第弐幕 就役

 尖閣事件の約1年後に当たる20XY年12月15日、異常気象による遅延があったものの「コードネームミラージュ」、新型護衛艦「やまと」は海上自衛隊に新設された第5護衛隊群の旗艦として就役した。

 新編された第5護衛隊群は「DDG001やまと」「DDG173こんごう」「DDV184かが」「DD132あさゆき」「DD151あさぎり」「DD154あまぎり」「DD156せとぎり」「DD118ふゆづき」から構成されている。そして、初の航海演習の為、小笠原諸島沖へ向けて呉を出航した。

 第5護衛隊群群司令には経験豊富な鳩羽均海将補。艦長に初の女性艦長となる宮沢恵1等海佐が選ばれた。

 日本初の原子力を動力とした護衛艦「やまと」は尖閣事件を受け、半年繰上げた就役となった。

 

 「総理!総理!『やまと』に搭載された原子力は他国を侵略するための戦艦なのではないですか!専守防衛を理念とする自衛隊において原子力護衛艦は違憲ではないのですか!総理!お答えください!」

 野党第一党民主社会党総裁辻清子がやまとの原子力を違憲だとして騒ぎ出した。

 「総理大臣、熊沢茂雄君!」

 議長に呼ばれた古泉は渋々腰を上げマイクの前に立つ。

 「えー、やまとに搭載された原子力は有事の際、燃料不足で現場に急行できなかったり、退避行動が取れない事を防ぐ事を目的としており、決して侵略を意図するものではありません」

 熊沢がマイクを離れると野党議員から容赦がない野次が飛ぶ。

 「総理!総理!やまとはこれまでに無い数のミサイルを搭載しています。また、主砲についても46センチもある大型砲です!これでも護衛の為の艦だと言い張るのですか!」

「やまとの重武装については、将来的に予想されている人員不足に対応する為、単艦での運用を想定しての装備です!また、単艦での運用においては、補給を受ける事が困難になる為原子力を搭載しているのです!決して、侵略兵器ではありません!」

 熊沢は自分の席に戻る。しかし、席に戻る前に野党議員からの野次が飛び交う。

 「あんたがそのつもりでも、アジア諸国がどう思うんだ!」

 「戦争になったら責任は取れるのか!」

 熊沢は答えなかった。そのかわり、瞳には強い意志を漂わせていた。


 総理官邸

 滝は扉を3回ノックし、扉を開ける。

 「夜分に済まないね。佐伯君だったね」

 「はい、アジア大州局第1課の滝幸四郎です」

 滝は促されるままソファーに腰をかけた。そして、ブリーフケースからiPadを出し、まとめた資料を開いた。

 「『やまと』就役に対する世界各国の対応は概ね批判的な内容です。特にアジア各国からは攻撃的な報道がなされています」

 「『大日本帝国の亡霊が彷徨う日本海!』『大和復活、2回目の太平洋戦争か⁉︎』か。各国には最大限の誠意を持って懸念を払拭せねばならんな……」

 「はい。ですが問題は中国です。やまと就役に合わせて最新空母及びミサイル駆逐艦を就役させました。現在、東シナ海での演習航海を終えて青島チンタオ基地に帰投中です」

 「なんと!」

 「これは確実に中国海軍の『やまと』に合わせた対応です。私としては『やまと』就役が中国海軍に絶好の口実を与えた事になるのではないかと懸念しています」

 「滝くん……。東アジアから米軍の勢力が退きつつある今、日本は日米同盟を堅持しつつ今まで怠ってきた独自の国防網を紡がねばならないのだ。めまぐるしい技術革新の中で夢や祈りなどというものではこの日本は守れまい。これからは先の見えぬ、日本が戦後初めて踏み出す未知の海だ。混沌とした現実の海だと私は思っている」

 古泉はこれからの日本の未来を総理としてどう守っていくかを静かに語った。


 その日、第5護衛隊群各艦長が旗艦「やまと」に集合、演習航海初の艦長会議が開かれる。

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