうやら口コミを見る限りかなり高評価で人気の高い店らしい。母と父が分けっこしようとはしゃいでいる中、私は明太フランスパンを貰ってソファの隅で食べたのだが、これがはちゃめちゃに美味しかった。


 明太子が好きな私は明太フランスをよく好んで食べるのだが、大体は固めに焼き上げられたフランスパンに薄く明太子とマヨネーズを和えたペーストが塗られているものが多く、どちらかというとパンの主張が強い。

 勿論バリバリとしたパンも好きなのだが、咀嚼しているうちに明太子を小麦の風味が飲み込んでしまうのを残念に思っていた。

 しかし今回父が買ってきたパンはフランスパンにしては柔めのパンで、外側は固く焼き目が付いているのだが、中身がもっちりしている。触感で言うとポンデケージョ並みのもちもち感。噛むと明太子のペーストがとろっと出てくるから、出来立てなんて相当美味しいのではと既にリピ買いする気のある作者である。

 しっかりとフランスパンの魅力は残しつつ中身の弾力があるので、恐らくはパン単体で食べてもおいしいだろうなと思った。

 そして大きく他と違う点が、明太子ペースト。

 このお店は塗るタイプではなく、パンの真ん中に切り込みを入れて詰め込んでいる。

 このペーストもマヨネーズがそれほど多く使われていなく、それでいて塩気が強くない。明太子の味が濃く、生地との相性がとてもよかった。

 食べてる間は美味しすぎて、何も考えずにもきゅもきゅ食べていたのだが今考えると手の込んだパンだなあと思う。

 普段私もパンにそれほどの執着が無いのだが、美味しいなあ……なんだこれ……と感動しながら食べていた。

 美味しいものを口に詰め込んでいる時は、頭の中が幸福感だけでいっぱいになっている。その瞬間はある意味最上級の馬鹿になっていると言ってもいい。

 兎も角、もし西荻窪の近くに来ることがあったら是非買って食べてみてほしい。

 ほかの商品も人気が高いらしいので色々味比べをしてみてもいいかもしれない。

 体重に関しては自己責任で。

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味のする幸福 saw @washi94

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