第参幕 艦長会議

 「オーラーイ」

 甲板作業員が「こんごう」艦長、小田部幸雄おたべゆきお一等海佐を乗せたSH-60Kシーホークを誘導する。ローターの回転数をゆっくりと落としていき、やまとに着艦する。

 シーホークの扉が開き小田部が出てくるのを宮沢が迎える。宮沢は敬礼をすると小田部もそれに応える。

 「ようこそ我が『やまと』へ」

 宮沢は小田部を第1会議室に案内した。



 「さて、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。本日で演習航海第1クールを終えた訳ですが、ここで皆さまのご意見をを承りたく存じます」

 宮沢は艦長たちに、馬鹿丁寧な敬語を使って会議を始めた。

 「そうですねぇ。戦闘訓練も上々、隊員の士気も旺盛。まぁ良い感じではないでしょうか」

 「ええ、航空隊も練度が上がってきていますから問題は今のところ無いかと」

 概ね良好な意見が多かった。

「他に何かご意見は?」

「問題は中国の動きだ」

 『あさぎり』艦長の武一等海佐武が問題提起する。

「ここ数年、中国海軍の動きは活発化している。特に台湾、尖閣諸島における挑発行為は目に余る。そして国営メディアが六場戦争と来た。万一、尖閣を奪われるようなことがあれば我々は制空権……いや、航空優勢すら失いかねない」

「それを抑止するのが我々第5護衛隊群という訳ですか……」

「それは海の中も同じだ」

 武に続いて「あさゆき」艦長の海老名一等海佐も発言する。

「ここ数年、奴らの潜水艦は雑音の塊ではなくなってきた。キロ級、元級の動きはアクティブを使わない限り捉えにくくなっているのが現状。奴らが宮古水道を自由航行するのは時間の問題と言ってもいい。中国の潜水艦は約80隻。それに対し、我々は22隻。圧倒的に潜水艦の数も足りてねぇ」

「海老名一佐その問題は空も同じですよ」

 「かが航空隊司令兼飛行隊長」の江戸一等空佐もまた同じ問題を思っていた。

「那覇から尖閣までは400キロ。スクランブルで発進しても20分はかかる。『かが』によってそのタイムギャップは埋められますが、あちらさんは60機。こちらは15機。互角の戦いをするには機体の性能と搭乗員の技能しかない。……。練度を上げるしかないんですよ!」

 空気が重くなったところで小田部が会議をまとめる。

「皆危機感を持って訓練に臨んでいるようで結構だ。ただ、私が危惧するのはこの第5護衛隊群に旧海軍の連合艦隊復活とはしゃいでいるものがいるという事だ。我々は専守防衛を順守する海上自衛隊であって旧海軍ではない」

「ところで……やまと艦長として宮沢一佐は第5護衛隊群をどのような艦隊でありたいとお思いで?」

 宮沢は目をつむり、深呼吸してからこう答えた。

「世界最強」

 一瞬沈黙の妖精が会議室をよぎった。

「また妙なことを……。我々は日本を守る護衛艦隊。世界最強とはどういう意味で?」

「世界で最強と言われるアメリカと双璧をなす存在でなければもはや日本の安全は守れないという事ですよ」

「しかしそれは……」

 二匹目の沈黙の妖精が会議室をよぎったところで鳩羽が重い口を開けた。

「軍事衝突などは絶対に合ってはならない……。だが、我が国の国民、国土を命を懸けて守るという覚悟がなければ、我々は自らを軍人とは呼べぬ」

 会議はお開きとなった。

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