『愛することと、死ぬことは同じ』かしこまりこさん

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尾崎ゆうじフル読み書評 評価シート


【注】 こちらは、現在尾崎ゆうじのnoteで限定で受け付けているフル読み書評の『評価シートおよび添削動画』の内容になります。


 本来は非公開ですが、作者さんにお願いし、許可をいただいて公開するに至りました。かしこまりこさん、ありがとうございます!


 皆様の参考になれば幸いです。


↓作品のリンクはこちら。

(作者さんの作業タイミングによっては非公開になる場合もございます。ご了承ください)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054935209092


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☆このたびはフル読み書評をご依頼くださり、誠にありがとうございました!

 誠心誠意評価をさせていただきました。


1 作品タイトル『【完結】愛することと、死ぬことは同じ』

作者名:かしこまりこさん


2 受注日:

 

 2020年12月2日


3 尾崎が作品を読んだ日: 


 2020年12月2日 



4 各項目の評価・採点(各最高20ポイント(総計最大120ポイント)):

 

 ・作者さんから要望……添削・校正なし、評価シートのみ


 ・はじめにひとこと……設定がぞっとする物語でした。なんでこんなものを思いついたのか……汗 まさしくホラーではあるのですが、こんなに土台からしてどうしようもない部分ばかりのホラーって、あんまり知らないかもです。良い意味で、発想が恐ろしいです。


※フル読み書評の評価モード・採点基準についてはこちら

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921468074/episodes/1177354055085183727

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※〇→おもに小説・物語制作における基礎力に係る項目

 ●→おもに物語を面白く・魅力的にするための創造力に係る項目

(細目のpt=5…とてもよくできている。4…できている。3…どちらとも言えない。2…あまりできていない。1…できていない)


①[タイトルやあらすじ・掴み……18pt/20pt]


 〇興味を引くあらすじか、作品を読みたくなるか…4pt

 〇本文冒頭は読者の関心を掴みそうか…5pt

 ●ストーリーに対し適切で魅力あるタイトルか…5pt

 ●キャッチコピー等の内容は読者の関心に刺さりそうか…4pt

 


②[キャラクター……15pt/20pt]


 〇人物の感情描写が適切で、共感できるか…3pt

 ●登場人物は魅力的か…4pt

 ●台詞や行動で人物の本質が描かれているか…3pt

 ●登場人物たちの関係性が上手く描けているか…5pt


③[ストーリー……17pt/20pt]


 〇物語の方向性がはっきりしているか…5pt

 〇展開に驚きや意外性があるか…4pt(最初から最後まで驚きで、メリハリとしては微妙)

 〇登場人物の設定がストーリーに生きてるか…5pt

 ●読者を楽しませようと工夫しているか…3pt


④[文章力……18pt/20pt]


 〇読みやすく、書きこなれた文章か…4pt

 〇用字用語に誤りがなく適切か…4pt(4話、エリカのナオミへの台詞に脱字ありますよー)

 〇会話や台詞に同時代性はあるか…5pt

 ●内容に対し文体は魅力的か、ふさわしいか…5pt



⑤[世界観、オリジナリティ……16pt/20pt]


 〇世界観や設定に矛盾はないか…3pt

 〇フィクションなりのリアリティを演出できているか…4pt

 ●想定読者の興味、関心を引きつけられるテーマか…4pt

 ●アイディアが斬新か…5pt


⑥[構成力……14pt/20pt]


 〇大小それぞれのエピソードの中にもメリハリ(起承転結など)があるか…4pt

 〇展開に緩急があり、テンポが良いか…3pt

 〇終盤がしっかり盛り上がっているか…3pt

 ●物語の導入から面白いか。魅力的か…4pt



[おさらい]

・タイトルやあらすじ・掴み……18pt

・キャラクター……15pt

・ストーリー……17pt

・文章力……18pt

・世界観、オリジナリティ……16pt

・構成力……14pt

(〇基礎力系……56pt/70pt、●創造力系……42pt/50pt)



●総合得点は──


( 98 )pt!


【コメント】


(良かったところ)


・設定がすごくどうしようもなくて、読者の現実からすると「なぜこの人たちはこれで良しとしているのかがわからない」くらい絶望します。ホラーとして、突き抜けてる感じです。


 現実はなんやかんやあっても、「ここまで優しい世界に成熟してくれてありがとう」と言いたくなりました。


・かしこさんは、あらすじなどは手抜き(失礼)かもしれませんが、第1話の導入部分に関しては、いつも上手いんですよね。今回も、いきなり映像が浮かび上がるうえ、エリカの被害者感と、アランを憐れむ気持ちが胸に湧きます。『寝どころに召しあげる』って、なんかすごい表現ですね。


 1話目は、ラストの引き付けもよいです。え、そうなん? みたいな。気になります。


・4話構成になっていて、きちんと起承転結に分かれたなと感じました。その辺りを意識して作ったのだろうと思います。努力してますね。素晴らしいです。しかもこんな複雑怪奇な設定を盛り込みつつバランスを取っているので、良く考えたら難しいことじゃないかな。


 内容がハイファンタジーにあたるので、通常より伝えなきゃいけない設定が多そうですが、前半で分量が膨らみすぎたりするようなこともなく、よくやったなあと思います。すごい。


 物語の筋が、きちんと1本に絞られていて、余計な方向に進まないところも、ちゃんとしているなあと思います。まとまっている感じがします。


(指摘・提案事項)


・設定は良いのですが、1~3話目までで、『その設定内に生きる人物たちの心理』みたいなものは、納得しきれるくらいまで描かれているかというと、ちょっと足りない部分があるように感じます。


 あまりの世界観設定の闇に呑まれて、なんとなく押し切られてしまうように思うので、無視しても良いのかもしれませんが……それがクライマックスの高まりや、読後感の良さを薄れさせている感じもするので、せっかくどうしようもない設定の物語を作って、導入で読者をそこに引きずりこんだのだから、ちょっともったいなさげです。


 ディズニーランドのアトラクションで、配置されているキャラの塗装がそこかしこで剥げているような。それって、アトラクションを楽しむうえでは、少し残念ですよね。


・具体的には、

①「絶対に貴族にはなれない運命にある平民の中の上位クラスが、夜を共にする」という設定において、アランがいじめられ、エリカが侮蔑される理由が、ちょっとわかりにくい。


 これは、設定の複雑さに対して、エピソードが弱いことで起きている気がします。明確に「これが原因」という出来事を紹介しきれてない。例えば「なんでムチで打たない貴族は見下されるのか」といった疑問に対する回答がけっこうあいまいだったりすることも、ひとつです。


 現状、「説明をされているから、まあわからなくはないけど、いまいち納得できない」という感にさいなまれますね。上記ムチの件でひっかかりを覚えていたので、「貴族みんな平民の男と寝てるんだから、エリカもナオミも同じ穴のムジナじゃない?」という気持ちを完全にぬぐい切れたかというと、そうでもなかったり。


 とりあえず、「従者にムチも打てないなんて、貴族としての責任を放棄しているも同然」みたいな、なんとなくでも侮蔑される理由が表に出ていてほしいかもです。あるいは、ラストによって、貴族たちの反応の意味合いが読者にとって変わるように書くとか。


②あとは2話目のラストのあたりと、3話目の中盤にある「アランがナオミに恋するのかしないのか」みたいなエリカの憶測が、いまいちよくわからないかなと思いました。こちらは、世界観に対する疑問にプラスして、何を伝えたい感じなのかがちょっと読み取りづらいので、とりあえずは一度読み直しを推奨します。


③4話目は「なるほどね……」という印象で、良い感じでした。そんな感じで、ホラーとして良いのですが、エリカの心がガラッと変わる瞬間の描写は、もう少し丁寧な方が理想的じゃないかなと思いました。ちょっといきなり変わる印象で、面喰いそうです。


(トータルで)


 全体を通して、おもしろいなあとは思ったのですが、ちょっと内容とか設定に対して、個人的にはボリュームが少ない感じがしました。


 こんな複雑な設定と世界観を、よくこのボリュームに収めたなあと感心はしたものの、逆に言うと「どうしてこんな面白いアイディアを、もっと大きく広げなかったのかな?」というはがゆさを感じました。


 やろうと思えば、それぞれ4倍~5倍程度には膨らませて、中編小説くらいにはできそう。その方が、エピソードも盛り込まれて、より一層、このどうしようもねぇ世界観を味わうというドMな体験をできそううなのになあと、惜しい気持ちになりますね。例えば現状では、エリカとナオミの関係性と、それぞれの心の内の変化とか、貴族間のあれやこれやとかがせっかく表に出てるのに、ひょろっと引っ込んで、消化不良感があったりして……。だったら頭を出さなきゃいいのに、みたいな。


 なんというか、個人的にはそれくらいの大きさのサイズで読みたい作品だったなと思います。現状だと、物語として成立はしてるけど、体感的には企画書を少し肉付けした試作品に目を通した感じなので、もしやる気があるならば、もっと彼らと世界観に鞭をふるって、ぶくぶくにミミズ腫れさせてほしいです。


 以上です。いやあ、楽しくも絶望的な作品でした。



※作者さんへ……ピンとこなければ、指摘や提案は無視していただくことを推奨します。



(以上、本文)


************


 読者の皆様、いかがでしたでしょうか。


 ちなみに後日談ですが、「なぜこんな設定になったのか」という問いについて、作者さんからのお礼メールに記載がありましたので、ざっと紹介します。


(メールからざっくり引用)

『「愛することは死ぬことと同じ」の設定ですが、現実世界をちょっと風刺してたりもします。

裕福な1%の人口が、世界の富の44%を保有していて、先進国が消費するファスト・ファッションの服を縫製する労働者の衣食住の水準が、家畜よりも低い場合があることとか。

小説の中では男女を逆転させましたが、女性が家畜と同等の扱いを受けて許される例は、今でもあります。バングラデシュで私たちの服を縫製している女性など、広義では同じな気がします。』


 というお話で、そう言われてみればそうなのかも、という納得感があり、考えさせられたので紹介しました。「それでも現実世界のほうが優しいね」というのが私たち2人の結論ではありますが、現実問題を完全なるフィクションと思わせずに味わわせることができるのが、小説の醍醐味かもなあと感じた次第です。


 未読の方は、ぜひ一読どうぞ。なんか主人公を男女また逆にしようかとか、何やら色々試してみようと考えているみたいで、そんな挑戦的な作者さんなので、おもしろいのでした。



↓というわけで、作品リンクはこちらからです。(作者さんの作業タイミングによっては非公開になる場合もございます。ご了承ください)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921468074/episodes/1177354055085183727


 以上で今回のフル読みは終了です。


 皆さんのお役に立てたら幸いです。


 これからも創作楽しんでいきましょう!


創作コーチ

尾崎ゆうじ

(note) https://note.com/ozaki_yuji

(youtube) https://www.youtube.com/channel/UCu54sC6pviWQUC1eA6dqDKg/featured?view_as=subscriber 

 

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