第二十七話「生誕」

 結局あれから僕は琴吹の隣に座っていた。そのせいで、試合の判定は負けになってしまったけど、後悔よりも満足が勝っている。


 深読みのしすぎかもしれないが、石墨はこのことを知っていたのだろうか。しかしそれだと、なぜ嫌な記憶しかないという言葉を放ったのかが分からない。


 道を歩きながら深く考えていると目の前から声をかけられた。


「やあ、こんにちは。島崎章君でいいかな」


「そうですが…………何か? 」


 その男は黒髪で少し長身、そして黒い服を身にまとっている。一番目を引くのはその瞳にある。左目は色の飛んだベージュ色、それとは対照的に右目は典型的な黒色をしている。


 彼の後ろには何かモヤがかかってよく見えないが何かが居る。大きさは道を塞ぐことのできるぐらい巨大で、奥の景色が少し歪んで見える。


「おや、気がついたか…………。さすが魔法使いってだけあるね」


「――――っ、なんでそれを知っているんだ」


 東以来誰にも魔法使いだと当てられることはなかった。この男も東の知り合いか。


「東って人が誰か知らないけど、僕は敵じゃないよ。その東とかいう人と違って」


 この手は何度も使われてきたからわかる。この男は僕を利用をしてくる可能性が限りなく高い。


「あなたが誰か知りませんけど、僕を利用しようとするのなら僕は抗いますよ」


「――僕も同じ魔法使いなんだ。だから、勝算はこちらにあるし、身の程を理解していないと痛い目を見ることになるよ」


「わかりやすい嘘をつくな。魔法が使える大人はいない。例外はないはずだ。」


「僕が大人に見えるかい? 」


見た目は明らかに二十歳を過ぎている。それに、魔法の気配を感じない。


「しょうがない。リベラ、姿を見せていいよ」


 すると、後ろのモヤが段々晴れていき異形の怪物が姿を見せる。

 

 赤色の硬い鱗に猫のような瞳孔をもった目。腕は鉤爪を三本持ち尻尾は人間の倍はある。そう、それはドラゴンだった。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る