第21話
窓から差し込む朝日で目が覚める。
右腕にかかる心地よい重さに改めて昨日の事を思い出した。
二の腕を枕にすやすやと眠るクーチを見て、守れるように強くならなければなと思う。
俺も単純だなと思う。
年齢が一回り程違って見えるクーチに迫られてコロっと落ちてしまった。
そっと腕をクーチの頭の下から抜いて上半身を起こす。
グッと背伸びをしてからそーっとベットを下りようとしたところで後ろで身動ぎする音がした。
「んぅ…。」
うっすらと目を開けてまだ寝ぼけているクーチのサラサラとした金髪を撫でると覚醒したようだ。
「はっ!…おはよう‥ございます。」
頬を染めて顔の半分を毛布で隠しながらモジモジとするクーチに愛おしさがこみ上げてくる。そっと抱きしめて「おはよう、シャワーを浴びてくる。」と伝え、着替えを持ってシャワールームへと向かう。
汗やらなにやらを流してサッパリして部屋に戻ると入れ替わりで毛布を体に巻き付けたクーチがシャワールームへと向かう。
椅子に座って煙草に火をつけてふぅと吐き出す。
今日は予定通り路銀を稼ぐために西の森で討伐と採取だな。クーチと一緒に居る事で傷薬や毒については心配無くなったから補充の必要はない。
治癒や解毒について回数制限はあるのか聞いたところ、魔弓と一緒で籠める魔力によって消耗度合いが違うそうだ。切り傷や擦り傷程度なら消耗は気にしなくてよく、部位欠損を接合するなどの大けがになると1~2回が限度らしい。魔力は大気中から常に少しづつ取り込んで回復するので、魔力切れについてはそこまで心配する必要はないらしい。
俺がこの世界にきた経緯はそのうち説明できればいいか。
と考えを整理しているとガチャリという音がしてシャワールームからクーチが出てきた。
「今日は西の森へ行こう。少しでも路銀を稼いでから迷宮都市へ向かおう。」
「分かりました。」
ニコリと微笑むクーチに、微笑み返して用意をする。
クーチは昨日の恰好ではなく、黒いパンツに白い長袖シャツ、上からローブを被る。
俺は相変わらず黒いシャツに、カーキ色のパンツにブーツだが。着替え終えたら一階へ降りる。
「おはよう、アイス珈琲と果実水と朝食を2人分頼む。あと弁当も2人分お願いしていいか?」
「ああ、おはようさん。よく眠れたかい?弁当も了解だよ。ちょっと待ってな!」
ニヤニヤとした女将さんの返事を聞き流して煙草に火を付ける。
向かいに座ったクーチはほんのりと顔を赤くしている。
「身体は大丈夫か?」
「っはははい!大丈夫です…。」
顔を真っ赤にするクーチに思わず笑ってしまう。
朝食が配膳されたので二人で食べて部屋へと戻る。
バックパックの中身を確認して、クーチの荷物も中に仕舞う。
「そのバックパックはすごいですよね~。どれぐらい入るんですか?」
「俺もまだ分からなくてな。とりあえず沢山入って便利ぐらいに思っておいてくれ。」
「分かりました!」
「さて、それじゃあ行こうか。」
「はい。」
クーチの手を取って部屋を出る。
一階に降りて女将さんから弁当を受け取って宿を出た。
念のため気配察知を発動させて、西門に向かって進む。特に怪しい気配もなくすんなりと外に出る事ができた。
街道に出て薬草煙草に火を付ける。
「ふぅ~」と紫煙を吐き出す。
「さて、クーチは魔力循環をしながら歩こうか。周辺の警戒は俺がしておく。」
クーチに声を掛けると頷いて魔力循環を始めた。
周辺には特に怪しい気配も無くすぐに森の入り口に付く。
森に入る前に煙草を吸って水筒から水を飲んで休憩する。
「いつも通り、採取をしながらゴブリンとウルフを狩ろう。採取したものはバックパックに入れておいて後で分ければいいからどんどん取っていいぞ。」
「分かりました!」
ふんすと杖を握り締めるクーチになごんでから森へと入る。
今日は森の中にも何組か傭兵が狩りに来ているようで気配がする。
今日はあまり狩れないかもしれないな。
「他にも傭兵達がいるようだ。採取中心で進もう。魔物の気配を感じたらすぐに知らせる。」
そう指示を出して、見つけた薬草や毒草を2人で手あたり次第にバックパックに放り込んでいく。
そうして他の傭兵とぶつからないように討伐と採取を繰り返していく。
昼の弁当を食べて、さらに奥の方に移動しているとウルフ3体の気配を感じた。
「ウルフが3体だ。少し離れたところに他の傭兵がいるが問題ないだろう。行くぞ。」
「はい。」
気配察知と隠密行動を発動してクーチの手を取って小走りで進む。
ウルフが見えたタイミングで1体はクーチに任せると伝えて魔弓を構える。
ヒュッヒュッという音と共にクーチが杖を構えて走り出した。
無事に2体に矢が刺さったところでクーチが残りのウルフに殴り掛かる。頭を殴って倒すと短剣を抜いて止めを刺した。
「ハントさん仕留めましたー!」
クーチがこちらに向かって手を上げる。
軽く手を振り返してそちらに向かっていると先ほど矢で倒したはずの1体が身体を起こそうとしていた。
「クーチっ!」
慌てて身体強化を発動して走り出す。
ウルフは最後の力を振り絞ったのか一気にクーチに向かって飛び掛かる。
「間に合えっ!」
クーチとウルフの間に右手を差し込むようにしてクーチを庇う。
「ぐっ」
右腕のロンググローブに牙の刺さる感触がする。
ギリギリ貫通はしたかもしれない。
右腕を思い切り振って、ウルフを振り払い短剣で止めを刺す。
「ふぅ~。」
「大丈夫ですかっ!?」
「大丈夫だ。ここまで順調だったから油断したな。」
クーチが慌ててこちらに寄ってきて右腕を取る。
肘の手前まであったロンググローブには見事にウルフの歯形がついていて、穴も開いていた。
それを無理矢理脱がされる。シャツにも穴が空いていたが、黒いシャツなので血が出ているかは分かりにくい。少しだけズキズキするから傷ができているのは間違いない。
ポーチから水筒を出して、シャツを捲って水筒の水で洗い流すと腕に小さい穴が開いていた。
「ああ!傷がついてるじゃないですか!”治癒”!」
クーチが俺の右腕を取って治癒を発動すると緑色の優しい光が俺の腕を包んだ。
少しすると痛みも無くなり穴も塞がった。
「おお、凄いな。」
「すいません、私のせいで…。」
「いや、仕留めきれなかった俺が悪い。次はきっちり止めを刺そう。」
そんな話をしているとガサガサと茂みを掻き分ける音がした。
「なんだ、もう討伐済みかよ~。おい、こっちはもう討伐されてる。他に行こう。」
3人組の傭兵が茂みから現れた。どうやら獲物を探して動き回っているようだ。
「なんだ?あいつウルフに怪我させられてんのか?」
「おい、見ろよ。一緒にいる嬢ちゃんすげえ美人じゃん。」
「おお、そうだな。しかも治癒士か?」
「おい嬢ちゃん、そんな雑魚と組んでないで俺らと一緒に組もうぜ。俺らだったら、そこの雑魚と違ってウルフなんかで怪我はしねえぜ。」
「おう、嬢ちゃんは後ろにいりゃあいい。その代わりに、夜は頑張ってもらうけどな。」
「「「ぎゃっはっはっは」」」
下品な笑い声をあげながら男たちが近付いてくる。
「嫌です、お断りするのでこっちに来ないでください。」
「ぎゃっはっは!強がんなよ!いいからついてくりゃいいんだよ!」
そう言って歩みを止める事は無さそうだ。
俺は右手にグローブをハメ直してそいつらの方を向く。
「おい。それ以上近寄るな。」
「ああ゛。んだよ、雑魚が。てめえじゃ役不足だからさっさと逃げろよ。」
「街はあっちですよぉおおおー。」
「「「ぎゃっはっはっはっは」」」
それでも歩みを止める様子が無い。
ふぅとため息をつくと身体強化を発動して一番先頭の男の腹を殴る。
ドスっという鈍い音がして男は倒れこんだ。バックステップで距離をとる。
「「?!」」
「んげぇえ…」
男が汚い物を口からぶちまける。
「近づくからそうなる。いいか?クーチは俺の女だ。お前らみたいな人間が汚い手で触っていいもんじゃない。次にもし絡んでくるようなら容赦はしない。分かったか?」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。
「ってめえ!」
「なめやがって!」
そう言って2人の傭兵がショートソードを抜く。
バックパックから魔弓を取り外して構え黒い魔力の矢を番える。籠める魔力を増やしていくと、魔力の矢は太くなっていき、バチバチと音を鳴らし始めた。
「死ぬか?」
「うっ…うるせえ!そんなこけおどしにゃ騙されねえぞ!!」
そう言って一歩踏み出した傭兵の横へとバチバチと音を鳴らす魔力の矢を打ち込む。
ズドンっ!!!
俺が放った矢は地面にぶつかると大きな穴を開けた。パラパラと土埃が舞い、うずくまっていた傭兵も余波で吹き飛ばされていった。
「ひっ…。」
2人組の傭兵も腰を抜かして顔を青褪めさせている。
「いいか?二度と近寄るな。次はない。」
「「「…。」」」
「分かったな!!!」
声を荒げて言うと「ひいいい。」と情けない声を上げて3人組は去って行った。
ポーチから薬草煙草を取り出して火をつけて大きく吸って吐く。
「ふぅ~。」と煙を吐き出し気分を落ち着かせる。
「さて、大丈夫だったか?」
クーチに声をかけるとポーっとした表情でこっちを見ていた。
近づいて顔の前で手を振る。
「はっ!大丈夫ですか!?」
「ああ。もう行ったよ。」
「庇ってくれてありがとうございました。」
顔を真っ赤にしてペコリと頭を下げるクーチの頭にポンと手をやる。
「今日はもう終わりにしよう。」
「はい。」
俺達は適当に採取をしながら森を出て街へと戻りギルドへと向かった。
「今日は沢山狩りましたね。ゴブリンが13体で、ウルフが18体、薬草が20束、毒草が15束で35400ドルグですね。2人で分けるので1人17700ドルグです。」
タグを出してドルグを受け取って宿へと戻る。
部屋に戻りバックパックを下ろして夕食とお酒を楽しんでから、昨日よりも積極的なクーチと一緒にベットの上でも楽しんだ。
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