第39話 祭壇の間へ到着

 地下三階の敵は必ずオークが混ざっていた。


 オーク一匹とゴブリン四匹、オーク二匹とゴブリン二匹、オークのみ三匹。

 必ずどれかの組み合わせだ。


「やった、レベルが上がった!」

「私も! やりましたね、エリー!!」

 地下三階に来て五戦目が終わると、エリーとシンシアのレベルが11に上がり、抱き合って喜んだ。


「おめでとう! これで四人ともレベル11だね!」

 レネオが二人のレベルアップを祝福する。


「へへん。レベルが一つ上がったところでどうってことないが、上がるとやっぱ嬉しいな」

 エリーは鼻の下に指をあてながら、嬉しそうに言った。


「ええ、レベルアップって成長してる実感が持てていいですよね」

 シンシアも嬉しそうに言うと、

「二人がパーティに入れてくれたおかげです」

 と、アルとレネオに頭を下げた。


「さ、さっきも言ったけどそんなのお互い様だ! そんなこと言ったら、ここまで来れたのはシンシアとエリーのおかげだしな。レネオだってそう思うだろ?」

「うん、そうだね。僕たちは四人揃ったから、エリー達はレベルを上げられたし、みんなでここまで来れたんだよ。どっちのおかげって訳じゃないないよね」

 アル達二人も、エリー達に感謝していることが何となく伝わった。


「いいじゃねえか、あたしら冒険者なんだから。お互いに利益があるんでお互いを利用してるってことで。なあ?」

「もう、利用って。エリーは表現を気を付けてください!」


 ダンジョンの地下三階にいる緊張感もなく、アルとレネオは仲の良い二人を見て気持ちが和んでいた。


「祭壇の間までもう少しみたいだ。帰りもモンスターと戦うんだし、まずはクリアしちゃおうぜ」

 アルは、レネオが出した白地図に探索スキルを使うと、自分たちの位置と目的地が近くになっているのを確認した。


 レネオの製図スキルが低いため、目的地までの道のりは分からないが、通ってきた道の半分ぐらいは白地図に記録されていた。


「なんか、だんだん広くなってる気がするね」

 ところどころ抜けている白地図を見ながら、レネオが呟いた。


「広く?」

「うん、地下一階から降りるたびに広くなってる気がする。全部回ったわけじゃないし、気のせいかもしれないけど」


「なんだなんだ? 地図に何か載ってたか?」

 エリーが地図を見ながら話している二人に声を掛けてきた。


「いや、なんでもないよ。祭壇の間までもう少しだねって話」

 レネオは広さの事がとくに気なったわけでもないので、地図をしまいながら返事した。


「え? 祭壇の間までもう少しなんですか?」

 シンシアも寄ってきた。


「ああ。ダンジョンなんで道がまっすぐじゃないだろうけど、たぶんもう少しだ」

「じゃあもうすぐクリアですね!」

 シンシアが笑顔で言うと、アルは思わず顔が赤くなったのを感じ、松明の光が自分の顔に来ないよう向きを変えた。


「おいアル! シンシアと遊んでないで、さっさと行くぞ! もうすぐなんだろ?」

「遊んでるわけじゃねえよ!!」

 アルをからかうのにだいぶ慣れたエリーへ、アルは突っかかるように答えた。


「ったく。じゃあ出発な」

 アルは上手く言い返せないもどかしさを感じながら、ブツブツ言いながら歩き出した。


(なんだか楽しいパーティだ)

 レネオは前を歩く三人を見ながら、そう感じるようになっていた。



 それからモンスターと一戦だけすると、アル達四人は祭壇の間へ辿り着くことができた。


「よし! よし!」

「皆さんやりましたね!」

 エリーは拳を握り、シンシアは祈るように両手を握りながら、クエストクリアの喜びを表現した。


「アル! パーティの画面を開いてみて!」

 レネオに言われると、アルはすぐにパーティステータスを確認した。


「クエストがちゃんと青字になってる!」

「オッケー、完了だね!」

 アルとレネオが拳を合わせた。


「しっかし、地下にこんなものがあるなんて不思議だよな」

 エリーが祭壇の間を見渡した。


 部屋の奥に祭壇のようなものがあり、この部屋だけ床や天井、壁に模様が刻まれている。

 祭壇は石造りで、中央には何かを型取った大きな像があった。


「たしかに祭壇に見えるけど、ルマール教のものでもないですし、見たことのない造りです」

 僧侶のシンシアでも見覚えのない様子だ。


「ダンジョンは遥か昔からあるし、誰が何のために作ったかも分かってないからね。太古に失われた宗教なのかも」

 レネオが杖を頭にあてながら言った。


「おい見ろよ。祭壇の隣に階段があるぜ」

 祭壇を松明で照らしていたアルが、降りる階段に気付いた。


「ホントだ。地下四階に行くときはここからってことだな」

「エリー、気が早いですよ」

「分かってるって、シンシア。さすがに今からは行かねえさ」

 エリーとシンシアはそう話しながら、階段を覗き込んだ。


「やあ。あんたらはこの前の」

 急に誰かが声を掛けてきた。


「わっ!?」

「きゃっ!?」

 エリー達は驚いて小さな悲鳴を上げた。


 声の方向へ振り向くと、冒険者たちが歩いてきた。


「三階まで来れたんだね、おめでとう!」

 先頭を歩く戦士がそう言った。


「あれ? あなた方はたしか……、以前入り口付近でお会いした」

 レネオが冒険者たちのことを思い出した。


「そうそう。思い出した? あんたら四人パーティになったんだね。やっぱ四人ぐらいはいないとね。お互い頑張ろ」

 戦士はそう手を挙げて通り過ぎていく。


「なあ。あんた達は地下何階まで行くんだ?」

 アルが戦士に声を掛けた。


「ん? 今日は十階までだよ」

 戦士は一瞬止まってそう言うと、階段を降りていった。

 他の冒険者も彼に続いて降りていく。


「ねえねえ、今の子たち若い男と女が二人ずつだったわ。恋とかするのかしら」

「若さは羨ましいのお」

「恋人同士なのかもよ」

 冒険者たちの声が階段の下から響いてくる。


「地下十階か、まだまだ先だな……」

 アルが眉をひそめて声を漏らした。


「うん、まだまだ先だけど、先があって良かったよ。だって僕ら、これからもずっと冒険者なんだから!」

「そうか、そうだよな。レネオの言う通りだ! 俺たちの前には、まだまだ冒険が広がってるんだもんな!」

 レネオに言われ、アルは目を輝かせた。


「なんだよアル。落ち込んでねえで帰ろうぜ」

 エリーがアルの肩に手を置きながら言った。


「落ち込んでねえよ!! ああ、町へ戻ろう!」

 アルはエリーの手を振り払うと、新たな冒険にでも出るかのように、来た道を戻っていった。


「なんか仲いいですね、エリーとアル」

 シンシアは嬉しそうにレネオに言った。


「うん、二人を見てると楽しくなるよね。さあ、僕らも行こう!」

 レネオとシンシアも、アル達に続き歩き出した。

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