今年は僕の番

シミュラークル

今年は僕の番

1

 僕の町には最高のお祭りがある。今年は僕の番なのだ。

 3月2日。祭り当日の夕方。その祭りは、町内の小高い山の上にある神社で行われる。僕の町は都市の郊外にあるため、よくある閑静な住宅街だけど、こういうお祭りの時は町のみんなが外に出てくるから嬉しい。いつもゴーストタウンみたいだから道で人を見かけるのは久しぶりの経験だった。

 僕は妹と家を出た。すると、神社に向かって老若男女、様々な人が列を成して向かっていた。僕たちも一緒について行く。どうやら猫や犬なんかも一緒に同じ方向に向かって歩いて行っている。

 僕と妹は神社に着いた。鳥居を潜り、後ろを振り返ると綺麗な夕焼けがあった。眩しいけれど全身で浴びると気持ち良かった。

 本堂に着くとざっと50人くらいかな。猫とか、動物は全部で10匹くらい集まっている。本堂の前には立派な太鼓がいくつかあって、その前には正服を着た神主さんたちが真剣な面持ちでばちを握り締めている。シーンとした空気と相まってなんだかカッコよく見えた。

 日が沈んだところで遂に演奏が始まった。ドーンドーンと荘厳な音が神社に響き渡る。僕は思わず目を閉じた。その重々しく立派な音を全身で感じたかった。すると、次第に体が軽くなっていった。僕は妹の手を強く握り締めた。そして、宙に浮かんだ。心地よさが全身を覆った。

「10年も待った甲斐があった……」


2

 3月2日。今日は私の兄の誕生日だ。それと同時に命日でもある。兄の死から10年。私はもう高校生だ。兄が生きていたら、今頃は大学生になっていた。毎年この日になると思い出してしまう。

 小さい頃、兄とはあまり仲が良くなかった。喧嘩すらしないほどだった。でも、私が11歳の時。私が横断歩道を赤信号なのに渡ろうして、車に轢かれそうになった瞬間、兄が私を庇い車の下敷きになって死んだのだった。こんなアニメやら小説でよくある話だけど、いざ実際に起こってみると悲しくて悲しくてたまらなかった。大事なものはなくなってから気づくと言うが、まさにそれだった。そして、その日から私は兄の霊が見えるようになった。過度なストレスでこんな超常的な事が起きたのかもしれない。それでも、私は別に良かった。家族は相変わらず悲しんでいるけど、学校から帰れば私の兄がいるのだから。兄とは兄が生きている間に出来なかったおしゃべりやお遊びをした。ただ一つおかしいことがあった。もちろん私は歳を重ねるごとに成長して行くが、兄は死んだ時の年齢である10歳のまま成長しなかった。つまり、私の兄は体も心も10歳止まりというわけだ。本人は別に気にしてはいないらしく、けろっとしているが、こちらとしては私が姉になったみたいでなんだか複雑な気持ちだった。

 3月2日の夕方。兄は私を連れて神社に行きたいと言い出した。突然のことだったので二つ返事で了承してしまったが、自分から外に出たいって言うのが初めてだったので少々困惑した。

 神社に着いた。兄と私の他には、神主さんたちが数人いるくらいだ。

「この神社。久々に来たなぁ」私が言った。

「これから最高のお祭りが始まるんだ」

「そうなの?お祭りなんて知らないけど」

 すると、神主さんたちが太鼓を叩き出した。太鼓なんて聞いたのはいつぶりだろう。兄の方を見ると、私の手を繋いで満面の笑みを浮かべている。すると、次の瞬間、兄の体がふわっと宙に浮いた。手を繋いだままの私も空中にどんどん上昇していく。

「うわっ!なによこれ!」

「10年も待った甲斐があった……」

私が叫ぶと、真ん中で太鼓を叩いている神主さんが目を見開き「待てっ」と言って私の腕を掴んだ。そして、神主さんは腕尽くで私を地面に引き戻した。急いで空を見上げると、悲しげな表情を浮かべた兄がこちらを向いていた。


終わり

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