第8話 - 集落

集落を作ると決めてから数日が経った



その間、エルフ商団が訪れ交易を行った

よほどアラクネ布の期待値が高いらしく、前回三人だった商団が6人になり護衛も増えていた


相変わらず商団のリーダーはソロン・クルーのようだ

ソロンが近づいてくる


「随分にぎやかになったな」

「そうだね、そろそろ移住を考えているんだ」

「そうしたほうがいいだろうな、行き先は決めているのか?」

「決めてある、ここから見えると思うが、川の向こうに更地があるだろう?」


俺は崖から見える川の向こうを指さした

それを見たソロンは驚き、質問してきた


「あれだけの土地を10日足らずで整備したのか?」

「いや...なんというか...アヌビスがやったんだ...」

「ミストラル・ガルムが?土木工事などするのか??」


魔物が土木工事をするわけがない

いや、モグタン達は畑を耕すことができるのでまったくできないわけではないな

いらぬ誤解を産むところだった、俺は少し困った顔で返答した


「あそこでアヌビスが怒っちゃってね」

「な、なるほど、そういう事か、それにしてもすごい威力だな」

「俺も震えあがったよ、次アヌビスが怒るときは注意しないといけないな」

「ハハハ、違いない」


なんでもない会話をしながら交易は順調に終わった

前回依頼した分もちゃんとある、これで料理の幅が増えるだろう


今回も満足そうにエルフたちは去っていく、次は新しい集落で取引になるだろう

取引所も作りたいな、備蓄も増えたし、そろそろ倉庫も欲しい

新しい集落ではやりたいことがいっぱいあるな


そして、ミミたち猫娘たちの方はというと

危惧していた通り、村は廃墟となっていたがオーク達は村人たちを全て攫って行ったようだ

死体は無く、アンデッド等の魔物はいなかったそうだ

いくつかの建物は損壊、全焼していたそうだが、残った家から大工道具を調達でき

その他、魔獣も連れて帰ってきた


小さなワームとスライムだった

これらは森の掃除屋と呼ばれ、ゴミを処理してくれるそうだ

ミミたちのおかげでこれからトイレが臭くなくなると思うと助かる


俺たちは更地に到着し、準備を始めた


まずは簡単な寝床としてハンモックを人数分用意し

焚火、調理用の台などを用意した


アラクネたちは木の上で生活するので周辺の森に一時的に避難してもらおう


更地とは言え、折れた木や飛ばされた樹木がまるまる残っている

これから重労働が始まるわけだが、前回倒したゴーレムの核がまだ生きており

エルフたちに新しいゴーレムを作る方法を教わったので試してみる


アヌビスに土の選別を依頼して、精霊たちに手伝ってもらった

作るゴーレムは土のゴーレムだ


「よし、ここでいいかな、小さな土の人形を作って...核を埋める...」


すると小さな人形の周りに土が集まって大きなゴーレムの形を成した

3メートルほどもあるだろうか、思っていたより大きくなった

ゴーレムと会話はできないが、作った瞬間から光を帯び、俺の中に吸い込まれていった

この現象はなんだろうか、いつか正体がわかるといいが


ゴーレムと会話はできないが、俺の頭の中のイメージが的確に伝わるようで作業は捗った

木材を加工しているのはミミたちだ

もって帰ってきた大工道具で次々と木材を作り出していく


これなら数日で家は完成するだろう



5日後



家が完成した

集落として決めた更地の中央に大きな家が一軒ポツンと立っている


間取りは中央に大きな食堂があり、食堂の右側に調理房と倉庫

左側にはトイレがある


二階建てで二階の中央は吹き抜け、左右にそれぞれ部屋を設けた

とりあえず8部屋は確保できた、一部屋くらいは客間として使えるだろうか


そして、家から川へ向かう敷地は一帯を畑にした

かなりの大きさになったが冬の備蓄も必要になるのでこれでいいだろう


畑に植えるものは猫娘たちが森から調達してきてくれた

穀物、果実などいくつかをバランスよく植えたそうだ


収穫がいつになるかわからないが楽しみだ


その夜、完成祝いを兼ねて、食堂でいつものようにみんなで集まった


ミミが嬉しそうに話しかけてくれた

「やっと、集落として機能しそうですね」


他の猫娘たちも一様に喜び話し出した


「私たちの村が壊滅したときは本当にどうなるかと思いましたよ!」

「ほんと!玄人さんのおかげでこんなにも早くまともな生活に復帰できたわ」

「ね!実はエルフと交易してるなんて驚いたわ、こんなにおいしい料理をまた食べられるとは思っていなかったもの」


俺はその様子を見て微笑みながら返事をした


「俺だってこんなに早く家が作れるとは思ってなかった、君たちのおかげだよ」


まただ、猫娘たちがぼんやり光り、俺の中に光が集まってくる

この現象は一定の規則性があるように思える


食事時にこうなるのだ

アヌビスやアラクネ、まめいにはこの現象はおこらないが

モグタンや猫娘たちは食事時なのだ

ゴーレムは作ってすぐだったのでまだ断定するのは早いかもしれない


うーん、どんな意味があるのかわからない...

とりあえず今は深く考えないでおこう


食事が終わり、自室でくつろいでいるとノックする音が聞こえた


「おや?誰だい」


すると、ミミが姿を現した、赤面している


「何か相談事か?」


俺はミミに問いかけてみた

ミミは真っ赤になりながら小声で語りかけてきた


「あの、私たちを受け入れてくれたことを感謝します」


急に改まってなんだろうか?俺はどう返事すればよいか戸惑っていた

ミミは着衣を脱ぎ始め、ついには裸になってしまった


そういう事か...さすがにこの世界で俺が若いとは言えそこまで鈍くはない

おそらく、彼女は政治的な理由でここに来たのだ


集落ができ、戦闘力においては俺はそれほどだが、集落の中心人物だ

猫娘たちを受け入れはしたが彼女らは不安なのだ

俺の気分次第で追い出されないよう、繋がっておきたいのだろう


ミミが隣に座り、話しかけてくる

「あの、獣人はお嫌いでしょうか」


さすがに想定していなかったので若干恥ずかしい

あまり直視しないように返事をした


「君たちの気持ちはわかるが、想定してなくって...どうしたらいいか...」


ミミはさらに近づいてくる


「お嫌いでなければ...好きなように扱ってください...」


やばい、どうしよう、恥ずかしい

そんな風に女性から言われたことなんてない、こっちが赤面してしまう


ぐいぐい迫ってくるミミに今にも押し倒される寸前になった

猫は肉食だ、つまり肉食系女子か...油断していた、このままではヤられる!!


---まめいの部屋----


そんな騒がしい部屋の様子を、隣の部屋でまめいは壁にぴったりと張り付き

ドキドキしながら聞いていた...


「玄人...この世界の最初の人が...ケモミミでええんか...?」



数週間後



畑に植えた作物から芽出て、少し大きくなってきた


集落の増築は進み

取引所と新しい倉庫、アラクネ用の住処と縫製所、畜舎が出来ていた


あれから二種類ほど魔獣の家族が増えたからだ

どちらも草食で集落の北側を中心に生活してもらっている


もれなくぼんやりとした光も受け取った

なんとなくわかってきたが、どうやら信頼関係が成り立つと光を受け取ることになるらしい

相変わらずこれは俺にしか見えないみたいだ


そしてあまりに実力差がある相手から受け取ることもできないようだ

アヌビス、アラクネからは未だに受け取れないが、まめいからも光を受け取った

あの夜の事があってから、翌日くらいに


魔獣たちは牛の魔獣と鶏のような小さな鳥の魔獣だった

見た目通り、卵と牛乳のようなものが得られる


卵と牛乳は料理全般に幅広く使われるため非常にありがたかった

また、牛は毛が長く、刈り取らないとどんどん伸びるため新しい繊維として利用できた

保温性が高く、これなら冬が来ても安心だろう


ただ、人手が足りなくなってきた

家畜の世話、畑の世話、日用品の手入れや建築

まだまだやることが多いので猫娘たちだけではとても回らないのだ


アラクネは交易品づくりと子育てがあるので手が離せないし

ゴーレムは簡単な指示でなければ、あまり器用ではないためモノを壊してしまう

重たい荷物を運ぶことがなければ基本門番だ


アヌビスは集落の護衛兼肉調達係、無論建築などできるような体ではない


俺は移住者を募ることにした

とはいえ今までここを通りがかる人、魔物はおらず、探しに行かねばならなかった


闇雲に森の中を歩くのはさすがに効率が悪い

以前猫娘たちに聞いた散り散りになった仲間の行方を知らないだろうか


俺はミミを探して聞いてみた


「ミミ!相談がある」


ミミは畑の手入れをしていたが、手を止め、こちらへ駆け寄ってくれた


「なにかありましたか?」

「以前、君たちの村が壊滅しただろ?その時の仲間たちがどこへ行ったか知らないか?」

「うーん、残念ながら...わかりません、なぜそんなことを聞くのですか?」


俺は現状の人手不足について話をした後、移住者を募る話しを説明した

するとミミは少し考えた後、提案してくれた


「この森の南西に沼地があるんですが、そこへ行けば、知能のある魔物が住んでいるはずですよ」

「へえ、具体的にはどんな魔物なのかわかるかな?準備をしたい」

「そうですね、聞いた話でしかないですが、リザードマンや、低級悪魔、ゴーストやスケルトンなど」

「結構いっぱいいそうだな」

「そうですね、私は足を運んだことがないのでわからないですが、行かれるんですか?」


俺は少し考えてみた

集落の近くには川もあるし、リザードマンなら力仕事も任せられそうだ

ゴーストやスケルトンなんて見た目こそアレだが不眠不休で働けるのだろうか?

何より俺のスキルがどこまで通用するのか確かめたくもある


「行くよ、ちょっと試したいことも思いついたし」

「わかりました、行くときは声をかけてください、私もお供します」

「ん?いや、ミミはダメだ」


ミミは少し悲しそうな顔をして質問してきた


「どうしてでしょうか...?」

「ミミはここを護ってほしい、ゴーレムやアラクネはいるが、集落の規模に対してリーダーが少なくなりすぎる、魔物たちは戦闘力こそ高いが指揮ができる生物ではない」

「なるほど、確かに...では私たち獣人の中から一人お供させてください」

「それならいいぞ、留守は頼んだ」

「わかりました、無事に帰ってきてくださいね」


こうして俺は新しい集落の住人を見つける決意をし、準備を始めた

エルフと交易で手に入れた装備を身にまとい、今回は俺も戦闘に参加するつもりだ


移動速度と兵站、補給の兼ね合いで少数精鋭を目指し、組織した

俺、アヌビス、猫娘x1


3人であれば素早く移動が可能で、補給もいらないだろう

医療品も集落に必要な分は残しつつ、俺たちが傷ついた時に使う分もいくつかもった

思えばこれまで冒険らしい事をしたことがなかったので少し楽しみだ

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