旧き時代の盟友に我が想いは届くだろうか

【大陸間の航海について:この世界の大陸と大陸を繋ぐ航路はたった三つしか存在しない。ゼーラント王国の港から出港し、北東(↗)を進み砂漠地帯に辿り着く航路。ゼーラント王国の港から出港し、小さな島を経由し進み山岳地帯に辿り着く航路。そしてゼーラント王国の港から出港し、南東(↘)を進み雪原地帯に辿り着く航路だ。大海原に潜む魔物から襲われないようにする魔法道具も存在はするが、主に犯罪者などが使う物であり一般的ではない。ただ、魔法道具があろうと航海が必ずしも成功するとは限らず、運に左右される部分や空中に棲む魔物に襲われる可能性もあるので、と言えるだろう。】


朝早くから演奏の練習は始まった。まさか、異世界に来てまで朝練するとは思わなかった。


「それじゃあ、まずは基礎練習から。」


そう言って、俺はバイオリンに似た楽器を弾く。どういう原理なのか、指で六本ある絃を弾くと音が出るのだ。ギターに似ていると思えば、楽器の底にある緑色の鎖を回すことで音程が大きく変わった。この音程を変える所作を演奏中にこなすのだから、この世界の演奏家、神官はかなりすごい職業なのだろう。


「……すごいわね、本当に初めてなの?」

「ええ、まぁ。」

「初心者でこれだけできるなんて、もしかして家族は神官か何かだったりするのかしら?」

「いえ、違いますよ。ただの一般人です。」

「そうなんだ。もし冒険者辞めたくなったらうちの教会に来なさい。いつでも歓迎するわ。」

「ははは。勧誘も良いけど、ちゃんと自分の仕事しようね。」

「分かってるわよ。」


現在、楽器を弾いているのは、俺と神官の女性、そして建築現場の監督さんだけだ。まさか監督さんまで楽器を弾けるとは思ってもみなかった。


「トモヤ君、君は飲み込みが早いし、この調子で行けばきっと大丈夫だね。」


監督さんの励ましの言葉が心に染みる。


「じゃあそろそろ休憩にしようか!!」


そう言って彼は飲み物を持ってきてくれた。


「ありがとうございます!!いただきます。」


喉が渇いていたので一気に飲む。これは、紅茶に近い味だな。恐らくお茶なのだろうが、俺はこっちの世界に来てから、飲料は水とミルクくらいしか飲んでいない。

冷えたお茶を飲み干すと、少し気分が落ち着くような気がした。懐かしい味覚に感動しながら、「ふぅーっ。」と息を吐くと頬にポツリッと水滴が落ちてくる。

雨雲だ。空を見上げると、南の方角から黒い雲がどんどん近づいてきているのが見える。その様子はまるで、水面に墨が落ちて広がっていく様だった。


「……この辺は雨が少ない地域なんだ。だけど、あの塔ができたせいで最近は雨がよく降るようになったんだよ。」


監督さんが塔を見ながら言う。


「それに加えて、この雨どうやら酸性雨らしくのよね……触れないように気を付けて。」


女性神官の忠告を聞いて、思わず手を引っ込める。しかし雨は止む気配も無く、次第に強くなっていく。


「このままだと、大陸を覆うのも時間の問題だね……早く何とかしないと……」


俺達の間に沈黙が流れる。


「雨も降ってきたし、今日はこの辺にしておくかい?」


監督さんの提案に対して首を縦に振る。そして俺は今日も崖下へと向かった。到着すると、相変わらず塔から崖下まで伸びた触手がウネウネと動いている。正直、まだ気持ち悪いが、最初の時の様な嫌悪感は無くなっていた。

触手に向かって挨拶をする。


「トモヤぁちゃん。元気にしてたぁ?」


触手から声が聞こえる。俺は遠回しに、雨を降らせていることについて聞いてみた。


「ああぁ……でもねぇ。雨を振らせてるのはワタシじゃないのよぉ。」


どういうことだ? 困惑する俺を察したのか、触手は話を続ける。


「確かにワタシがいると雨が降りやすくはなるけどぉ……ワタシ特有の能力でも、種族特有の能力でも何でも無いのぉ。」


つまり魔強酸粘液には雨雲を作り出す能力は無いと。だったら何故、魔強酸粘液が出現すると雨が降りやすくなるのか?……いや待てよ。もし魔強酸粘液ではなく、別の魔物が直接の原因だとしたら……

俺はその可能性を確かめようと、デイゴアモスに問いかける。


「もしかして別の魔物が関係してたりしないか?」


すると触手は動きを止め、考える素振りを見せる。


「……確かに妙よねぇ。何だかんだ七回は死んでるワタシだけどぉ……ワタシがいる場所は何処であっても雨が降りやすくなるなんてぇ。ありがとねぇ、トモヤちゃん。ワタシも調べてみるわぁ。」


これで何か進展があるといいのだが……

次に俺は、魔強酸粘液の成分が雨に溶けだし酸性雨になっていることについてはどう思ってるか聞いてみた。


「ふぅん……で、それの何が問題なの?」


こちらは先程と違い、興味無さげな態度であった。


「イケサピのトモヤちゃんのお願いでもぉ、その問題についてはノータッチよぉ。正直ワタシの所為でこの大陸が滅んだとしても、ワタシにとっては些事……どうでもいいことだものぉ。」


触手はそう言いながらクネクネと動く。この様子からして、この触手はこの大陸に住む生物への興味は全く無さそうだ。それはここ数日の会話からも伺える。

デイゴアモスの興味の判定は塔の周辺にいる存在しか無く、それ以外はどうでもいいと考えているのだろう。そして魔強酸粘液が与える悪影響に気づいていない……いや、気づいていたところで、行動を変える要因にはならないのだろう。


「なんだか……トモヤちゃんと話していると、昔を思い出ちゃうわねぇ……」


突然、触手が穏やかな口調で話し始める。


「ワタシが六度目の死を経験する前……トモヤちゃんみたいにワタシの話し相手になってくれた娘がいたのよ。」


俺は一旦、黙ってその話を聞いていた。


「確か、エトラちゃんって名前だったかしらぁ……あの子も復活系スキルのどっちか持ってた気がするんだけど……まあ、それはどうでもいいわぁ。」


触手の話し方は少し寂しげに聞こえた。それにしてもエトラ……何処かでその名前を耳にしたことがある様な気がする……


「あの子、本を書いてるんだっけぇ。また会いたいわねぇ……」


その言葉を聞いた瞬間、俺の心臓が大きく跳ね上がる。そして俺の脳裏にある人物が浮かぶ。学園の図書館にあり、手書きで書かれた古書。その著者はエトラという名前であったはずだ。

あの時、読んだ古書のタイトルは、ゲヘナの扉、蓬莱の樹海、千年赤城、生きた砂漠、そして“魔強酸粘液スライムが居座る塔タワー”。

つまり、目の前にあるこの塔が、その塔そのものである可能性が高い。なんて巡り合わせだ。


「あらぁ?トモヤちゃん、どうかしたの?」


不思議な縁に驚いていると、触手がハテナの形作る。俺は何千何万と生きるこの魔物に興味が湧いてきたのだろう。今はもう少し対話を続けたいと願うようになっていた。この魔物がいるだけで、この大陸の存続が危ういということは、今は忘れていた。もし、いずれはその生命を俺が奪うとしても、今はまだ………

それから暫くの間、会話を続け、「また明日。」と別れを告げる。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル15

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。

『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。

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