鬼祓い輪槻 ~トンネルの霊鬼~

如月しのぶ

鬼祓い輪槻 ~トンネルの霊鬼~

「まさかこんな化け物だったなんて」


 私たち三人は、面白半分に心霊スポットのトンネルに来ていた。


 言い出したのは、軽ギャルのミミーだった。

「チョー出るって噂のトンネルがあんだけど、肝試し行かね。ウチ等だったら見えるっしょ」

「えー怖くないー。でも花もいくぅー」

 イラっとする、私可愛いでしょアピールをしながら、花も同意した。

 私、まゆも反対する理由はない。

 何の接点も、共感もない私達は、ただ一つの共通点で今はつるんでいる。


 そうして、ぞろぞろとやって来て、トンネルに入ったとたんに、出くわした。


 女の姿はしているが、確実に鬼だ。

 気付かれる前にそっと逃げようとしたら、空気読めない花が、また可愛いでしょアピールを始めた。

「キャー、キャーキャー、キャーッ」


 ブチ切れそうになったが、切れる前に鬼に気付かれた。

 針のように鋭い視線が突き刺さる。

 鎌イタチのような気が飛んで来て、花は身体がバラバラになって、地面に転がっている。

 キャーキャー大騒ぎして、無事で居られるのは映画の主人公だけだ。

 怖いモノを見てキャーと言う私は可愛いでしょうが、状況判断より先に来るから、この有様なんだ。


 鬼はこっちに鋭い視線を向け、剃刀の気配を纏いながら、ゆっくりとこっちへ向かって歩いてくる。


「チョーやべぇ。マジ喰われる…」

「今までさんざ食わせてきたくせに」

 じょーっという音はしないが、ミミーはけっこうな勢いで、立ったまま漏らしている。

 

 こいつはいろんな意味で、股がゆるい。

 ギャルの股がゆるいのではなく、こいつのギャルは手段だ。

 時代が違えば、ケツの見えそうな短い真っ赤なボディコンで、お立ち台によじ登り、パンツも履かずに股を開いてケツを振り、扇子をふりまわしていたに違いない。

 だから、この有様なのだ。

 今は、息が出来ずに、

「ひっ、ひっ」

とだけ、ひきつっている。


 私の服も、高原に遊びに来たような白の上下は、穴だらけで血が滲んでいる。


“じゃり”


 砂利を踏む音が、後ろでした。

『しまった。回り込まれた』


「気障男キター」

 そこには、アニメのキザキャラをそのまま実写化したような、やせ型の長身、七三に黒縁メガネの若い男が立って居た。

「わたしは鬼祓い、輪槻。おまえ達こんな所で何をしている」

 歩きながら話しかけておいて、ガン無視で私たちの前に、立ちはだかった。


 はだかったら、裸になった。素っ裸だ。


 そのあいだにも、鬼は近づいてくる。


 輪槻は、グニャグニャと体を揺らし、腰を振って踊りだした。見たこともないムカつく踊りだ。

 眼はカメレオンのように左右バラバラに動き、まったく焦点が合ってない。

 口をぱかっとあけ、こいつホントに人間かというほど長い舌をだらんと垂らしている。

 蟹股で腰を落し、エリマキトカゲのように、走り出した。

 走り方が走り方だけに、そのスピードは、遅ーいっ。


 どんどん、鬼と輪槻の距離が短くなる。

「うっきょきょきょきょきょ」

 輪槻が甲高い声で、きしょく笑い出した。

 踊りの動きが大きくなる。

 気持ち悪い。


 鬼の針のような視線が皿のようになった瞬間、歩みがピタッと止まった。


 そのまま三秒。


 鬼の口元がぴくっと動いたような気がした瞬間、くるっと背中を見せ、一目散に全力疾走を始めた。


 この隙に私達はトンネルの出口まで逃げ出した。

 輪槻の

「きょきょきょきょきょきょきょきょ」

という笑い声が、トンネルの中を行ったり来たりしている。


 まるで、奇妙な生き物が自分の縄張りを主張しているみたいだ。


「くけー!!!」


 でかい雄たけびが響き渡った後、トンネルが巨大な空気砲になって、私達は吹き飛ばされた。





 それからしばらくして、いつもどおりフラフラしていると、オープンテラスでハードカバーを読んでいる輪槻を見つけた。

 結果的に助けられた礼は、まだ言っていない。

 さすがにここでスルーするほど、私達は非常識ではない。

 スッと、輪槻を囲んで立った。

 輪槻は私達に手の平を見せた。

「どんな鬼でも、自分で自分の事を、得体が知れないと思っている奴は、一体も居ない」

 さすがの鬼でも、訳の分からないモノは恐ろしいという事らしい。

 そーいうもんかねーと、あたしたちは顔を見合わせる。

「おまえ達、3人でいつまでもうろうろしてないで、早く成仏しなさい」


 なんか説教が始まりそうだったので、私達は風に乗って逃げた。





はな。

 犯人の一人が自首したことにより捜索。バラバラ死体で発見される。

 後に、犯人全員逮捕。


ミミー。

 絞殺死体で発見される。

 三日後、防犯カメラの映像により、犯人逮捕。


まゆ。

 通報により、犯人現行犯逮捕。

 搬送先の病院で死亡が確認される。刺殺。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼祓い輪槻 ~トンネルの霊鬼~ 如月しのぶ @shinobukisaragi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ