桐一葉落ちて海老は知る

【巨赤:二つ名持ちのエルドシュリンプであり、一匹で村や街を壊滅させる力を持つ魔物。主な特徴はその名の通り巨大な身体と鋏である。それだけではなく、水質の浄化力も高く、簡単に純水を作ることができる。それ故に純水の中でも生活できるが、。ちなみに水を純水にする理由は、水の透明度を上げて住処に入って来た獲物を視認しやすくするためである。】


俺は川から飛び出し、空中から岩や投げつけるが、巨赤はそれらを軽々避けてしまう。そしてそのまま巨赤は水中に潜ってしまった。


「……ぐぅ。」


口から血が溢れ出す。呼吸をする度に肺が悲鳴を上げていた。鋏で挟まれた時に、俺の肋骨が折れてしまったらしい。折れた肋骨の一部が腹部に刺さっているのか、呼吸するだけで激痛が走る。


「くそぉ……このままじゃ……」


意識が飛びそうになる中、一人で行動していることに後悔した。リザンテを今回は連れて来なかった結果がこれだ。


「全く……本当に……何やってんだよ……」


だが、ここで諦めるわけにはいかない。俺は簡易治療の魔法を自分に施し、何とか立ち上がる。どうやら巨赤は臆病でありながら同時に狡猾なようだ。獲物が透明度の高くなった水中に入って来た瞬間を狙って襲っているのだろう。

あの透明度は底まで見通せる程、澄んでいる。しかもあの鋏、俺は何とか障壁魔法を割り込ませたが、数秒挟んだだけでこのダメージだ。

情報をまとめながら、俺は槍を構える。

巨赤は俺を待っている。水中戦の経験が無い俺よりも、あちらが当然何倍も有利ということになる。普通に考えて、俺が水中で戦うのは無謀だ。


「だったら……川から引きずり出せばいいだけの話……だ!!」


風魔法、圧風。本来であれば風を一点から吹き出し、対象を吹き飛ばす魔法だ。使い方によっては、相手がいる地点からこの圧風を放てば、必然的に俺がいる方向に飛ばされるということだ。

とはいえ、巨大な魔物であるエルドシュリンプ、それに加えて水圧などの抵抗もある。水中から無理やり地上に引きずり出すことは非常に困難を極めるが、今の俺はそんなことは気にしていられなかった。

透明度が高い川だからこそ、本来であれば見えないはずの巨赤の姿がくっきりと見える。すると巨赤は何かを感じ取ったようで慌てて泳ぎ始めた。しかし、時既に遅し。巨赤は水中から空中へ轟音を響かせながら打ち上げられ、そして地面に叩きつけられた。巨赤はビクビクと痙攣している。


「……地上には……あんまり適応していないみたいだな。」


そう呟き、俺は槍を構えて跳躍する。この隙を逃す手はない。無防備になった身体目掛けて全力で突きを放った。


「硬ぇ……」


弱々しく痙攣しているとは言っても、こいつは本来の生態とは大きく変化した化け物だ。外骨格の防御力も相当上がっているのだろう。


「……お互いボロボロだな。」


先程の一撃で俺も相当なダメージを受けた。今回は一人で行動しているが故に、気絶などしてしまれば、間違いなく死ぬことになる。ここを乗り切れなければ、俺は確実に死ぬ。

巨赤も伊達にここまで生き延びてはいない。痙攣しているが、少しづつ川に戻ろうとしていた。


「逃すかよ!」


俺は再度、渾身の力を込めて巨赤めがけて槍を突き立てる。全力で投擲すれば、ボロボロだったとは言え、緑雷の身体を簡単に貫いた槍の威力は絶大であり、巨赤の外骨格に少しづつヒビを刻んでいく。


「こいつで……トドメだ!!」


終わりの時は近い。俺は障壁魔法で巨赤を挟み込み、一気に締め付ける。ミシミシと音を立て、更にヒビが広がっていくと内側の限界を迎えたのか、巨赤は爆散した。


「……強力な鋏で敵を挟み潰す魔物の最期は、障壁魔法で挟み潰れて絶命……か。」


俺は巨赤の死骸を見つめる。損傷がほとんど無い巨赤の鋏を回収すると、息を吐きながら座り込んだ。


「……さて、どうするか。」


今回、リザンテを連れて来なかったことは、結果的に良かったと言えるかもしれない。緑雷や巨赤は、毛皮や外骨格で全身を覆われているため、猛毒の効果が薄い魔物だったからだ。


「簡易治療、簡易治療……早く治ってくれねぇかな……」


俺はその場で仰向けになって寝転がった。


《熟練度が一定に達しました。個体名"トモヤ・ハガヤ"がレベル15になりました。》

《身体の損傷を再生します。》

《スキルポイントを入手しました。》


――――――――――――――――――――――――――

「で、結局トモヤ・ハガヤがエルドの名を持つ獣達から天敵だと認識されている理由とは何だ?」


バランはイザベルに質問をする。その問いに対してイザベルは答えた。


「この世界に招待した時点で彼等に異能力カリスマを与えて強化しているのは知っていますよね?」


バランはもしやと思いながらもイザベルの発言を黙って聞いていた。


「それはつまり、。」


それを聞いたバランはまた大きくため息をつく。


「……予想はしていたが、やはりそういうことになるか。」


バランのため息の意味を理解しているのか、イザベルは微笑みながら答える。


「今回の出来事と全く同じことが、これから何度も起きるということですよ。」


エルドの名を持つ獣達とトモヤ達が遭遇すれば、今回のように天敵だと認知し活性化する。イザベルはただ事実としてそれを告げた。


「……頭が痛くなるな。」

「まぁ、仕方ないことです。そうしなければ彼等は招待した時点で死んでしまいますからね。」

「……そうは言っても、既に27名の内、8。」

「運が無かった……としか言えませんが、それも運命でしょう。」

「……確かにそうだな。」


イザベル自身はトモヤに対して、贔屓していないと思っている。だが、バランは気付いていた。ガリア平原でトモヤを生かす行為をした時点で、イザベルはトモヤを部下にするつもりなのだと。現在、イザベルに部下と呼べる存在はいない。かつては数えられない程いたのだが、ある者はイザベルに殺された。ある者はクババとの軽い喧嘩の中で、余波に巻き込まれて死んだ。またある者は、闘争を求めて部下を辞めた。

もしトモヤがイザベルの部下になったとしても、単なる人族として幸のある生き方を送るのは難しいだろう。


「(本当に面倒臭い女神やつに目を付けられたものだ……トモヤ・ハガヤ……)」


バランは心の中でトモヤに同情する。真っ当な死に方が出来るかも怪しいものだ。「いや、仮に死んだとしてもイザベルの玩具になるだけか?」と、そこまで考えてからバランは思考を打ち切った。いくら考えたところで、バラン自身にとっては意味は無い。

それに、世界では何が起こっても不思議では無い。イザベルが明日、トモヤを殺すかも知れない。それが現実に起きたとしても、自分に出来ることは何一つとして存在しないのだから。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル15

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。

『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。

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