第18話 火魔先生のモンスター化

 野球部監督の火魔ひま弧宇治こうじは、練習に来ていない里佐土りさどを探しに、学校中を回っていた。



「あいつ、どこ行ったんだぁ」



 トイレや物置を開けてみたが、一向に里佐土りさどの姿が見えない。残るは屋上だけと、彼は階段を駆け上がる。



「何だぁ、これは?」



 屋上の昇降口しょうこうぐち前に、女性のスーツが落ちていた。満地まんちの名札が付いている。火魔ひま満地まんち先生の身に何があったか心配になり、慌ててドアを押し開ける。



満地まんち先生、どうし、何じゃこりゃあ!」



 屋上に、二足歩行のシロクマとトカゲが立っている。その間に氷漬けにされたライオン風の生き物がいて、火魔ひまは自分の目を疑った。サングラスを外してみたが、景色は変わらない。本物である。



「ひ、火魔ひま先生!?」



 シロクマが目を丸くして、人間の驚きの声を上げる。



「なーにビビってんだよ、相須あいす先生。俺らモンスターなんだぜ。俺の水弾(ウォーター・バレット)を喰らえ!」



 トカゲ男は大きく振りかぶり、右足を上げ、左手に水のボールを持っている。その投球フォームから、火魔ひまは一瞬で、その怪人の正体が里佐土りさどと見破った。



 彼はやめろと声を上げようとしたが、ライオンの硬い尻尾から飛び出した針がヒザに当たってしまう。



「う、うぐう……」



 彼は毒針の刺さったヒザを押さえて、その場にしゃがむ。体が段々と熱くなり、炎がぶわっと出てきた。



「あっ、あちぃ!」



 彼の耳が三角形に尖り、鼻が黒ずんで前に出てきた。頬のあたりに白い毛が生え、書道の筆先のようにふわふわしている。スーツは燃えてなくなり、胸襟や腹筋がむき出しになる。それらの筋肉はうっすらと白い毛に覆われた。首回りは最大のもふもふで、彼の手が埋もれるほどだ。ただ、それ以外の部分は赤い毛で覆われている。



「俺の体、どうなって……」




 モップのような尻尾が出てくる。先端はオレンジ色の炎が出ている。足は茶色い靴下を履いたよう変わる。髪の毛はモヒカン状になり、てっぺんの毛が燃え上がる。彼の吐く息からは、アルコールランプのような小さい炎が出る。



「熱い、熱い、熱いいいい!!」



 彼が叫べば、屋上の床とマンティコアの上半身を包んでいた氷が、一瞬にして溶けた。アイス・ビーストとリザードマンは大量の汗をかいて、舌を出している。



火魔ひま先生、カッコいい……」



 マンティコアは、火魔ひま先生改め炎を操るキツネ獣人―炎狐えんこ―に一目ぼれした。



(続く)

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