青春フィクション

くるみみそ

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 学校のチャイムに目を開けた。最初に視界へ入ってきたのは、少しくたった高校の制服。体によくなじんでいる。そして、自分の席から見える賑やかな教室の様子だった。

 今さっき予鈴が鳴ったばかりなのに、クラスメイトたちは友人と話していたり、遊び続けていたり……静かに席で座っている人はほとんどいない。まとまりがなくて、でも明るい雰囲気に満ちたそこは、まさに〝学校〟といった感じだった。


 朝のHRホームルームが終わり、始まった授業時間。今後にほとんど必要なかった数学も、念仏のような古文も、気づいたらぐっすり寝落ちていた。右から左へ流れる教師の言葉以上に、眠りを誘うものはないのだ。しょうがない。

 けど、その後の体育はたっぷり眠ったおかげか体力全快だった。思いっきり体を動かすのがこんなに楽しいとは。心なしかいつもより体も軽い気がする。もしかして、今ならダンクシュートも、サービスエースも、ホームランも、五人抜きドリブルだってできるかも! なんて、スポーツマンガを思い出す。帰りに本屋でも行こうかな。


 昼休み。食堂はたくさんの生徒でごったがえしていた。授業が終わってすぐ、駆け込むようにしてここまで来たというのに、食券販売機には既に長蛇の列が……。一緒に来た友人と二手に分かれて席の確保をお願いする。今日は何を食べようかな?

 なんとかありつけたお昼ご飯は、安くて、出来立てで、しかもおいしい、の三拍子そろった文句なしの一品だった。食べたのは普通のカレーライスだったけど、朝から授業に頭を使い、たくさん体を動かした腹ペコ学生には、それだって十分すぎるごちそうなのだ。


 午後の授業はほんとに大変だった。カレーで満腹の体と午後のあったかい空気。これで寝るなっていう方が無理な話だ。体育で、はしゃぎすぎたツケが今になって回ってきたのかもしれない。「午後はお昼寝の時間です」みたいにそういう授業時間を設けてほしいレベルだ。

 でも、現実はそうやさしくない。午後は二時間とも、おっかない先生の担当だった。こんな中おちおち眠ってみようものなら雷が落ちる。くわばらくわばら。押し寄せる眠気の波にシャーペンと爪で応戦した。やがて、鳴り響く戦闘終了のチャイム。なんとか眠気に打ち勝てたようだ。

 ……授業が終わった途端、目が冴えてくるのはなんなんだろうな、まったく。

 腕についた無数の〝名誉の傷跡〟を見て思わず笑いがこぼれた。


 放課後。今日は部活がない日だ。いつも一緒に帰る友達と話して、こっそり、寄り道をすることにした。学校の最寄り近くで寄り道なんて、先生たちに見つかったら、お咎めなしとはいかないだろう。実際、クレームの電話が学校に寄せられたなんて話も聞いたことがある。

 でも、ダメと言われればやりたくなるのが子供の性分!

 よくわからない謎テンションで学校を後にした。と言っても行くのはコンビニだけど。


 家路につく頃にはすっかり日が暮れていた。

 もうすぐ今日が終わる。家で食べた夜ご飯は懐かしい味がして、なんだか泣きそうになった。歯磨きをして、お風呂に入って、と寝支度を進める。布団の上でふと思い出したのは宿題の存在。起きて片付けようか一瞬悩んだけど、めんどくさいしもういいか。宿題は明日早起きしてやればいいよね。おやすみなさい。目を閉じて、すぅっと眠りに落ちた。




**




 目を開けた。

 視界に入ったそこは真っ白い無菌室のような空間。目覚めたばかりの頭では、状況の把握に少し時間がかかった。


 あぁそうか、あれは……——。


 段々と意識が現実へ戻ってくる。それを待っていたかのように、スーツ姿の男が話しかけてきた。

「おはようございます。お客様がデザインなさった〝青春〟はお楽しみいただけましたでしょうか?〝青春追体験サービス〟の又のご利用を、心よりお待ちしております」

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