後書き

 「羅生門・後記」を読んでくださった皆様、どうも有難うございました。

 最近色々な方に読んでもらっているようで、嬉しい言葉をたくさん頂きました。もちろんそればかりではなく、手厳しいことも言ってもらいまして、本当に学びが沢山ありました。


 今回の作品を書くにあたっては、芥川龍之介による「羅生門」に加えて、更にその原作である「今昔物語集」も読んだわけですが、各々に描かれる平安の姿がそれぞれ別の残酷さを背負いつつ、同時にそこに生活する下人や老婆にとっての日常であるという事実を強く感じました。

 二作に共通する点は、日常の中に溶け込んだ「人間の心の黒色」を描いているということで、私達にとっての日常が自身の心に常駐したすがたを見られると言い換えられます。

 では逆に差別化される点はというと、視点の違いです。「今昔物語集」では社会の立場からより広い視野の上で残酷な事実が描かれ、「羅生門」では下人一人の目を通した個人の生活を侵食する現実を描いていました。

 これがどちらも捨てがたい要素でして、両方の特性を上手い具合に入れ込みつつ、そのリアルな質感をどう表現するか、再現するか、ということが第一の問題として私にのしかかりました。

 結論から言うと、あまり上手くいきませんでした。試行錯誤を繰り返しつつ、交雑してしまう少し手前に止めたことで、微妙なラインでどちらも組み込めたように思えつつ、何かが足りない、といった形に落ち着いています。

 この課題は次回に持ち越しですね。


 ただ全体として、この作品で私が書こうとしていた世界はそのまま描けたと思っております。

 文体をただ真似ず、先作達とはまた違った別の差を持てるように賢明に進めました。

 とはいえ賢明であったのはただの姿勢であって、課題と反省が山積みであることには変わりありませんから、これからも精進して参ります。


 それでは次は「鍵盤と閑散」でお会いしましょう。

 ここまでどうも有難うございました。

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羅生門・後記 白水悠樹 @1804

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