第11話 共闘してしまうFHとUGN

★★★(佛野徹子)



……一瞬で目が覚めちゃった。

ワーディングの展開を感じたから。


跳び起きる。

目の前で千田さんが気を失って倒れていた。


「徹子、逃げるぞ」


アタシが目覚めたのを確認し、文人は立ち上がる。

レジャーシートはそのままに。

鞄だけ全員分拾い上げ、即座に「折り畳み」で縮小。

掌に収めて、駆け出した。


「千田さんを頼む」


そう言い残して。全速力。


……一見するとさ。

女の子に、人の救助を押し付けて男が先に逃げるって。

最低な構図に見えるかもだけど。


……アタシたちの場合はそうじゃない。


アタシは気絶している千田さんを肩に担ぎ上げて。


ハヌマーンの「加速」を使って移動する。

これがあるから。


全員で一番早く逃げるには、これが一番効率が良いんだよね。

女の子(小柄だけど)一人担いだ状態でも、余裕で文人の全力疾走に追いつくことができる。


ワーディングの発生元は分かってる。

そこから出来るだけ離れるようにして、売店の陰に逃げ込んだ。


そして、二人で発生源を覗き見た。


……今のところ、何も無い。


「何なのかな?立って歩いてる人、居ないよね?」


見たところ、そんな感じだった。

浜辺に居た人、全員倒れてる。


そこに動き回ってる人は誰一人として、居ない。


これが意味するところは


「……FHやらギルドのエージェントがここで何かやってる線は、ちょっと考えにくいな」


……だよね。

アタシは文人の言葉に同意する。


これが作戦行動だったら、即何か動きがあってしかるべきことのハズ。

だって、ワーディングって行動、リスクあるわけだし。


こんな、隠れて、覗き見るまでの時間があるのに、動きが無いなんて変だ。


「あ」


そうやって見守っていると。

ワーディング発生元に変化があった。


海から。

白い、まるで巨大な蚯蚓か芋虫のようなものが複数顔を出してきて、伸びてきたのだ。


……何か、海の中に居る。

それが、ワーディングを展開しているのか……。


直感だったけど、あれ、人間のオーヴァードじゃないよ。

何か、全然別のもの。


で、あれ、多分触手か何か。

本体は海の中。


多分、間違いない。

あれが単独でそれぞれ別の生き物であるとは、ちょっと思えなかった。


何か、争ってる感じがね、しなかったんだ。

別の生き物だったら、もうちょっとこう、揉めたりしそうじゃない?

でも、そんなのが全然無くて。

統一された意思で動いているような……


「あれ、先端に牙が生えた口のようなものがあるな」


アタシの横で、文人が双眼鏡を錬成し、触手?を観察していた。


「多分、目的は海水浴客の『捕食』だ」


彼はそう、淡々と言った。

そこに何の感情も乗せずに。


アタシとしては、見過ごすことに抵抗あるんだけど。

彼はどうなんだろう?


「助ける?」


一応、聞いてみる。


「……UGNが駆けつけてきたときに面倒なことになるぞきっと?」


「だよね……」


多分、ここにUGNが駆けつけてくるのは間違いない。

でも、それまでに、ここの海水浴客が何人喰われるか……。


あまり気分のいいものじゃないけど、アタシら犯罪組織の一員だし。

クビを賭けてまで人助けするような、出来た人間じゃ無いからね。


人命最優先。

そんな信条で生きてたら、こんな稼業、やってないわけだし。



★★★(???)



やったー!!

いっぱい、ごはんがたおれてる!


どれからたべようかなぁ?


しょくしゅがとどくはんいにいるごはんは……


にじゅうくらい?かな?


まぁ、それだけたべたらだいぶおなかにもたまるよ!

もうぼく、おなかぺこぺこ!


さいしょのひとくちは……


ぼくはたおれているごはんたちをぶっしょくした。


できればおおきいのがいい。

ごはん、ちいさいのからおおきいのまでいろいろあるけど。


おおきいのがいい。


どれにしようかな……?


ぼくはしょくしゅをうろうろさせて、まよった。


そして、ちょっとかんがえて。


この、きいろいけをはやしたこたいにしようとおもった。

おにくがおいしそうにみえたんだ。


どんなあじだろう?

このこたいが、そこらへんにいるくろいけのこたいどどうしゅなのははだでわかるから。

へんいたいなんだろうね。


きっと、あじもかわってるはず……


しょくしゅのくちからよだれがでてきた。


いただきまーす!


くわっ、とくちをおおきくひらいて。

ぼくはそのへんいたいにかぶりつこうとしたんだけど。


ちょくぜんで、はばまれた。


……なにか、めにみえないかべのようなものが、じゃまでぼくのおくちがとどかない。


「間に合った!」


こえがした。


こえのほうこうに、にひきほど、ごはんがいた。

かたほうはほそっこくて、たべでがなさそうな、けがながいこたい。

もうかたほうはおにくがいっぱいついてて、おいしそうなけがみじかいこたい。


ぼくはびっくりした。


そいつら、ごはんのくせにうごいてるんだ。


そんなばかな。

わーでぃんぐのなかで、ごはんがうごけるなんて。


ごはんのくせに、なまいきだ!



★★★(北條雄二)



……ギリギリ、間に合った。

俺たちが浜辺に向かっていると、ワーディングの展開を感じて。

あのときは、絶望的な気分になった。


間に合わない、って。


でも即座に優子が「ディメンジョンゲート」を展開してくれて、浜辺までワープゲートを繋げてくれた。

それで、ギリギリ間に合った。


襲来した海の魔物が、獲物を選り好みしていたのか、なかなか捕食をはじめなかったのも幸いした。

……理由はよく分からないけど。怪物にも餌の好みってのがあるのか?


で、まさに、喰われる寸前。

間一髪だったよ。


ギリギリ、優子の「斥力障壁」があいつの捕食行動を阻んだんだ。


……問題の、海の魔物。


本体部分は、見えない。

海から出てるのは、多分、ヤツの触手だ。


その、触手だけど。

ヌルっとした質感で、白かった。

烏賊の触手から、吸盤を取り去った感じだった。

例えが気持ち悪いかもしれないが、表面状態は蛆虫に似てる気がした。


で、先端に、ヤツメウナギみたいな口がついてて。

鋭い牙を、円状に生やしていた。

一重じゃない。鮫みたいに、何重にも。


あれで、人間を貪り喰うつもりなんだな……!


人が死ぬと何が起きるかは俺は良く知っている。

俺の場合は、家が壊れた。


地獄だったよ。


……だからさ。

見過ごすわけには、いかない。


痛みが分かってる人間として。


「……雄二君。気をつけてね」


油断なく魔眼槍……魔眼を変化させた輝く水晶のような材質の槍……を構えて、優子は言う。

分かってる。軽い相手じゃないってことは。

伝承に残るレベルの相手なんだよな。


あの事件以来、生き死にがかかった戦いはしてないけど。

今度も生還してみせるよ。


俺は両手に炎を纏わせた。

……これで、焼き尽くす!


俺は熱を操るシンドローム・サラマンダーのオーヴァード。

そして優子は、重力を操るシンドローム・バロールのオーヴァードだ。


あのときは二人で力を合わせて生き残ったんだ。

今度だって大丈夫だ。


行こう!優子!



★★★(下村文人)



良かった。間に合った。


僕は双眼鏡を覗きながら、安堵していた。


思いの外、UGNが駆けつけるのが早かった。

あの金髪男……って、アイツ、あのときのナンパ男か……喰われるかもしれないと思ってたのに。

まぁね、さすがにね。

お金貰って復讐の代行殺人してる僕らだけど。

仕事以外で人が死ぬのを笑ってみてるほど腐ってはいない。

まぁ、身を挺してそれを防ぎに行くわけでもないけど。


で、駆けつけたUGNは……


ん?


あの子、午前中に徹子と揉めた、あの子だよな?

顔を布で隠してるけど、あの体型、水着、髪の長さ。

間違いない。


んん?


……ちょっと待て。


あの輝く槍、見覚えがあるんだが?


……1年前に、徹子の超音速移動を視認して、「時の棺」で停止させたあのバロールか?ひょっとして?


あのときは、あやうく相棒を失うところだったけど、ここでその当事者に出会うなんて……。

なんという偶然だよ。


彼女、動きがあのときより格段に良くなってる。

前より格段に強い。

……修行を積んだのか、環境の変化があったのか。

どうなんだ……?


で、もう一人は……


やっぱりか。

あのゴリマッチョ男子。

彼氏さんか。

彼も顔を隠してるけど、彼女さん以上に意味ないな。

身体で一発でバレる。


彼氏さんの方は、サラマンダーらしいな。

両手に炎を纏わせて、襲ってくる触手を掴んで、焼き払ってる。


……すごいな。

一瞬で消し炭じゃないか。


ただ、本体が海中だからか。

触手しか焼き払えてないみたいだが。


で、どうみても、触手、焼けた端から再生してるな。

厄介な……


UGN彼女さんが、海水浴客の防御を主に担い、UGN彼氏さんが敵への攻撃を担当する。

そのスタイルでやってるみたいだが……


うん、まずいな。

このまま行ったら、おそらくジリ貧だ。


体力が尽きると同時に、敗北が確定する。

有効打が与えられないからだ。


無論、先に相手の体力が尽きて逃げてくれる可能性はあるけど、こっちが不利なのは変わりない。


……逃げられたら


まずいな。

K市には僕らが住んでいるわけだから、ここで仕留めないと……


僕らの生活環境を壊されるかもしれない。

それは良くない。


……僕は、双眼鏡を覗くのをやめた。


「徹子」


「……何?」


僕は隣に居る相棒に呼び掛ける。


「……加勢しよう。でないと僕らが困ることになりそうだ」


厄介なことになってしまった。本当に。



★★★(水無月優子)



……ちょっと、良くないですね。


海の魔物の触手が意識を失ってる海水浴客を喰らおうと襲い掛かるのを、その触手先端の顎の部分に高重力をかけて圧し潰したり。

斥力障壁を張って、阻んだり。

穂先の重さを爆上げした魔眼槍で薙ぎ払って、切断したり。


色々やってるんですが、触手の数が減りません。


というか、明らかに再生しています。


……まずいですね。


本体を叩かないといけない、ってことなんですかね。

でも、本体は水の中。

そちらに手が出せない状況です。


雄二君も触手を次々に焼き払ってくれてるんですけど、端から再生してるので、攻撃の頻度を下げるくらいしか効果をあげてない……


悪いパターンに入ってます。

なんとかしなきゃいけませんけど……


手がね、足りないんですよ。

犠牲が出るのを覚悟で、海水浴客のガードの手を緩めれば、打開策も出るかもしれませんけど……


そんなの、出来ませんし。


ゆりちゃん、きっとUGNの増援の手配はしてくれてると思うんだけど……


それまで、持つかな……?

いや、持たせないといけないんだけどさ……


弱気が心に鎌首をあげてきます。

だから私は、声をあげました。


触手の顎先を魔眼槍で打ち払いながら。


「雄二君!」


「何だ優子!」


雄二君が応えてくれます。

次々と、触手を焼き払いつつ。


「まだ大丈夫だよね!?」


「ああ、まだまだいける!安心してくれ!」


雄二君と呼びかけ合って、弱気に傾く心を鼓舞します。

精神力だけで戦いに勝てるほど世の中甘くないですけど。

こういう場合、最後に精神力って馬鹿にならないもんですし。


互いに手を止めないで、呼びかけ合い、心を強く持つ。

一人で戦うよりも何倍も強くなれます。


大丈夫。きっと、やれます。

増援が、増援が来るまで……


そんなときでした。


突然、私に向かって伸びてきていた触手が、寸断されて肉片になったのです。


え?と思いました。


……増援?


目の前に、いつの間にか、女の子が立っていたんです。


寸刻みにした触手だった肉片の山を前にして。


その子は、セーラー服を着ていました。

足は、素足。


顔は、見えません。

京劇の仮面みたいなマスクと、それに合う感じのカツラのようなものを被っていたので。


スタイルが抜群に良い子でした。

若い女の色気を最大限に主張するような体型。

特に胸が大きくて……Gカップ?


そして、手がですね……


輝いていたんです。

おそらく、エンジェルハィロゥのエフェクト「光の剣」を使い、手をレーザーブレード化させているのです。

触手を切り刻んだのも、これなのでしょう。


……忘れもしませんよ。

この体型、この戦闘スタイル……!


1年前に私が左遷される原因になった因縁の相手です。

間違いありません。


こんな奴が2人も居てたまりますか!


ファルスハーツの、化け物じみた女オーヴァード……!!


彼女はこちらを見て。


……何故だか、微笑んだ気がしました。

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