第18話 私の兄、知っていますよね?
当たり前だけど、テレビに出るのは私にとって初めてのことで、とても嬉しいことだった。
だけど、話している時に時君に言うか迷ってしまって、伝えるまで時間がかかったのはきっと、私が呼ばれたのは素人の女子高生としてで、そしてほんのちょっとの出演だからだ。
「それでも緊張するなぁ~……」
もっちゃ……あ、もっちゃんは今いないや。
今日出演するのは前雑誌に載せてもらった時に一緒に写った読モの子達と一緒で、その中の一人が最近人気だから、私はその子のおまけなところもある。
それでも出演するのは十分くらいのコーナーで、今時の女子高生の意見は~みたいな感じで喋るだけだから、誰でもよかったところもあるだろうけど。
「……いやいやいや!」
これも第一歩第一歩!
この子可愛いなって少しでも思ってもらえたら良いことあるだろうし!
テレビに出たことあるってなった途端時君も気が変わるかもしれないし!
「それはないな……」
時君に限ってそういうことはないな……。
時君多分テレビそんな見ないし。うん。
まあ。ただ、時君だったら、こういうお仕事こそ力入れろよって言ってくれるだろうし。
「可愛く映るぞー……!」
◇◆◇◆◇
「あ、相槌しか、ウテナカッタ……」
本当にあっという間に終わった収録の後。
ただ緊張してるうちに私の初テレビ出演は全てが終わっていた。
一緒に来た二人は「ドンマイ」「私も緊張してたし」と慰めてくれるけど、明らかに私だけ緊張のレベルが一つ上だった。
何してたんだろう……やらかしたなぁ……。せっかくスタジオまで来たのに……。
そんな感じで私だけ凹んでる中、一緒に来た二人は「私先に帰るね」「私トイレ」とそこで別れることになった。
私はテレビ局なんか入ったことないから一人になるだけで不安なんだけど、二人はそうじゃないのかなぁ。
そういうメンタルのところで差があるのかもしれない。
うん、緊張してたらダメだもんね……うん。
でも、芸能人と会えたのは嬉しかったな。皆オーラが凄くて。
姿も凄かったけど、喋りも素人からすると凄かった。
皆堂々と喋るし。芸人の人はすぐ面白いこと言えるし。羨ましい。
なんと言っても、特に凄かったのが赤羽美優さん。……ちゃん。
私と同い年なはずなのに全くそう見えない。大人びてる。
そもそも、今時の高校生がテーマなんだから美優ちゃんも言いたいことあったと思うのに、美優ちゃんはコメントを求められた時だけピンポイントで良いこと言ったり面白いこと言ったりしてた。
もう美優ちゃんに聞いとけば大体良いコメントしてくれるみたいな。現場の人達の信頼感が伝わってきた。
すごいな~プロだな~。
説明の時、番組内での順番的にはあのコーナーが最後で、みたいなことはテレビ局の人が言ってたから、今頃美優ちゃん達もスタジオから出てるのかな。
もしかしたら誰か会えるかもしれないしサイン……って、それは皆忙しいだろうし迷惑か。
特に美優ちゃんなんかすぐ他の仕事行ったりしてそうだし。
最近ドラマも映画もバラエティも出てるし、前テレビで休みもないって言ってたのに、今日は全然疲れてなさそうだった。
帰ったらすぐ寝てるのかなー、それでもあんなに働いてたら疲れそうだけど、どうやって毎日回復してるんだろう、気になる。
「私も頑張らないとなぁ」
同い年の美優ちゃんがあんなに凄いんだから。
私もいつまでもとぼとぼ歩いてるわけにはいかな――
「お疲れ様です」
「あ、お疲れ様――んぇぁっ!?」
……あれっ!? 美優ちゃん!?
美優ちゃんのことを考えながら振り返ったらそこには美優ちゃんが……ああ、落ち着こう。
そっか、もう収録終わったのか……。
そしたらとぼとぼ歩いてる私がいたから、私も一応共演者だし声かけてくれたのかな。
や、優しいなぁ、美優ちゃん。
心臓に悪いけど。
「佐藤さん、先行ってていいですよ」
「……ん?」
ただ、いたから声を掛けてくれただけじゃないのか、側についていたマネージャーさんみたいな人を美優ちゃんは先に行かせる。
なんだろう。まるで私に話があるかのような……いやそんなわけ。
「テレビ出演は初めてでしたよね」
「えっ? は、はい……」
あれ……? ざ、雑談してくれてる……?
私と……?
……あ、そうか! 私が全然だったのを見てたから!
先輩としてアドバイスをみたいな……凄い、噂通りの聖人だ……!
「凄い緊張してましたね」
「そ、そうなんです……なんか緊張で全然喋れなくて……」
「まあ、あの程度のコーナーで――」
「でも美優さんは凄い的確なコメントばかりで凄かったです!」
「……それほどでもないですけどね?」
本当は忙しいと思うのに私の話も聞いてくれるし美優ちゃん自身は謙遜するし。
やっぱりこういう謙虚な姿勢が大切なのかなぁ。私も見習わなきゃ。
「その……美優さんはこの後も仕事ですか?」
「ん、まあ、そうですね。もう私は仕事ばっかりでもうテレビも何回出たかわからなくてもう……」
「凄いです! それなのに全然疲れも見えなかったですし……この後も頑張ってください!」
「え、あ、はい。……ありがとうございます」
私なんかは美優ちゃんに頑張ってくださいって言うのもおこがましいかもしれないけど。
でも良かったな……このままじゃ落ち込んで帰るところだったけど、最後に美優ちゃんと話せて。
これは時君にどうだった? って聞かれても自慢できそう。
「美優ちゃんと話してきたよ!」って言ったらさすがに時君もビビるよ、うん。
ちなみに、まだ話してくれるのかな美優ちゃん。近くにいてくれてるけど。
私のためにそんな時間使ってくれるなんて、凄い思い出になっちゃうな。
「美優ちゃんはそんなに仕事続きで、仕事中疲れたりすることはないんですか?」
「ありません。仕事中は疲れは忘れて毎回全力で挑みます。プロなので」
「さすがです……!」
「……いえそれほどでも」
「ちなみに、仕事の後は疲れを取るために何かしてたりするんですか?」
これはもしかしたら、将来私も疲れた時に役に立つかもしれない。
次話せるかもわからないし、聞きたいことは今のうちに聞いておこう。
「聞きたいですか?」
「聞きたいです!」
「……なら、教えてあげます」
秘伝の何かがあるのか一度確認した美優ちゃんは、一回目を瞑った後、バッと目を見開いて。
「それは――『兄』と触れ合うことです!!!」
自信満々に、美優ちゃんにしては珍しく、ちょっと変なことを言ってくれた。
「……兄」
「そうです。人の温もりです。それが仕事の疲れを癒やす一番の薬です」
「なるほど……」
「私は毎日家に帰ると兄とコミュニケーションを取って癒やされています。毎日です。もう一度言います。毎日です」
「ま、毎日……ですか」
そ、そっかぁ。
でも、確かに忙しいと人と話すことも忘れちゃいそうだし、家族と話す時間が、美優ちゃんにとっての休憩時間ってことなのかなぁ。
凄いなぁ、やっぱり国民的女優だけあって独自のリラックス法みたいなのがあるんだ。
「凄いですね……」
「そうでしょう。凄いでしょう」
「それはそうと……美優さんってお兄さんがいたんですね」
「…………ん?」
そう私が言うと、美優ちゃんはちょっと怪訝な顔をする。
「え、あ、にわかですいません……美優さんがお兄さんの話してるの、初めて聞いたので」
「……何を言っているんですか?」
「えっ、あ、すいません! そうですよね、誰でも知ってることですよね……ファンなら知ってて当然の……」
「いや、そうじゃなく」
てっきり私の知識の無さに、怒ったんだと思ったけど、美優ちゃんの顔を見るとそうでもないっぽい。
何か、話が食い違ってる、みたいな顔。
「私の兄、知っていますよね?」
「え……ゆ、有名人、ですか?」
「だからそうじゃなく」
「え?」
そこまで言っても何もわからない私。
「もう私も知ってるので演技しなくていいですから……知ってるじゃないですか」
「え?」
「私がこの前二人の前で演技してたってことも」
「え?」
「だ、だから……知ってますよね?」
そんな私に、美優ちゃんは若干呆れた顔で――
「私が……『早人』の妹だって」
――私の、よく知ってる人の名前を言った。
「え?」
「……え?」
「それは、時早人君、の……?」
「……あれ?」
「え?」
「え?」
……え?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます