第31話
新しい籠手を手に入れた俺達は迷宮へと足を進める。
「魔法陣に乗ればいいんだったか?」
「ええ。そうすれば十一層から始められます。」
迷宮の入口の列に並んで進んでいく。入口を入ってすぐの広場に入ると
「こっちです。」
マルについて行くとぼんやりと床の一部が光り始めた。
「どういう仕組みかは分かりませんが、この様に十層を越えた傭兵がこの辺りに近づくと魔法陣が現れます。入口に近い方から十、二十となるようですね。」
マルの説明を聞きながら辺りを見渡すと、ベテランらしき傭兵達が四十層ぐらいの場所から魔法陣に入るのが見えた。
「なるほどな。それじゃあ俺達も行こうか。用意はいいか?」
「「「はい!」」」
3人の威勢の良い返事を聞きながら全員で魔法陣に乗る。
フッと景色が変わるとそこは迷宮の中だった。左側に上に上がる階段がある。どうやらそちらが十層のようだ。
「マル、十層には戻れるのか?」
「戻れますが、こちらから戻るとボスは現れませんよ。」
「そうか。」
「迷宮から出る時はここに戻ってくれば一層へと戻れます。」
マルと話しながら煙草に火をつけて煙を吐き出す。
「今日からはマッピングをしながら十五層を目指そう。全員無理はするな。何かあったらすぐ教えてくれ。俺が先頭でマルとクーチが真ん中、キクリは後ろを頼む。クーチはマッピングを頼むな。」
簡単に指示を出して煙草を燃やす。
気配察知を意識すると確かに傭兵の数は少ないようだ。
念のため罠が無いか確認しながら進む。少し進むと前方から魔物の気配がする。
「前方からゴブリンが6体だな。キクリが注意を引いて、俺とマルで数を削ろう。」
「…分かった。」
キクリが俺と入れ替わりで後方から前へと出てくる。魔弓を構えて魔力の矢を番える。
「“共有”」
マルの魔術が発動する。続いて油断なく杖を構えている。
「来たぞ。」
「「「「グギャッグギャ!」」」」
通路の奥からゴブリンが獲物を見つけたとでも言うように声を上げる。
「ふっ!」
「“火の矢”」
俺の魔力の矢とマルの火の矢が飛んでいく。キクリはゆっくりと盾とメイスを打ち鳴らしながら進んでいく。
「残りは剣持ちと槍持ちが2、弓が1だ!」
俺とマルの攻撃で2体を仕留める。残りのゴブリンはしっかり武装しているようだ。
ゴブリンが放った矢をキクリが盾で受け止めるとガンッという音がする。
「弓持ちを仕留める!ふっ!」
俺が放った矢が綺麗に弓持ちのゴブリンの頭を貫く。
その間にマルの火の矢で槍持ちが2体沈み、キクリが駆け寄って剣持ちを潰す。
周りに他の気配が無いことを確認して、魔物が落とした素材を回収する。
「問題無さそうだな。全員大丈夫か?」
「問題ないです。」
「…大丈夫。」
「大丈夫です!」
「よし。行こう。」
合間で何度か戦闘をこなしながら十二層へと降りる。
階段を降りたところの広場で小休憩してから探索を続ける。
その後も、誰も怪我をすることなく順調に進むことができ15層へと到達した。
「ここで昼にしよう。」
広場の隅に避けてからシートを引いて弁当を取り出す。
「ふぅ。」と煙草に火をつけて煙を吐き出す。
「お疲れ様でした。」
「ああ。今のところ問題なさそうだな。」
「そうですね。ハントさんとクーチさんと組んで良かったです。」
「そうなのか?」
「ええ。前に組んでた2人は連携すら出来ませんでしたから。キクリが気を引く前に突っ込んだり、突然弓を放ったりしてましたからね。僕もキクリもやりにくかったんですよ。」
「そうか。まあ俺も元々はソロだからな。拙い部分があったら遠慮なく言ってくれ。」
「分かりました。とりあえずは二十層まではこのままで大丈夫だと思います。それまでにはレベルも上がるでしょうし、資金も問題なく貯まると思いますよ。」
「2人は二十層のボスはもう攻略済みなのか?」
「いえいえ、まだですよ。ゴブリンキングと取り巻きが30体ですからね。以前組んでいた2人と行ったら死んでしまいますよ。」
「ふむ。あとでギルドの資料を見てみる必要があるか。」
「一応僕も読んだので共有しますね。」
マルの話によると、二十層のボスはゴブリンキングとその取り巻きが30体。ゴブリンキングは、ゴブリンリーダーを二回りほど大きくして大剣を持っているそうだ。取り巻きのゴブリンは、ゴブリンリーダーが1体と剣、槍、弓、杖持ちがおり杖持ちの魔術には注意が必要との事だ。
「そうすると、優先して杖持ち、弓持ちを倒さなければいかんな。」
「ええ。広範囲の攻撃手段が僕の魔術以外にあれば余裕ですが、無くても攻略はできると思います。」
「広範囲の攻撃か。」
漫画やゲームにように魔力の矢が分裂すればいいんだがな。
神様からもらった常識によると魔術はイメージが重要らしい。先人達によってマルの“火の矢”のような分かりやすい詠唱はあるが、それはイメージを固める意味合いが強いそうだ。
という事は、魔力の矢を番える時にイメージをすればどうなるのだろうか。よくある“レインアロー”のように、上から矢を降らせる事ができれば殲滅力は上がるはずだ。
「少し試したい事ができた。戻りながら少し試してみていいか?」
「ええ。でも何を?」
「魔力の矢でいろいろできないかと思ってな。」
顎に手を当ててぶつぶつと「いけるのか...」と呟くマルを尻目に、口に咥えた煙草から煙を吐き出す。クーチとキクリは女子トークをしているようだ。
「さて、それじゃあ今日は戻ろうか。」
全員に声をかけて階段を上がる。
途中で8体の魔物の集団の気配を見つけた。ちょうどこちらに向かってくるようだ。
「ちょうどいい。8体の魔物だ。ちょっと試したい事がある。念のためキクリは俺の後ろまで来ててくれ。マルは魔法の用意を頼む。」
「分かりました。」
無言でキクリが後ろにくる気配を感じながら魔弓に魔力の矢を番える。
そこまで天井は高くないから横に広がるように飛んでいく矢をイメージする。散弾のように矢が広範囲に広がるようにイメージをする。弾幕ならぬ矢幕か。ショットガンアローが分かりやすくていいか。
心なしか魔力の矢が太くずんぐりとした形になった気がする。
ちょうど通路の向こうからゴブリンが見え始めた。集団の真ん中を狙って呟く。
「“ショットガンアロー”」
同時に矢が放たれた。
ヒュンと真っ直ぐ矢が飛んでいく。
失敗か?と思うとちょうどゴブリンの2メートルほど手前でパンッという小気味のいい音を響かせて矢が破裂した。
矢は破裂すると、細かい礫の様に散らばり集団の前を歩いていたゴブリンに穴を開けた。
「なるほど...。そういう感じか...。」
「“火の矢”」
残りのゴブリンにマルの魔術が飛んでいく。
キクリも盾とメイスを構えて前進していった。すぐに戦闘は終わり、素材を回収する。
「ハントさん!あれはなんですか?!」
クーチが目をキラキラさせながら近づいてくる。マルとキクリも興味深々のようだ。
「矢が散らばるようにイメージしたんだがああなった。これは使えそうだな。よし、地上に戻るまでにいろいろ試してみてもいいか?」
「もちろんです!」
「僕もその方がいいと思います。ハントさんの火力アップは、単純に安全に繋がりますから。」
そのあといくつか試しながら地上へと戻る。
天井スレスレを飛んだ矢が雨の様に分裂して降り注ぐ“レインアロー”。
バチバチと矢が音を出すまで魔力を込めて放つ“チャージアロー”。
敵に当たると爆発する“インパクトアロー”。
音も立てず無音で飛ぶ“サイレントアロー”。
とりあえずはこの4つが追加された。
無事に色々とできる事が増えた俺は充実感と共に迷宮を出た。
ギルドで換金をしてから宿に戻って4人で夕食をとる。
「これなら二十層も大丈夫そうですね。明日挑みますか?」
「十九層まで行ってから決めよう。余裕があるなら挑むし、少しでも疲れや不安があれば引き返すことにしよう。」
「分かりました。」
「クーチもキクリもいいか?」
「はい!」
コクリと無言で頷くキクリ。
「それじゃあ、寝る前にみんなレベルを確認してから寝る事にしよう。昨日までと違ってかなりの数を倒せたからな。」
「「分かりました。」」
夕食を食べ終え部屋へと戻る。
俺のレベルは11になり、クーチのレベルは12になっていた。
どうりで途中から身体が軽くなったわけだ。
「ハントさん!やりました!身体強化を覚えました!」
「おお!おめでとう!一緒に少しづつ強くなろう。」
「はい!」
嬉しそうにニコニコと笑うクーチの頭を撫でてから、一緒にシャワーを浴びて、ベットで諸々とスッキリしてから眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます