第40話 若者たち四人

 アル達四人は町へ戻る途中、お互いの身の上を話していた。


「あたしら二人はさ、コールトンの孤児院出身なんだ。実際はどこで生まれたかなんて知らねえがな」

「エリーとは物心ついた頃から一緒にいるから、姉妹みたいなもんですね」


 彼女たちの話によると、エイマーズ伯爵領にあるコールトンの町には、親のいない子供たちが暮らす大きな孤児院があるのだという。

 大抵の孤児は、スラム街に住み着いたり、奴隷商に連れ去られたりすることが多いので、孤児院に入れた自分たちは、幸せな方だと思っていた。


「孤児院の子供たちは、小さいうちに養子として引き取られていくんだよな。あたしみたいに粗暴なガキは引き取り手が見つからず、15歳まで残っちまうんだけどさ」


 自分で言うように、エリーは子供の頃からイタズラ好きで活発な女の子だった。

 同じコールトンの町に住む子供たちとは何度も喧嘩し、男の子を泣かして怒られることがしょっちゅうあった。


 そんな女の子を引き取りたいという里親は現れず、エリーは15歳まで孤児院で過ごすことになった。


 逆にシンシアを引き取りたいという里親は何人も現れていた。

 青い髪の可憐な少女は町でも人気者で、中には爵位を持つ貴族が養子として迎えたいという声も。


 しかし本人がかたくなに拒否し、15歳まで残ることになった。


「孤児院にはとても感謝しているので、残って少しでも役に立ちたいと思いまして。それにエリーもいますしね」

 シンシアが残った理由を語った。

「まったく……。この子はあたしに気を使って最後まで残ったんだ」


 二人の言葉が、孤児院の中でも特別に仲の良かったことを伺わせた。


 エリーとシンシアが冒険者になったのも、孤児院を思ってのことだった。

 自分たちが生きていくだけだったら、生活スキルを上げてどこかに雇ってもらうこともできた。


 彼女たちは孤児院に少しでも寄付ができるように、誰でもお金を稼げるチャンスのある冒険者になることにしたのだ。


「あの孤児院、資金に余裕がなかったしな。あたしは敏捷性と器用さが高いから、金稼げそうなシーフにピッタリだろ?」

 エリーはそう言って楽しそうに笑った。


「私はエリーみたいに強くないので、近くの教会で僧侶の修行をしました」

「――――なんて言ってるが、シンシアは孤児院の子供たちの面倒を見ながら修行をして、レベル10まで上げたんだから才能はかなりのもんだと思うぜ」

 謙虚なシンシアを、エリーが持ち上げる。


 エリー達の話を聞いていて、アルは少し負けている気持ちになってきた。


 アルもレネオも両親は健在で、何の不自由もなくザレア村で暮らしてきた。

 冒険者になろうと思ったのは、ブライアンの話を聞いて憧れただけで、別に冒険者にならないと生きていけないわけではない。誰かのためになろうと思ったわけでもない。


 遊び感覚で冒険者を目指したつもりはなかったが、孤児院に寄付をするための理由に比べれば、ちっぽけな思い付きのような気がした。


「ちぇーっ。なんか悔しいなっ」

 アルはそう感じると、思わず口に出した。


「は? 悔しい? 何が? アル、お前おかしくなったのか?」

 予想外のアルの感想に、エリーは乱暴に言った。


「はは。アルはきっとエリー達を褒めてるんだよ。ね?」

 アルの気持ちが分かるレネオは、そうフォローした。


「褒めてる? あれで? まあいいけどさ……」

 エリーは釈然としない気もしたが、けなされてる訳ではないことは感じたので、それ以上は言わなかった。


「なあ。エリーとシンシアはこれからどうすんだ? ずっとウォルテミスにいるのか?」

 アルがエリー達に尋ねた。


「そうだなぁ。あたしはお金になるならどこでもいいんだけどな。シンシアはどう?」

「そうですねぇ。ウォルテミスは私たちでも出来るクエストも多いので、今のところ他の町に行く理由はないでしょうか」


「そっか……」

 アルは二人の答えを聞くと少し考え、

「じゃあさ、このまま四人でパーティを組まないか? 二人よりやっぱいいと思うんだよな」

 と、少し照れながら言った。


「え!?」

 三人は一瞬言葉が止まり、顔を見合わせた。


「なに言ってんだ? そんなの当たり前だろ。まさかあたしらと別れるつもりだったのか?」

「そうだよ、アル。エリーの言う通りだよ! このまま四人で組むに決まってるじゃないか!」

「アル。私たちのこと気に入らなかったんですか?」

 三人が寄ってたかってアルに言った。


「え? え? いや……、だって……、ほら……」

 アルはキョロキョロと周りを見ると、


「パーティの募集で……、ウォルテミスダンジョン探索の募集ってしてたから……、クエスト限定なのかと…………」

 と、顔を引きつらせながら言った。


「なんだよ、アル。つれねえなあ! そんなわけないだろ! でも、そう言ってくれて嬉しいぜっ!!」

 エリーは今日一番強く、アルの背中を叩いた。


 思わずアルがよろけてシンシアの近くに寄ると、

「アル。一緒に組もうって言ってくれてありがとうございます!」

 シンシアがアルの手を取り、そう笑顔を向けた。


「あっ、いやっ、ああ」

 アルは頭から湯気でも出ているんじゃないかと思うほど、顔を赤くした。


「じゃあ、これで正式に四人パーティ成立ってことだね。エリー、シンシア、よろしくね!」

「ああ。アルもレネオもよろしくな!」

「はい。お二人ともよろしくお願いします!」


 アル達四人の冒険者生活が、改めてスタートを切った。

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