&α そこにある普通.

「へへ」


「へへへ。いえす」


「じゃあ行きますか。東京の離島でバカンス」


「いえすいえす。いえす」


「普通じゃない生態系してるから、蚊とか虫とかに注意しようね?」


「うん。離島にもスーパーあるかな?」


「どうかな。検索してみよっか」


「台風とかは?」


「六月だけど」


「え、なんかさ、ニュースのお天気で」


「あ」


「台風っていうか、なんかすごい低気圧。来てるよね?」


「普通じゃないなこれは」


「へへ」


「うん?」


「あなたがいれば。わたしにはすべてが普通なの」


「いいこと言うね。おいで」


「たとえ風のなか雨のなかでも、おともするぜえ」


「飛行機キャンセルの連絡が来てます」


「ん?」


「出張はキャンセルですね」


「わたしのハネムーンが、きえた。きえてしまった」


「じゃあ今日は、スーパー行こっか。低気圧対策に買い置きとかしよう」


「一週間?」


「出張なくなったんで暇ですね。どこか行きますか?」


「おうちでいっしょにいたいです」


「ハネムーンは?」


「また次の機会ということで。あなたの隣の普通の味を、かみしめたい」


「僕は食べ物なのかな?」


「あっ」


「おっ」


「かつ丼を所望します」


「かつ丼ね。わかりました。寝よっか」


「うん」


 普通。


 夢みたいな、普通。


 でもこの夢は。しゃぼん玉みたいに弾けたりしない。


 普通の向こう側にある、新しい、普通。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

六月四日、普通の向こう側 春嵐 @aiot3110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ