第3話


窓から差し込む光で目が覚める。

どうやら無事に翌朝を迎えたらしい。


少しボーっとする頭をシャワーでスッキリさせる。

シャワーから出ると煙草に火を付けて、水を飲む。


そして、バックパックに入っていた着替えを取り出して昨日と同じ格好になる。

着ていた服に「クリーン」と生活魔法をかけて、バックパックに仕舞っておく。


煙草に火を付ける着火もそうだが、この世界では生活魔法が一般的らしい。

着火、ウォーター、クリーンの三つは魔力があれば大体の人が使えるそうだ。


下の食堂に降りて、お茶か珈琲と言われたのでアイスコーヒーを頼み、パンとサラダと具だくさんの野菜スープを食べる。

ビジネスホテルの朝食みたいだな。


「昼食の弁当はお願いできるのか?」

「簡単なサンドイッチになるけど500ドルグで頼めるよ!いるかい?」

「ああ、頼む。」


タグを出して会計を済ませる。

これで残金が79500ドルグ。


食べ終わったら部屋に戻って、腰に短剣とポーチのついたベルトを巻いてバックパックを背負って部屋から出る。


カウンターの女性に声を掛けるとガサガサとした紙に包まれた包みを渡される。


「助かる。ありがとう。」

「いつでも言っておくれ!」

「夕飯には戻ると思う。」

「あいよ!気を付けて行ってらっしゃい!」


気持ちのいい見送りを受けて宿から出て中央広場の方へ向かう。


昨日通った時に目を付けていた雑貨屋に入る。


「いらっしゃい。何が入用かね?」


カウンターに座っている老婆から声を掛けられる。


「ああ。薬品系をいくつか欲しいんだが。」

「そうかい。飲む傷薬と塗る傷薬、あとは簡単な毒消し薬もあるがどうする?」

「飲むと塗るじゃ何が違うんだ?」

「飲む傷薬は身体の中に傷の治りを早めてくれるのさ。外傷にも多少効果はあるねぇ。塗るほうはそのまんま外傷だねぇ。小さい傷ならすぐ治せるよ。さすがに切れちまった腕をくっつけるのは無理だけどねぇ。」

「なるほど。それなら、飲む傷薬を二つと塗る傷薬を一つ、毒消し薬を二つ頼む。包帯もあれば欲しいんだが。」

「毎度あり。包帯もあるよ。飲むほうが一つ2000ドルグ、塗る方が1500、毒消し薬が一つ2500ドルグ、包帯が500ドルグで、合計11000ドルグだよ。」

「これで。また買いにくる。」

「はいよ。毎度あり。」


結構な出費な気もするが何があるか分からないから買っておいて損はないだろう。

タグを取り出し会計を済ます。


インベントリ機能が付いているバックパックに詰め込んだように仕舞い、店を出る。


あとはちょっと丈夫なベストとグローブが欲しいな。

籠手と具足的なものも良さそうな物があれば付けておきたいところだ。


傭兵ギルドの側にある武具屋に立ち寄ることにする。


「へいらっしゃい!」


元気のいい口髭のおっさんが声を掛けてきた。


「丈夫なベストと籠手、あとは脛の辺りをカバーできる防具はあるか?」

「予算はあるかい?」


今の手持ちが68500ドルグ。

余り無駄遣いできる額ではないな。


「30000ドルグぐらいで揃えたいな。」

「ちょっと待ってな。」


おっさんが奥に引っ込んでごそごそと何かを探す音がする。


「待たせたな。」


そう言っておっさんが持ってきた防具をカウンターの上に載せる。


「このあたりだな。」


カウンターに置かれた焦げ茶色の防具を職人の目で見てみる。


ウルフロンググローブ:丁寧に鞣された皮を使っている。

           面積の大きい部分は二重になっており丈夫。

ウルフレガース:丁寧に鞣された皮を使っている。

        面積の大きい部分は二重になっており丈夫。

ウルフベスト:丁寧に鞣された皮を使っている。

       前面と背面が二重になっており丈夫。


うん。全部シンプルだな。


「これで28000ドルグだな。調整はサービスだ。」

「これで頼む。調整はすぐ終わるか?」

「これはすぐ終わる。サイズがいくつかあるから付けてみて少し弄るだけだ。」

「じゃあ、これで頼む。」


タグで支払いを済ませて防具を身に着ける。

残金40500ドルグ。


ロンググローブは手首のところが動かしにくかったため裏側の皮を少し削ってもらった。

レガースもブーツと重なるところが厚すぎるので少し短くしてもらう。

ベストは左の側面がベルトで調整できるようになっているのでそれで調整するだけで十分だった。


そのうち魔法の品とか出てくるのだろうか。

できれば全身を黒か紺の目立たないやつにしたい。

焦げ茶も許容範囲ではあるが。


「ありがとう。また稼いだら寄らせてもらうよ。」

「毎度あり!なんか不具合あったら寄ってくれ!」


口髭のおっさんに礼を言って店を出る。

これでとりあえず大丈夫かな。


中央広場から西門へ向かって歩く。

途中、酒場や娼館らしき建物の並んだ路地があったから西側はそういうエリアなのかもしれないな。


無事に西門にたどり着く。

門番にタグのチェックをしてもらって街をでる。


「さて、行きますかね。」


薬草煙草に火をつけ、ふう~と紫煙を吐き出しながら西の森へ向かって歩く。


昨日は南門から入ったがあちら同様、こちらも草原と街道という景色だ。

スキルの気配察知には、ときおり小動物のような気配や、他の傭兵や行商人の気配が引っかかるが至って平和だ。


思いついたようにスキルの鷹の目を発動すると遠くに見える森が近くなる。

索敵する事になれるために気配察知と鷹の目を使ってキョロキョロと辺りを見渡しながら歩く。


ちょっと目が疲れるな。

鷹の目は目に負担がかかるのかもしれない。

一旦スキルの使用をやめて目を揉む。


水を飲んで少し歩くと森の手前まで来た。

だいぶ大きな森のようだ。

少し入るとだいぶ暗くなっているのがここからでも分かる。

虫は苦手なんだよなと日本にいたころを思い出す。


気分を落ち着かせるために薬草煙草に火を付けて一服をする。

ふぅ~っと息と煙を吐き出す。


「さてさて、死なないように初依頼と行きますかね。」


ぼそっと、自分に言い聞かせるように独り言を呟いてから俺は森へと足を踏み入れた。


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