#21 お題発表

 ゲームの企画は、いつどのようなタイミングで求められるものなのか。一般的な企業例であれば、以下の3パターンに大別できる。



●パターンA:定期提出型。

複数人で経常的に開催される企画コンペなど。なんらかのお題テーマが定められるケースもあるが、比較的自由な気風がある。


●パターンB:不定期提出型。

複数人から個人単体まで募集は様々。突発的に求められる事例がほとんど。ビジネス的な側面が強く、期間・コスト・お題など制約ありきで考える必要がある。


●パターンC:自由提案型。

個人が上長に直訴する形式。非常に稀なケースと言ってよい。よほど実績のあるクリエイタ(かつ、一般的にはプロデューサ、ディレクタ、リードプランナが発起人)でないと、誰からも相手にされない。



 以上を鑑みるに、今回のケースはおそらくパターンB。制約が多いものだろうと推測できる。非常に厄介そうな代物だ。で、あるからこそ――


「やります」


 創平は迷いを見せずにノータイムで即答する。それを受けて、土岐がくふふ、と口もとを緩めた。



「だよねぇ。きっと創平くんなら、そう言ってくれるだろうって思ってたよ」

「もちろん、なにかお題があるんですよね? 今回の場合は――」

「ユーフォ―・アタックが主軸だったら、なんでもOK……あ、でも、オリジナルキャラのグラフィックだけは、そのままの素材で使用して欲しいかな」

「肖像権対策っぽいオーダですけど、社内ガイドラインかなにかですか?」

「ぶっちゃけるとその通り」


 創平は頷きながら、ホワイトボードの隅に簡単なメモを残していく。


「承認ありきのプロジェクトっぽいですけど、企画提出の〆ってあります?」

「ん~、今年中――今季中じゃないよ?――に実行できるんであれば、問題ないかな。あ、言っておくけど、創平くんの企画だってキチンと精査して、良くないと思ったら遠慮なくダメ出しするからね」

「当然です」

「あとは、そだなぁ――」


 土岐がこめかみを指で押さえ、しばらく目を閉じ考えこむ。抜けがないかふり返っているのだろう。


「――どんなものであれ、準備期間って必要だからさ。そんなにモタモタしてる余裕はないんだよね」

「だったら早く言ってくれればいいのに」

「わかってるけど、アタシにだって準備があったんだって」


 土岐が唇をすぼめて軽く睨む。


「それと、さっきも言ったけど。アタシはやっぱりゲームにこだわりたいな」

「もう五月も終わるんですから、今年中となると、コンシューマは無理ですからね?」

「わかってるって。そこまでアタマ悪くないもん」


 あっけらかんと笑う土岐に、創平は板書の手を止めると、


「予算と人員は?」

「もう会社も間に合わないって思ってるからね――って、これはさっき言ったか。確保していたスタッフは別のプロジェクトにとられちゃったけど、プログラマとグラフィッカ、あともう1人くらいならアサインできそう」


 指折り数えながら土岐が答える。


「プログラマはクライアント?」

「もちろん。だから、通信系は期待しないでね」

「……あ、人件費」

「もともと押さえてるから、予算に含めなくて大丈夫だよ。創平くんが知りたいのは、それ以外の雑費じゃない? それなら、1千万までならOKだから。その金額なら稟議無し――てか、アタシの決算だけで済ませられるし」

「あー、そこはシンプルでいいですね。了解です」

「それと、最後に。もちろん利益はだしたいからね。これは当然でしょ?」


 2人そろってお金のハンドサインをして、黙って頷きあう。創平はホワイトボードにメモした制約条件を、一歩下がって改めて見直してみた。



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●ユーフォ―アタックを主軸に見据えたゲーム(非コンシューマ)

 →今年中に実行可能なボリューム

 →オリジナルキャラのグラフィックは原作準拠。改変不可。

 →通信仕様は実装不可。ローカル(オフライン)に留める。



●雑費は10,000,000万。

●企画承認を通す必要あり。

●公開後の利益を形状すること。

 →企画通過する前に、事業計画書も添えた方が無難。


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 こうして眺めていると、漠然とした付加要素ばかりが決まっていて、明確な指針だけが定まっていないことが一目で分かる。



 創平は背伸びをするように立ち上がり、額にかかった髪を払いながら、


「いったん、今週中をめどに企画書を提出するようにします。で、相談なんですけど――」

「足りない情報でもあった?」

「過去タイトルの資料とかを収納している倉庫があるって、久利生さんに聞いたことがあるんですけど。そこの立ち入り許可ってもらえますか?」

「ぜんぜんオッケー」


 土岐が頭上に両腕で大きな輪をつくる。


「それと、木曜まで自由に行動させてもらえますか。場合によっては、社外にロケハンも考えてます」

「へ? ロケハン!?」


 土岐の素っ頓狂な声に、創平は黙って頷いた。


「それって、創平くんのプランニングには、いつも必要なことなの?」

「いつもって訳じゃないですけど……今回はおそらく。お客さまの顔がまだイメージついてないので、確かめに行きたくって」

「……ふーん……あぁ、そう。はっはぁ……」


 土岐は腕と足を組み俯くも、スグにぱっと顔をあげて、


「わかった。いいよ。交通費も経費でだしたげる。その代わり――」


 くふふ、と創平へ笑いかける。


「今回の企画立案。クリボーも必ず同席させて。あの子にさ、本社プランナの仕事の作法ってのを、見せておきたいんだ」


 納得できる提案だったので、もちろん創平に異論はない。


「いいですよ。久利生さん、タバコ平気ですからね」

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