水面から波紋が消えるまで

【波紋:波の一種であり、水面に広がる水の輪模様。転じて、動揺を与えるような影響。また音や電波を表す場合もある。】


「キシャァ!!」


討伐対象二体目に選んだのは緑雷こと、エルドオオウソの二つ名持ちだった。緑雷が住処にしていたのは、小さな廃村のため池だった。

緑雷はその名の通り、緑色の雷の様な光線を放ってくる。口以外にも腕や足からも放ってくるので、かなり厄介な相手だ。威力もかなり高く、結界魔法の障壁に簡単に穴を空けてくる。


「大雑把な様に見えて、実際は繊細な攻撃だな……」

それにしても、分厚い毛皮で電気抵抗が高いのか、それとも単純に電撃無効や耐性などのスキルを持っているのか分からないが、緑雷は自らの光線に感電している様子は無かった。


「キシャァァァァァァァ!!」


緑雷は廃村の瓦礫や土木を使い、壁を作ったり、瓦礫や岩を投げつけてきたりと、多彩な攻撃を仕掛けてきた。白翼とは違って知能が高く、全く隙を見せない。老化を発動してはいたが、緑雷には何の変化も見られなかった。


「流石は二つ名持ちってところか……ならこれはどうだ!!」


俺は中身が入った袋を取り出し、思い切り投げつけた。魔法道具の爆弾である。粉状になるまで削った鉱石類に、火魔法を付与したものだ。

轟音と共に爆風が緑雷を襲う。この魔法道具は使い方によっては自爆する恐れがあるので、使う場所を選ぶのだが、今回は問題無いだろう。爆煙が晴れると、そこには全身の毛が焼け焦げた緑雷の姿があった。


「随分とイメチェンしたじゃないか。」

「キシャァァ!?」


俺の言葉に怒ったのか、緑雷は身体中から光線を放つ。無数の光線が俺を殺すために襲いかかる。


「……そこだ!!」


俺は槍を力一杯投げつける。その先には緑雷の身体。槍は緑雷の身体を貫き、緑雷の背後にあった大木も貫通し、やがて重力に負けて地面に落ちた。


「……キシャ……ァ……」


緑雷はそのまま息絶えた。


「……スムーズに終わったな。」


俺は完全に絶命した緑雷を眺めながら、受付嬢の言葉を思い出していた。


「白翼、緑雷。そして討伐対象最後の一体となった巨赤。俺を天敵だと認識した三体の魔物……」


そういえば、緑雷の住処もまた直感的に辿り着いたものだった。


「……何かあるのか?俺が選ばれた理由が。」


そのまま俺は巨赤を捜索することにした。エルドシュリンプは恐らく水中から出てこないだろうから、どのように対応すべきか考えなければならないだろう。

数時間後……

俺はエルドオオウソの死体が大量に積まれた川を見つけた。死体はどれも蛆が湧いていて、まるで死体自体には興味が無いと言わんばかりに放置されていた。


「くぅ……」


腐乱臭が鼻腔をくすぐる。思わず吐きそうになったが何とか堪えた。しかし、この臭いと目の前の光景を見て、何が起こったかを察するのは容易だった。

すると水中からエルドタイガーの上半身が飛び出てきた。


「ギャ……」


切断面はペンチの様なもので、力任せに潰されたようだった。


「いるんだな……この川に巨赤が……」


ゴクリと唾を飲み込む。このような縄張りの作り方もあるのだと実感させられた。俺は川辺の死体を火魔法で燃やした後、川に飛び込んだ。

水中は異常なほど透き通っていた。たしか自然の水の透明度ってプランクトンとかの不純物の量で決まるんじゃなかったかな……つまりこの異常な透明度は純水に近いということだ。


「(って事は巨赤は川中の魔物を殺し尽くし、プランクトンなどの水中の微生物すら消し去ったということか。)」


……こいつが三体の二つ名持ちの中で断トツでヤバい奴だと言うのは分かった。この辺りはまだ下流の方だから良いが、もし上流にいたら……

巨赤の自然に与える悪影響を想像していた俺の行動は油断という他無かった。突如として巨大な影が視界を覆ったのだ。


「(この透明度は……罠だったか!!)ぐっ!!」


気付いた時には遅かった。水中で俺は巨赤の鋏に捕まってしまった。海老よりは蝦蛄シャコに近いかもしれない。巨赤は凄まじい力で締め付けてくる。脳裏に浮かぶのは上下半身に別れたエルドタイガーの姿だった。


――――――――――――――――――――――――――

「この世に意味の無い事象、現象など存在しません。例えば……生命の危機を感じるまで追い詰めれたエルドシュリンプは自身の鋏の斬れ味を捨てて、圧迫切断に特化した攻撃を行うようになります。」


イザベルはそう言うと、資料を一枚めくってバランに説明を続ける。


「他にも身体を肥大化させたり、視力を極端に上げたりと、様々な変化を遂げていきます。ですが、やはり最も恐ろしいのは水質の浄化力でしょう。」


イザベルは更に資料をめくる。資料には何らかの数値が記されていた。


「50ヘクタールの湖を三日程の時間で水中の微生物や栄養素を分解し、純水にしてしまうのです。」


バランは空間に円状の線を描いていく。するとその円にトモヤの様子がゆっくりと映し出されていく。


「で、どうするつもりだ?今度こそお前のお気に入りが死ぬぞ?」


バランは特に表情を変えず淡々と話す。


イザベルは「その言葉を待っていた。」とでも言いたげに微笑む。


「イレギュラーな存在だからと言って、エルドの名を持つ獣達から天敵と認識されているのは事実。さっきも言ったでしょう?この世に意味の無い事象、現象は無いって。」


エルドとは地名でも特徴を表す言葉では無い。エルドという単語の意味は、選ばれた力という意味を持っている。簡単に言ってしまえば、神々がデザインした魔物の中でそれなりに自信のある作品だということだ。

イザベルは発言し追えると円を指差す。するとそこに映っていたのは、鋏と身体の間に障壁魔法を割り込ませて脱出したトモヤの姿だった。


「……数箇所の肋骨骨折に、腹部損傷、そして水圧で内臓にもダメージがあるな。」


バランは鑑定を使い、映像越しにトモヤの状態を確認する。


「(この人族おとこ……一体何回死にかけるつもりだ……)」


バランの内情としては、呆れ半分申し訳なさ半分といったところだろうか。アヌンナキの中では比較的に現代日本の倫理観に近い感性を持つ彼にとっては、地球の日本という国別宇宙にある惑星の島国から来た人間達に魔物との殺し合い強いている現状を快く思ってはいない。


「(足掻け……それがこの世界から抜け出す為の唯一にして絶対の手段なのだから……)」


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

人族ホモ・サピエンス︰レベル14

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。

『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。

グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。

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