絶望税の黙示録

一田和樹

幸福促進税

 新内閣が「幸福元年」を打ち出し、そのための税制を施行した。その名を幸福促進税という。全国の交通機関や道路、店舗に設置された防犯カメラの動画が内閣府幸福管理室で監視され、AIが表情を読み取って顔認証のうえ、幸福度数を毎日計算する。幸福度数によって所得税率が変化する。不幸なものはより高い税率となる。

 絶望的なことを口にしたり書いたりすれば、その場で密告されて課税される。密告したものには謝礼が支払われ、見逃したものには罰金が課される。街には密告者があふれ、誰も信用できない。うかつなことをしゃべったら大損をする。

 ふつうは貧しい者ほど幸福ではないので、消費税と同じく逆進課税となる。一度、貧しくなったり、不幸になったりすると、なかなか抜け出すことはできない。絶望税と呼ばれる由縁だ。


 顔認証システムに絶望を読み取られないための「AIよけ笑い」をみんながするようになり、へらへらした笑いを浮かべる者が街にあふれた。「AIよけ笑い」を貧しい国民がするようになると、日本政府は「絶望撲滅宣言」を発表し、幸福大国日本を世界にアピールした。

「絶望のない日本は、世界一幸福な国です」

 貧しい者は最後の希望にすがった。死ねば苦しみから解放されるという希望だ。

 増加する自殺に対して、日本政府は「これはハッピーエンドである」と閣議決定し、幸福増進を強調した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る