第33話


「んうっ」


隣のもぞもぞとした気配で目が覚める。

窓から差し込む光を見るにどうやらいつもより遅い時間に起きてしまったらしい。


横で眠るクーチのサラサラとした金髪を撫でながら今日はどうしようか考える。


「んっ、おはようございます…。」

「おはよう。すまない、起こしたか?」

「いえ、大丈夫です。」


ふふっと笑うクーチを抱きかかえてシャワールームへと向かう。

2人でスッキリとしてから1階へと降りていつもより少し遅い朝食を食べる。


「ふぅ~」と食後の煙草の煙を吐き出す。


「今日はどうしましょうか?」

「それなんだが、三十層までの情報収集をしようと思っている。」

「それじゃあ、一緒にギルドに行きましょう!」

「ああ。傭兵としての恰好で頼むな。普通の恰好で行ったら目立つだろうから。」

「そうですね…。残念ですが仕方ないです。」


少し残念そうなクーチに苦笑してしまう。


「そう残念な顔をするな。また休みに2人で散歩でもしよう。」

「はい!」


一転してニコニコとするクーチに随分明るくなったなとホッとする。


2階の部屋へと戻るついでに、マルとキクリに声を掛けたがまだ寝ているようだ。気配はあるが返事が無い。昨晩は遅かったのだろうな。

2人で用意をして宿を出る。


宿を出てギルドへ向かって歩いているといつもよりも街中がザワザワとしている気がする。慌てて走っているような傭兵もいる。


「何かあったのかもしれないな。」

「そうですね。なんとなく騒がしい気がします。」


そのまま2人でギルドまで行くと見知った顔に会った。


「ブルクス?」

「ああ!ハントさん!それにクーチさんも!お久しぶりです。」


ギルドにはグロースで世話になった荒鷲団のブルクスがいた。


「どうしてメイズに居るんだ?いつこっちに?」

「それがですね、バンデットレイヴンがグロースの方に流れて来ていて。その対応が荒鷲団でもキツイ可能性があるので応援の要請に来たんですよ。着いたのは今朝ですね。」

「なんでまたグロースに?」

「どうやらまだ諦めて無かったようです。」


ブルクスはチラリとクーチのほうを見る。


「そうか。いつぐらいになる?」

「恐らく一週間もすればあの廃墟の辺りでぶつかるかと。」

「規模は?」

「今回はバンデットレイヴンの本隊が丸々動いているようで1000人規模になりそうです。荒鷲団と領兵を合わせて500人ほど、グロースで募集した傭兵で200人です。最悪、野戦ではなく防衛線にすれば守り切れそうですが、防衛線でも被害が大きくなりそうなのでこちらに。」

「分かった。人数の足しにはならんが俺も行こう。」

「わ…私も行きます!」

「クーチ、無理はしなくていい。マルとキクリにも話すがメイズに残っててもいいんだぞ。」

「ハントさんが怪我したらそれを治すのが私の役目です。絶対に一緒に行きます。」


意思の籠った力強い視線で見つめてくる。これは説得は難しそうだ。


「分かった。だが、後方支援のみだ。それ以外は許さん。」

「はい!」


力強く頷くクーチの頭を撫でる。


「それでブルクス。人数は集まりそうなのか?」

「今日一日待ってみようと思います。明日には人数を確認してグロースへと戻ります。恐らく100人は集まるでしょう。グロースからこちらに来ているハントさんみたいな顔馴染みもいますしね。」

「分かった。あと2人、仲間が居るんだが、そっちにも聞いてみる。」

「ありがとうございます。」

「ああ。夜、時間があったら一緒に飯でも食おう。猫の耳亭という宿に泊っているからいつでも来てくれ。」

「分かりました。必ず伺います。」


にこりと笑うブルクスと握手して別れる。


「さてクーチ、宿へと戻るぞ。」

「何か必要なものがあれば言ってくれ。途中で買おう。」

「特に無いと思います。マルさんとキクリさんも来てくれるといいですね。」

「あの2人が居れば心強いが、無理強いはできない。」

「そうですね。戻ったら話しましょう!」

「ああ。起きてたらな。」

「そうですね。」


ふふっと笑いながらクーチが付いてくる。

少し早歩きで宿へと戻るとマルとキクリが一階で食事をしていた。


「おかえりなさい。早かったですね。」

「ああ、ちょっと状況が変わってな。女将さん、アイス珈琲と果実水を頼む。」


女将さんに注文して、マルとキクリのテーブルにクーチと一緒に座る。

煙草に火をつけてふぅ~と煙を大きく吐き出す。


「状況が変わったというのは?」

「ああ、食べながらでいいんだが。」


俺はこれまでの経緯を掻い摘んで話す。

途中、クーチに同情的な視線を2人が向けたが気にせず話を続ける。


「と、こういう訳で、俺とクーチは明日、一旦グロースに戻る。」

「そうですか…。」

「マルとキクリも一緒に来てくれれば心強いが無理強いはしない。」

「少し考えさせてもらっても?」

「勿論だ。」

「…一緒に行く。」

「キクリ?」


マルが驚いたようにキクリに声を掛ける。


「…マル、ハントとクーチは助けてくれた。今度は助ける…。私達は…仲間だから…。」


最後に少し照れたように付け加えたキクリに俺も驚く。


「ははっ。そうだね。」


マルが少年のような笑みを浮かべながらこちらに向き直る。


「ハントさん、僕達も一緒に行きます。」

「いいのか?」

「はい。キクリの言う通りです。僕達は仲間じゃないですか?」

「ああ。そうだな、ありがとう。」


じんわりと心が温かくなる。

そうか、仲間か。信頼できるというのはこういう事を言うのだろう。

口から煙を吐き出す。


「夕食の時にブルクスっていう知り合いが来るから詳しく話しながら打ち合わせしよう。それまではしっかり休んでくれ。俺も乗合馬車の予約をしてから部屋でゆっくり休む。」

「分かりました。」


笑顔を浮かべるマルとコクリと頷くキクリを残して、クーチは部屋へと戻り俺は乗合馬車の予約をしに東門へと向かう。

無事に、明日の朝出発する乗合馬車の予約を済ませて宿へと戻る。


「ただいま。」

「おかえりなさい。予約は大丈夫でした?」

「ああ、問題なく。」

「ハントさん、あの2人と出会えて良かったですね。」

「ああ。あの2人と出会えて良かったな。さて、夕食まではゆっくりとしよう。」

「はい!」


クーチに治癒を掛けてもらったり、バックパックの中身を整理したり、イチャイチャとしたりしながら過ごしているとあっという間に夕食の時間になった。イチャイチャついでにシャワーでサッパリして一階へと降りる。


「蒸留酒と果実酒を頼む。夕食も。」


すると俺達が降りる音に気付いたのだろうマルとキクリも降りてきた。


「ビールを二つと夕食をお願いします。」


4人で乾杯をしてのんびりとしているとブルクスがやって来た。


「ブルクス、こっちだ。」


手を上げてこちらに来るように促す。


「お待たせしました。」

「気にするな。ビールか?」

「ああ、蒸留酒にします。すいませーん!」


ブルクスが女将さんを呼んで飲み物と食事を頼む。宿泊客じゃないから多少高いようだが、俺達の知り合いという事で多少サービスしてくれたようだ。


「久しぶりの再会に乾杯。」

「乾杯」


ブルクスとクーチとグラスを打ち鳴らす。


「ブルクス、こっちが魔術師のマルとうちの前衛をやっているキクリだ。2人とも信頼できる仲間だな。」

「初めまして。グロースの荒鷲団に所属しているブルクスです。普段はグロースの傭兵ギルドで受付をしています。」

「マルです。」

「…キクリ。」

「この2人も一緒にグロースに向かってくれる。」

「ありがとうございます。」

「俺はどうやら仲間に恵まれたようだ。」

「そのようですね。これはクマズン団長も悔しがりそうです。ハントさんが旅立った後も、どうにかして入団させられないか何回も私のところに来ましたからね。」

「そんなに勧誘されそうな事は何もしてないんだが。」

「うちの団長は感覚派なので、何かが琴線に触れたんですよきっと。それに私も、ハントさんとクーチさんは荒鷲団に入って欲しいと思っていますからね。マルさんとキクリさんも良かったらどうぞ。」


キラリと目を光らせてブルクスが言ってくる。


「ありがたいが、今のところはそのつもりは無いな。まだ、グロースを出てメイズしか見てないからな。」

「そうですね。今は私も団長も待って置くことにしましょう。」


2人で笑いながら会話をする。

夕食も食べ終わり、ちびちびと酒を飲みながら話す。


「それで、人数は集まりそうか?」


ふぅ~と煙を吐いて気になっていたことを聞く。


「ええ。ハントさん達も合わせて120人ほどでしょうか。報酬も高めにしたので明日にはもう少し増えてるかもしれませんね。」

「そうか。なら良かった。」


プカプカと煙草の煙を吐き出しながら会話を楽しんでいるとクーチがあくびをした。


「さて、それじゃあ明日出発だし休むとするか。」

「そうですね。皆さんありがとうございます。グロースに着いたらギルドに顔を出して下さい。」

「ああ。分かった。グロースで会おう。」

「はい。それでは。」


ブルクスが宿から出たので、全員で部屋へと戻る。


「明日の朝の乗合馬車を予約しておいたから、起きたら一階で合流しよう。女将さんに弁当を頼んであるからそれを受け取って出発だ。」

「「「はい。」」」


指示を出してからそれぞれの部屋へと戻る。

軽くシャワーを浴びて夜更かししないようにスッキリしてから眠りについた。

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