泥の怪との邂逅あるいは遭遇

【教皇ディアンティス・ルクス:この大陸の神官達のトップであり、プロイツ王国を拠点にしている。プロイツ王や貴族達との繋がりはあるが、あくまで神官という職業のトップであるため、政治には一切関与しない。肉体は青年だが、これはスキル『不老』の効果であり、実際は108歳である。……】


「……大規模クエスト。」


ゴブリンとスケルトンの争い、何らかの異常事態が発生している。そのことを報告しようとギルドにやって来たが、どうやら事態は深刻な様だ。

ギルドの掲示板に貼られている依頼書を見ると、大規模クエストが大々的に書かれていた。


「大陸に突如現れた魔強酸粘液スライムを討伐する。重要拠点の防衛を行える者、楽器類を演奏できる者は、受付に申し出て下さい……か。」


?拠点の防衛ならまだ分かるが、演奏は何のために必要なんだ? 俺は疑問を抱きながら受付に向かう。受付にはいつも通り受付嬢ウサリアがいた。


「大規模クエスト、俺も参加させて貰っても?」


俺は受付に話しかける。


「勿論……と言いたいところですが、トモヤ様はまだ二つ名持ちとの怪我が完治したばかりですよ?あまり無理をされては……」


彼女は心配そうな顔で言う。


「……あ、防衛の方じゃなくて……演奏の方で……」


俺は少し恥ずかしくなって小声で答える。すると受付嬢は驚愕と歓喜が入り混じったような表情をする。


「それと、報告したことが……」


俺は廃村での出来事について話した。俺があの場で知った魔強酸粘液スライムの復活、出現に関してはギルドは既に把握していたらしい。魔物の変化に着いては、魔強酸粘液スライムという環境破壊者に対して、適応した結果ではないかという見解だった。


「ご報告ありがとうございます。ギルドとしても今回の件は非常に重く受け止めておりまして、既に多くの対策班を結成しています。」


どうやらギルド側もかなり焦っているようだ。


「トモヤ様には現在建築中の拠点に来て頂き、そこで待機して頂きたいと思います。」


まさかの現地待機か……俺は何時もの様にアベルさんとアリシアに軽く挨拶をして、拠点へと向かうことにした。


――――――――――――――――――――――――――

俺が到着して、まず最初に行ったことは拠点建築を手伝うことだった。


「いやぁ助かるよ。君みたいな人が手伝ってくれると本当に心強い!」


建築現場の監督らしき男性が俺に感謝の言葉を述べる。


「いえ……俺なんて大したこと無いですよ。」

「謙遜することは無いさ!時間は有る様で少ないからね。あれを見てくれ。」


彼が指差す方向を見ると、海の上にどっしりと塔が建っていた。


「魔強酸粘液はあの塔を拠点にしているらしくてね。ここから攻撃を加えるつもりなんだ。」

「そうは言っても、ここは崖の上ですよ……どうやって?」


崖と塔もそれなりに離れている。流石に弓や魔法が届く距離ではないだろう。

俺の質問に対して、監督はニヤリと笑う。


「だから演奏要員が必要なのさ。」


正直、何が言いたいのかよく分からない。苦笑いを浮かべていると神官服を着た女性がこちらに向かってくるのが見えた。


「ごめんなさい。誰か空いてる人いないかしら?」


女性は困り果てた様子で監督に聞く。


「……何時ものだね。」


監督が女性を見ながら言うと、彼女は大きく溜息をつく。


「攻撃してくる様子は無いけど、あの声を聞くと気が滅入るわ……それに……」


彼女が言葉を濁すと、監督は全てを悟ったかの様に俺の肩に手を置く。そして女性の視線も俺を捉えていることに気付いた。

え?俺?戸惑う俺を無視して、俺は崖下の広場へと連れていかれた。そこから塔を見ると、一本の毒々しい触手が伸びてこちらを見ていた。


「あらぁ新しい子?イイオトコじゃない……ってかドストライクよぉ!!」


声と共に触手が急に激しく動くと、先端からピンク色の液体が飛び出した。咄嵯に回避したが、液体が当たった木が刺激音を立てながらドロドロに溶けていくのを見てゾッとする。


「あら?ごめんなさいねぇ……ワタシ手加減できないのよぉねぇ。」


触手からケタケタと女性口調の男声が聞こえる。クネクネとした声と触手の動きが気持ち悪い。女性は攻撃する様子は無いと言っていたが、この様子だと嘘としか思えない。


「最近、人族のお子ちゃま達がこの辺にうろちょろシテルのよぉ……イケサピは何か知ってるぅ?」


恐らく崖上で作られている拠点について言っているのだろう。ってかイケサピって何だよ……と心の中でツッコミを入れていると、それを察したのか触手の先端が俺の顔に目掛けて飛んできた。


「因みにイケサピはイケてる人族ホモ・サピエンスの男って意味よぉ!」


なるほど……気が滅入るってこういうことか……攻撃では無いにしても、周りに与える被害と精神的なダメージはかなりのものだと思う。


「そう言えば、イケサピのお名前は?ワタシはデイゴアモスちゃんって言うのよぉ。」


ここは自己紹介すべきだろうか……?と考えていると、塔の方から大きな音が聞こえてきた。


「あらん?オヤツ達が暴れてるみたいねぇ。ちょっと待っててねぇ。」


触手が引っ込むと、塔の方から死臭が漂ってくる。そして数分後、再び一本の触手が現れる。


「じゃあワタシはオヤスミタイムだから……また来てね。イ・ケ・サ・ピ。」


その言葉と同時に触手は塔の方に帰って行った。俺はただ呆然と眺めることしかできなかった。


「……大丈夫?何かされてない?怪我とかしてないかしら?」


先程の女性が駆け寄ってきて俺を心配する。


「怪我は無いですけど……」

「……あの魔強酸粘液スライム、毎日触手を崖下に伸ばして、話し掛けて来るのよ……」


彼女も相当参っている様だ。


「だから頼んだわ!!あのオカマの注意を引き付けて、クエスト内容以外なら何話しても大丈夫だから!!」


そう言うと彼女は俺を置いて走り去ってしまった。


「……マジかよ。」


俺は小さく呟いた。これに加えて演奏練習もするとなると、かなりハードな一日になりそうだが……


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル15

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。

『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る