第15話 好きだから!

「あー……」


 テストが終わった。


 数日間続いた脳の限界との戦いは終わりを迎え、俺は席に座ったまま燃え尽きた。

 あぁ……俺は高校の中で何回これを繰り返すんだろうなぁ……今度はもっと前から暗記だけでもしとかないとダメだなぁ……。


「いつまで座ってるのさ、早人」

「……余韻に浸ってるのさ」

「悪かったから?」

「……悪くはない」


 けど、良くもない。

 一番俺の実力通りの点数が取れてしまった予感がする。


「まことは余裕そうだなぁ」

「僕はテストの三日前には本気出すからね」

「どうだったんだ」

「今度は一週間前から本気出すよ」

「頑張れ」


 学びを得たなら何よりじゃないか。


「じゃ、余韻に浸ってるなら僕は先に帰るからね」

「ああ……」


 鞄を持って帰っていくまことの後ろ姿を見た後、何となく教室の中を見回す。


 昼過ぎという時間もあって、早く帰りたい生徒はすぐに教室を出ている。

 教室の中でグダグダ過ごしているのは俺みたいなテストに命を懸けていた奴か、話し好きな生徒くらいなものだろう。


 そしてテストに命を懸けていたのは俺だけだったのか、教室で一人で残っているのはもう俺しかいない。

 もっと余韻に浸ろうぜ皆。


 まあ結果次第ではすぐに頭を切り替えたい奴もいるだろうし、単に俺がボーッとしてただけなんだろうけど。

 その理由の一つは、自分でも今思い出しつつある。


「えっ、美山って頭もいいの!?」

「ううん、普通くらいだよ」

「堂々と嘘ついてるけど多分学年で十位には入るよ」

「わー……すっごい」

「言い過ぎだよもっちゃん」


 視界の端では、もっちゃんを交えていつの間にか見知らぬ女子と雑談している美山がいた。


 見知らぬ女子、というのはクラスメートに使っていい表現じゃないかもしれないけど。

 ただ、交流の輪を広める気すらない俺には友達なんてものは増えようもなく、知り合いすらも増える気配はない。


 目立たないことでその現象が起こっている俺と違って、女子の中では図抜けた背とルックスを持ち、近づき難い雰囲気を持つことで俺と同じことが起こってしまっている印象が美山にはあったけど、もうその印象は古いのかもしれない。


 元々、自分から他人に話しかけようとするような奴だから、元々持っていた性質が、正常に働き始めたというべきか。


 ただ、美山自身は中学の頃から多くの友達といるタイプじゃないと言っていたから、あれは美山にとっても新境地なのかもしれない。


「……俺キモっ」


 とか考えちゃって。

 何クラスメートのこと遠目に観察しながら考察してんだよ。何目線だ。かつての仲間目線か。お前は友達できたんだな、みたいな。


 ……まあ別にそんなことはどうでもよくて。

 それに、美山に視線が行くのは別に不自然なことでもないし。


 俺がここに残っている理由は、美山から話を聞くためなんだから。


「…………」


 と言っても、ここで待つのが正しいのかはわからないけど。

 美山は別にテストが終わったその日に話すとは言ってなかったし。


 さらに言えばもう向こうは忘れてるかもしれないし。

 あれから何回か美山と勉強したけど、最近は全くその話はしなかったしな。


 今この場で俺だけ「何の話なんだ……?」ってなってる中、美山は普通にあの友達と教室出ていったらウケるな。いや、俺はウケないけど。


「でも自信あるんでしょ?」

「自信は別に――……あ」


 ただ、ふとこっちを見た美山と、思いがけず目が合ってしまう。

 いやいいよ、友達と話してていいからな、と何とかアイコンタクトで伝えようとしてみるけど、当然何も伝わらない。


 ……なんか俺が美山と話したがることなかったから、この感じ新鮮だな。


「ごめん、今日急いでたの忘れてて……」

「あ、そうなの? ごめんね引き止めて」

「大丈夫大丈夫! じゃあまた!」

「いってらっしゃい~」

「うん!」


 そこで空気を読める男として、今日じゃなくていいからと先に帰ることで伝えようとした俺の後ろから、美山が大慌てで走ってくる。


「ま、待って待って! ごめん遅れて!」

「いや今日約束してたわけじゃないし……いいだろ、追っかけてこなくても」

「あ、いや……私が、今日言いたかったから」


 テスト勉強中には見せなかった顔で照れ隠しのように笑う美山。

 その笑顔を見ると何故か俺も恥ずかしくなって前を向き、歩き出す。


 ……なんだこれ、青春の1ページかよ。


「……歩きながら聞けばいいのか」

「できれば、止まって聞いてほしいな」

「ふーん……」

「あと」


 そこで無意識にスマホのあるポケットに手を突っ込もうとした俺の腕を、美山は横から優しく掴む。


「今日は……スマホも見ながらじゃない方が、嬉しいな」





 中間テスト後。

 部活もなく、残っている生徒もほとんどいない校舎の空き教室。


 美山に連れられるまま来た教室の中で、俺は窓を眺めながら平静を装っている。

 隣にいるのは同じく窓から遠くを眺める美山。


 ふと思うのは、俺の人生の中で何回、教室で誰かと二人きりになることがあるだろうか、なんてこと。


 あり得ないとは思いつつも、シチュエーションから連想される美山の台詞を想像してしまわないほど、俺は漫画やアニメに触れてこなかったわけじゃない。


 母親が持っていた少女漫画にも、父親が持っていた少年漫画にも、奇しくもこういうシーンがあった。

 少女漫画の場合呼び出すのは男側、少年漫画の場合は逆に呼び出すのは女側。

 しかし呼び出した側が言うことは同じだった。


 それをもし自分が体験することになったら――どうしようか。

 そんなことを考えずにいられるほど俺は悟りきった人間じゃない。


 まことには何度も「男が好きなわけじゃないよね?」と確認されたけど、俺は別に可愛さの基準がバグってるだけで女子にはドキドキもするし恋もする。

 初恋の相手は小3の時のクラスメート。美優に邪魔されて近づけなかったほろ苦い思い出もある。


 そんな人間だからこそ、この場でドキドキすることくらい許してほしい。

 絶対に美山はそんなことを言わない。言わないとわかっているのに、美山の雰囲気が俺にそう考えさせる。


 校舎のどこからか聞こえる生徒の笑い声も妙にそういうドラマっぽい。


「…………」


 ……ああもうダメだなぁ! 煩悩まみれだな俺!


 これじゃ絶対まともに話なんて聞けない。

 ……このままじゃ普通に美山に悪い。


 本当に、めちゃくちゃ真面目で大事な話だったらどうすんだよ。余計なことばっか考えやがって。


「じゃ、じゃあ――」

「いや、ごめん。最初に確認させてほしいことがある」

「な、なに?」

「……今から美山は俺をおかしい奴だと思うだろうけど、これは美山の話をちゃんと聞くためだから軽く答えてくれ」

「? うん……」


 不思議そうに首を傾げる美山。

 それも当然だ。


 ただ、これは美山の話に集中するためなんだと、俺は自分の中の恥ずかしさを押さえに押さえて。


「『はい』と答えてくれるだけでいい。……美山は、今から俺に告白する気じゃなくて――」

「なんでわかったの!?」


 ……えっ?


 いや何その反応。えっ?

 はいって言うだけでいいって言ったよね?


「……いや、いや、え」

「あ……っ!」


 そこで初めて自分が何を言ったか理解したかのような反応で、美山は慌てて手で口を塞ぐ。

 そして、何も言わなかったよ~みたいな顔で口笛を吹こうとしてる。吹けてないけど。


「……ここから俺、どうすればいい?」

「な……何も聞かなかったことに……」

「いやそれは……」


 つまり、今のはネタじゃなく、本当に美山がこれから言うことは――


「……え、気持ちは嬉しいけど……?」

「違う違う! 違う! まだ……まだじゃなく、まだ言ってないんだよ!?」

「でも自爆したじゃん」

「したけど!」


 自爆したことを認めた美山は「も~……」としゃがみながらあからさまに落ち込んでる。


「……いやそんな、落ち込むなよ」

「だってさぁー……」

「この反省は次に活かそう」

「何目線!? というか今のは時君が悪かったよね!?」

「えぇ……? そんなことない……だろ」


 俺は別に何かしようとしたわけじゃなくて……美山の話をちゃんと聞けないのが悪いなと思って。

 告白されたらなんて……変な考えは除去しようとしただけで。


「いや……というか……そんなこと、思わないだろ、だって」

「でしょ!? 全然思わなかったでしょ!? だからどんな反応するかなって想像……してたのに!」

「想像って……いや……」


 ……普通に恥ずかしいんだけど。


 というか、怒涛のやり取りも落ち着いて、冷静になればなるほど、美山が俺に告白しようとしてた前提で進む話に違和感しか憶えない。

 何がどうなってこうなったのか、全く頭がついていかない。


「……いつからだよ」

「何がぁ……?」

「そんなこと思いついたの」

「…………今日かなぁ」

「今日かよ!」


 めちゃくちゃ突発的じゃん! 絶対言ったら後悔してたじゃん!


「うん……本当はね、映画館で会った時は……友達になろうって言おうと思ってたんだ」

「映画館……ああ」


 そもそもは、あそこでしようとした話をちゃんとするって話だったっけか。

 その話が、俺のわがままで今日まで熟成されて……こうなったと。


 ……こうなるか?


「もう結構前になっちゃったけど……時君が『俺に聞く理由があるのか』って聞いてくれたこと、覚えてる?」

「覚えてはいる」

「ずっと、その答えを言おうとしてたんだけど……今、言ってもいいかな」

「……え、ああ」


 この空気の中で言っても、問題ないなら。


 個人的には日を改めた方がいいんじゃないかと思ったけど、美山は立ち上がって、真っすぐこっちを見る。


 背の高い美山は、そうして背筋を伸ばすだけでさっきまでの落ち込んでいた印象が一気になくなり、俺の視線が話し始めた美山に吸い込まれる。


「最初はね、クラスの全員に好かれたくて、時君にも聞いてたんだ」

「うん」

「でもずっと時君にだけ聞き続けて、モデルのお仕事に繋がると思ってたかって言ったら、多分時君の言う通りで、思ってなかったと思う」

「……ん」

「それにはきっと途中から気づいてたんだ。一緒に映画行こうって……確かに、今思えばおかしいもんね、うん」

「……まあ、な」


 そう話す美山の語り口は優しくて、真剣で、違うことを考えていた俺を、すぐに話の中に引き込んだ。

 俺がよく考えずに言ったことを、あの時美山は大真面目に考えていたんだろうと、伝わってきた。


「だから、なんで時君に聞きたいんだろうって考えたんだけどさ」

「うん」

「多分、時君に好きになってもらいたいからだと思うんだ」

「……ああ、それは、クラスの全員の」

「ううん、違う。クラスじゃなくて」


「時君に、好きになってもらいたかったんだ」


 恥ずかしそうに、しかし目は逸らさずに。

 俺に向かってストレートに言葉を紡ぐ美山を見ていると、何かが大きく鳴りそうで、斜め下に視線を逸らす。


 それと同時に、美山もどこか別の方向を向いた気配がした。


「ま、まーその……普通の話なんだけどね! クラスって言って始めたけど、時君にばっか聞いてたら、目標が時君に変わって当たり前じゃーん、みたいな……」

「まあ……うん、だな……」


 俺に苦戦してる間に、勝手に目標がすり替わっていて……というだけの話だ。

 別に、俺が特別だったわけじゃない。


「だから、もう、普通に仲良くなりたいしさ、友達になろうよ……って、その時は、言おうと、思ってたんだけど」

「……なんで今日急に変わったんだ」

「急に……では、ないんだけどね」


 そう言うと、今度は美山が視線を下に移す。


「……は、恥ずかしいなぁ」

「今更なこと言うなよ……」


 俺だって最初からずっと照れてんだよ。


「まあ、その……今日、変わったというか、今日まで考えてたんだけど……なんか私、時君が言ったことに凄い助けられてるなぁって、思ったんだ」

「……へ、ぇ」

「時君も頑張ってるから、私も頑張ろう……とも思うし、最近はそのおかげで、いろんなことも、できてるし」


 そう言われ、さっき教室でもっちゃん以外と話していた美山の姿が思い浮かぶ。

 あれが俺のおかげだと言われたら、俺には実感もないし、否定するだろうけど、俺の否定くらいじゃ揺るがないくらい美山は確信を持って話しているように見える。


「ち、ちなみに私、初恋なんだけどさぁ」

「……初恋は小学生の時にする恋だろ」

「え、嘘!?」

「いや嘘だけど」

「なんで嘘つくの!?」


 いやだって、どちらかと言うと美山の発言の方が嘘みたいだし。

 美山がこんなところで嘘はつかないのはわかるけど。


「ってか……だとしたら初恋遅いな」

「だから、恋……って言っていいのかわからないんだけどさ」

「……それを本人に言われても」

「そ、そうだよね……!」


 俺はそれは恋だよとも恋じゃないよとも言えない。

 ただ、本人が恋だと思ってなかったら、告白なんてしないだろう、とは思うけど。


「私からは……以上です」

「……どうも」


 ……ここで帰ったら、こいつなんて言うんだろ。


「待って待って!? 帰るの!?」

「いや動いただけ」

「び、びっくりした……」


 ほっと胸を撫で下ろす美山。

 我ながら不可解な行動だけど。


 ただ、美山にとってまだ帰るタイミングじゃないということは、当然、俺が言わなきゃいけないことがあるんだろう。


「そ、それで……」

「…………」

「こ、ここから、どどどど、どうするのかなぁ……」

「俺に聞かれても」


 俺だってこんな経験ないし。


「……ちなみに、美山は告白したってことでいいのか? 踏みとどまったってことでいいのか?」

「踏みとどまってないよ!?」

「いや……まだ、言ってはないだろ」

「あ……そっか、時君に付き合ってくださいって言ってないや」

「別に今のでいいけど」

「ん!?」


 今の付き合ってくださいは無意識だったのか急に荒ぶる美山。

 別に言うことはわかってたし問題はない気がする。


「私初めて告白したのに……」

「初めてならいいんじゃね」


 できなくても。


「……時君の態度も悪いよ」

「えぇ……」

「もっと真剣じゃないとおかしいもん」


 美山は拗ねたように言う。

 まあ俺もそれは思うけど、最初がおかしかったから仕方がない。


「……じゃあもう一回言うからね」

「ああ……うん」

「付き合ってください」


 そうして、今度はシンプルに、俺は美山に改めて告白される。

 つまり、選択の余地もなく次は俺の番ということで。このおかしな空気の中、俺は初めて自分から喋らなければいけない。


 ――と言っても、初めから、答えは決まっていたけど。


 むしろ、その答えを少しも考える時間を持たずに口にしていいのか、ということの方が悩んでしまう。


「……今、答えてもいいのか」

「う、うんっ――決まってるなら、い、言っていいよ」

「じゃあ、答える」

「うん――」

「俺は多分、誰とも付き合わない」


 緊張しているにもかかわらず、意外と思っていることはすらすら言葉が出た。


 そしてそれを聞いて、美山は口を開いたまま固まった。

 美山を落ち込ませることを言ってる自覚はあるけど、ここで嘘はつけないから仕方がない。


「あ――そっかぁ……うん……私は……可愛くないから……」

「違う違う違う……美山だからじゃないし、美山が嫌いとかじゃないし……」

「……本当?」

「誰ともって言っただろ……それに、美山のことは、恋愛感情かは置いといて、好きだよ」


 最初はただの迷惑な奴だったけど。

 モデルへのこだわりとか、そのための努力とか、知れば知るほど、美山のことを憎めなくなるし、その姿勢に影響を受ける。


 ただ、だからこそ――


「でも、俺は高校生の間は勉強に集中したい」


 美山の告白を受けることはできない。


「美山見て思ったんだよ。俺はなんか、自分のこと半分諦めてたなって。美山はモデルになれるって思ってるけど、俺は、自分は正直勉強しても無理だと思ってた」


 妹を将来追い越してやると思ってたはずなのに、勉強でも身近に上がいることを知って、多分無理だろうと、いつの間にか心のどこかで思ってた。


 無理だと思い始めたのは多分美山を見たからだろうけど、そう思ってることに気づいたのも多分、美山を見たからだ。


「でも、美山見てたら悔しくなってきたから、俺も本気で勉強することにした。次の期末では学年一位取る」

「……そっか」

「だから、誰とも付き合わない。勉強するからな」


 美山がそう言ってくれたことは素直に嬉しかったけど、俺の中の優先順位は揺るがないし、美山のおかげでよりその優先順位は強固になった。


 こんなことにはなったけど、美山には感謝してる。


「図々しいけど、やる気になったのは、俺は美山のおかげだと思ってるから、応援してくれると嬉しい」


 できれば、友達として。


「そっか」


 そうして、一旦は地獄を見たような顔になった美山も、俺の話を聞いてか清々しい表情になっているように見えた。


 今の美山が応援してくれるなら、俺ももっと頑張れる気がする。


「うん……。それなら、私も嬉しいな」

「ありがとう。これからはできれば友達として、話したりしよう」

「ごめんそれは無理」

「うぇっ?」


 え、俺今なんて言われた? 聞き間違い?

 凄い青春なやり取りの中で自然に拒否された気がするんだけど。気のせい? 気のせいだよな?


「……うん、まあ、これからは友達として応援して」

「ごめんそれは無理」


 あれ、気のせいじゃなくね?


 二回聞いても答えは変わらない。全く気のせいじゃない。

 え? 俺の話聞いて急に俺のこと嫌いになった? そんな一気に?


「えー……それはもう話すのすら嫌っていう……」

「ううん。でも友達としてっていうのと、応援してっていうのは多分無理」

「……ななな、なんで?」

「私にも新しい目標ができたから」


 そこで美山は胸を張り、「聞きたい?」と俺に聞いてくる。

 その問いに俺が訳もわからず頷くと、


「時君が勉強より私を取るくらい魅力的になるんだ!」


 ……何を言ってるんだろう? この人。


「いや勉強は俺の目標みたいなもんで……」

「わかってるよ! でも私に魅力があったら勉強より私と付き合おうってなってたはずなんだよ!」

「どうしてそうなるんだよ!」


 あれ!? お互い頑張ろうって終わり方じゃダメだったの!? 今度は俺の頑張りを堂々と邪魔するの!?


「やっぱり近くに目標がないとダメだって時君も言ってたじゃん!」

「言ってたとしてもお前は恩を仇で返してんだよ!」

「それでもいいよ付き合いたいもん!」

「わぁ自分勝手!」


 俺の感動のスピーチ返せ!


「とにかく私は諦めないから!」

「悪いことは言わないからこっちは諦めてモデルの方頑張れって!」

「私にとってはどっちも大事だもん!」

「なんで!?」

「好きだから!」


 喧嘩してるテンションなのに、美山の言葉は俺を殴るどころか真っ直ぐ心臓を貫こうとしてくる。

 表面しか殴れない俺じゃ勝ち目がないし、普通に照れて何も言えない。


 そうして、もごもご何も言えずにいる俺を見て、恥ずかしそうな表情のまま勝ち誇った顔をした美山は、「頑張るぞー!」と目の前で叫び、やる気満々に教室を出ていく。



 そんな美山を、俺はただ見送ることしかできなかった。


「これが告白か……」


 ……世知辛い。

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