異世界姫様はぼっちであらせられる

赤金武蔵

第1話 勇者帰還の儀式……だったはず

「タケシ様、本当に行ってしまわれるのですね……」


「ああ。僕にも、向こうで待つ家族がいるから……ごめんな、ミセナ」


 女神様に選ばれ、チキューという世界からやって来て魔王を倒し、この世界を救ってくれた、勇者タケシ様。今彼は、チキューへ帰る帰還の儀式へ臨むため、王城の地下にある召喚の間でその時を待っている。


 欲を言えば、この世界に残ってほしい。そして私と共に、この世界の復興に協力してほしい。そう願わずにはいられない。


 ですが、彼には彼のいるべき世界がある。


 わがままを言う訳にはいきません。


「姫様、そろそろお時間です」


「……分かりました」


 もう、お別れの時間なのですね、タケシ様……。


 名残惜しいですが……仕方ありません。


 タケシ様と私と共に、魔王討伐へ向かってくださったパーティーメンバーの皆さんも、目に涙を浮かべている。


 ですが、私は泣きません。なぜなら一国の王女なのです。ここで涙を見せるわけにはいかないのです。


 宮廷魔術師の師団長様が、タケシ様に近づく。


「よいですかな。魔法陣を発動した後は、一歩も動いてはなりません。何が起こるか、想像もつきませんからな」


「……はい、分かっています」


 タケシ様……そんな悲しい顔をしないでください。私達も悲しくなります……。


「それじゃあ、みんな……元気で」


「タケシ様も、どうかお元気で」


 宮廷魔法師の皆さんが、帰還の魔法陣に魔力を流す。


 タケシ様の足元に魔法陣が展開され、それが少しずつ、大きくなっていく。


「……さようなら、タケシ様……いえ、タケシ君。……また、どこかで……」


 ああ、ダメだ。涙が……堪え切れない……。


「……っ! ミセナ! やはり、僕と共に地球へ――!」


 タケシ様が私の方へ一歩踏み出す。


「なりません、勇者様!」


 それと共に、魔法陣が動き――私の足に触れた。


「あ――」


 瞬間、世界が白く染まる。


 目も開けられないほどの強い光。


 何ですか、これは……!?


 待つこと、数秒。視力が、元に戻っていくのが分かります。


 ……もう、大丈夫なのでしょうか……?


 目をゆっくり開く。


 と――。


『えー、何あの子』

『姫みやばくない?』

『ちょーかわいー、トゥイッターあげよー』

『それな』

『コスプレか?』

『うわ、乳でかっ』

『え、可愛すぎない? アイドル?』

『外国人かな?』


 な……え……な……?


 見渡す限りの人、人、人。それらが、知らない言語を話しながら、平べったい何かを私に向けている。


 それに、王城よりも高く、煌びやかに光る四角い建物の数々。首が痛くなるくらい高い。


 あれは……もしやタケシ君が言っていたビルディングと呼ばれる建物では?


 ということは……ここは、チキュー⁉


 ……もしかして……あの魔法陣が私の足に触れたから、勇者帰還の儀式に巻き込まれた、と?


「た、タケシ君。まさかとは思いますが、私……あれ?」


 ……タケシ、君?


 前も、横も、後ろもいない。


 そう言えば、師団長が言っていた気がする。帰還の儀式は、タケシ様が召喚された場所と時間に戻す、と。


 クエスチョン。それ以外の人間が巻き込まれたらどうなるのか?


 アンサー。何が起こるか想像もつかない。


 つまり、私……チキューに、独りぼっち。


「…………」


 …………。


「あ、あの……あの自己中勇者があああああああああああ⁉⁉」

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異世界姫様はぼっちであらせられる 赤金武蔵 @Akagane_Musashi

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