第三十五話「代償」
「辛いな。綺麗な世界がなくなるのは」
早朝の太陽を後ろに構え、屋上に腰掛ける一人の男がそう呟く。
「それ本心かよ」
「本心だよ。この世界は美しい。…………石墨君は代償を何と捉える」
「急に何言ってんだよ気持ち悪ぃ」
その言葉に一人の男は笑う。
「なあなんで偽名なんて使ってんだよ」
「ああ、一ノ瀬未来のことかい。あれは僕の世界。演ジル世界の力さ。君たちも力の片鱗を持っているだろう。それと同じ。僕はペルソナという考えが大好きでね。人はその場その場でいくつもの仮面を使いこなす。当たり前だけど、人は裏表の二面では収まらない。人によっては数十枚の仮面を持っている。そして仮面を持っている人は一人の人間。大切なのは仮面ではなく持っている人間、僕はそう考える」
「仮面ね。俺は誰に対しても大して変わらないからペルソナなんて大層なモンは持ってないと思うけどな」
「いやいや。君だって僕の演じた一ノ瀬未来と今の僕とでは対応に差があるだろう。それも使い分けさ」
「じゃあ、聞くけど今のお前は誰で、俺の味方なのか」
「いい質問だね。今このときだけなら君の味方、と言いたいところだけど、残念ながらそれでは嘘になってしまうから正直に言おう。僕はこの世から魔法さえ消えてくれればなんだっていいんだよ」
男は先程の表情とは違い暗い表情を見せる。
「石墨君には悪いけど、今この場で消えてもらおうかな。君の力は異端契約にしては厄介な力だ。さよなら石墨君……」
「っ……」
突然男の手に刀が握られ、石墨の腹から血が流れる。視線は男へと向けられるが流れる血は止まらない。
「石墨君。代償ってなんだろうね」
「
その瞬間、石墨が消え、体に刺さった刀だけがカランと地面に落ちる。
「逃げたか。……戦争なんて無くなればいい。そのためだったら個々の心なんて些細な問題じゃないか。そのためなら、僕は一ノ瀬という感情なんて捨てよう」
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