第10話 Yeah I know

 「左足から!!」

左から右端ハイへ。耽美な曲線を描き、GKの頭上を通過して吸い込まれた。弓川のベンチが沸く。ピッチの熱量に感化され。

「伊出、また決めやがったぞ。」

「2ゴール、2アシスト?」

「全部からんでるじゃん。」

「今日、エグいな。」

「コースもエグッ。」

「でも、よく考えたら…

「いつもだけどな。」

「それな。」

伊出は水分を含み過ぎた人工芝のピッチを端から端へ駆け回る。その終着点は当然、ベンチ。勢いそのままに飛び込む彼を大勢で抱き抱える。担ぎ上げられたその男は、垣間見える太陽のもと、高らかに腕を掲げた。

「ピッ、ピッ、!!」

試合終了。

リーグ戦第一節:弓川vs西洋

ホーム:西洋

最終スコア:4ー0


 2時間前 

「菅木。おい。菅木!」

「あ、はい。すいません。」

集合がかかる。

「オーケィ。そろったね。初戦だ。気合い入れてこう!」

「はい!」

「じゃあ、スターティング。GK杉、DF阿部、竹江、臼井、尾樽部(おたるべ)、MF寺笛、厚田(あつた)、津上(つがみ)、FW伊出、安藤、ニ椛。フォーメーションは4-3-3。このメンバーで西洋の4-3-1-2ハイプレスと戦います。問題ないね!?」

「はい!」

「オーケィ。でも、どうせ勝ちにいくなら簡単に勝ちたいだろ!?そのためには当然相手の嫌な事をし続けなければならない。この手のチームに一番有効な攻撃は何?尾樽部!?」

「あ、はい。…ボールを渡して、えっと、ハイプレスを仕掛けることです。」

「オーケィ。その通りだ。そこで、このボードに注目!」

「青が敵で赤がうちだ。まず、安藤!お前がしっかりアンカーへのパスコースを消せ。敵のDFがもってる時は絶えずだ。いいか!?よし。そしたら、両ウイングがSBへのパスコースを切ってCBに圧をかけるんだ。ニ椛!伊出!お前たちでミスを誘うんだ。バランスも考えろ。例えば、片翼が上がったら、もう片翼は中間ポジションをとる。徹底してやり続けるんだ。心配するな!お前たちなら大丈夫だ!もう出来てる。何も難しいことはないよ。頼んだぞ!」

「はい!!」

「オーケィ。でもまだだ。まだ足りない。この中央圧縮の一番のキモはそこじゃない。どこだか分かるか!?阿部!」

「自分たちSBです!」

「そうだ。この状態で残りの選手にマンマークをついた時、フリーなる両SBなんだ!阿部!尾樽部!お前たちがこのチームを勝たせろ。そのためにやるべきことは常に考え続けること。それを指示すること。…大丈夫。まだ時間はある。少し頭の整理をしよう。例えば、プレスをかけるニ椛の裏にボールが出たら、どうする?尾樽部!」

「えっと…え、自分が前に出る。」

「そうだ。それも一つだ。ただし、思い切ってやれ。よし、もう一つだ。阿部!」

「中盤、津上を前に走らせて、空いたMFをケアする。」

「オーケィ。その調子だ。勿論、まだまだ沢山あるが今みたいに考え続けろ。そして躊躇なく実行に移すんだ。いいか!?」

「はい!」

「今更、迷うことなんてないさ。必要な事は金曜日、一週間、一ヶ月、一年で伝えてきた。それを今確認した。もう結果は見えてる。問題ない。行ってこい!」

「はい!」

初夏の日差しがつきささる。


 握手を交わし、両軍円陣を組む。アウェイ弓川は白。

「いくぞ!?」

「オー!!」

ホーム西洋は緑一色。

「勝つぞ!?」

「オー!!」

審判・副審がラインにたつ。散らばっていく選手をじっくりと観察する西洋高校監督:庭嶺(にわ みね)。一方、戸辺監督はというと、担当するラインマンを集めていた。彼らは指示を受ける。お呼ばれした菅木もその一人。

「お前たちの仕事は見ること。想像すること。ただ旗をあげるだけじゃ、君たち一人一人にとって何の意味もない。君たちは観察すべきだ。では、何を?…ライン際での身体の向き、緩急、位置、コース。その全てで上手くいった過程、いかなかった過程をリストアップするんだ。いいか!?」

「はい!」

「オーケィ。ラインマンよろしくな。」

ボールがセットされる。リーグ戦第一節:弓川vs西洋、試合開始。

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