第6話(霧海の森-1)

 二日後。

 旧都に挑んだ時と同じ時間に二人は冒険者ギルドに訪れた。

 軽く挨拶を交わすと、ギルド職員から複数の書類と依頼を受けて、迷宮センターを目指した。

 ローエは二日間、この冒険のために、地図を組まなく読み。色々な種類の道具を揃えた。食料と水は気持ち多め。念のためお泊まりセットとランタンも用意。荷物は腰につけた回復薬と小物が入った赤い鞄と、冒険道具が入った鞄の二つ。服装は相変わらず学生の制服。

 一方、デュカルは目に濃いクマをつけてやってきた。ローエとは違い、収納機能が付いている高性能な銀色の指輪のみ。腰には珍しく左側に鞘に入った剣を用意していた。顔色は正直よくない。

 朝のせいか会話はそこまで弾んでいない。ローエは真っ直ぐ歩き、デュカルはだらだら道を歩く。

 魔術都市、冒険者ギルド支部を出て半日。休憩を挟みながら、道中魔獣と遭遇する事なく、旧都で通った迷宮センターに書類とギルドカードを提出する。記載漏れは少しあり。ローエが魔術都市に通う生徒であることは伏せられている。ローエが作った場所は聖国サントクリス。魔術都市で作っていたら漏れなく、生徒である事を記載されていただろう。

 受け取ったギルド職員はローエとデュカルが挑戦する迷宮を見て、二人に忠告した。

「気をつけてください。つい先日行方不明者が出たばかりです。くれぐれも無茶な冒険は控えるようにお願いいたします」

「分かりました」

「あいよ」

 ギルドの職員が書類とギルドカードを受け取り、装置に通して記録する。記録が終わると二人に返却した。

「迷宮を踏破しましたら、一週間を目処に必ずここの通過をお願いします。それでは良い冒険を」

 二人は軽く頷いて魔術都市の迷宮センターを通過した。


 そんな迷宮センターから半刻はんとき。徐々に白い霧が立ち込める森の中に二人はいた。大分時間を過ぎて、午後も半ば。

 迷宮に入ったローエとデュカルは歩きながら会話始める。

「ここがフォグホーンの森ね」

「ああ。このまま冒険をするとなると、早いうちに寝場所は確保した方がいい」

「そんなに時間かかるの?」

 デュカルは人差し指を上に立てた。

「森と言っても迷宮だ。思っているよりもずっと広い。それに空を見ろ。もうすぐ日が暮れるぞ」

 ローエは空を見上げた。まだ青い空を見て日が暮れるというデュカルの返答に異を唱える。

「まだ、大丈夫よ。それに、デュカルには悪いけど私は一人でも行くから」

 それを聞いたデュカルは深いため息をついた。魔王を探すローエに休む暇はない。迷宮の最奥には一日で行けるだろうが、この時間から奥地に向かうには日を越さなければならない。

「分かったよ。心配だから俺もついて行く」

 デュカルは諦めて、ローエの方針に従う。

「私の我儘に付き合ってくれてありがとう」

「気にするな。俺も好きでやっている」

 デュカルはこの森について説明を始めた。

「フォグホーンの森は、別名魔術師殺しの森と呼ばれている。ここの森の魔術による耐性は異常なほど高い。魔術は出来るだけ自然に触れないよう制御しろ。それと霧が深まると魔術の効果は薄れる。最悪、魔術そのものが使えなくなるから気をつけろよ」

「分かった。でも魔術はまだ大丈夫そう」

 ローエは隣にある木に向かって魔術を使うと、木は瞬く間に黒ずんだ。

「その調子なら心配ねえな」

 ローエの魔術を見て若干引き気味のデュカル。霧海の森で魔術を使うにはそれなりに実力が必要だ。それを汗一つ流さず呼吸をするように、魔術を使うローエに頼もしさを抱きつつも、恐怖を感じた。

 ローエは満足気に笑顔を作って、森の中を進んで行く。それに釣られるようにデュカルも後を追った。

 魔獣が跋扈ばっこする森の中はやけに静かだった。迷宮とはいえ人間が生活するには危険の伴う場所。森の中は魔獣の気配で満ちているにも関わらず肝心の魔獣は姿が見えない。

「デュカル、森の様子はどう思う?」

「何も思わねえよ。迷宮は迷宮だ」

「行方不明者が出そうな危険な雰囲気は感じないのよね」

 ローエは立ち止まって森を見渡す。

「嵐の前の静けさって言うだろう。それに危険は見えないものだ。見えていたら自分の意思で回避可能だろう?」

「それもそうね」

 ローエとデュカルは森の奥へと進んで行く。

 そんなローエはデュカルのある変化に気づいた。旧都では無かった剣が腰にあった。

「デュカル、その剣どうしたの?」

「作った」

「作ったの!?」

 ローエの大声が森の中に響き渡る。

「別に驚くことじゃねえだろ」

「それもそうだけど、デュカル作るって……」

 途方もない見えない時間にローエは言葉を失う。術式を作るローエもデュカルの行為そのものがどれだけ大変なことか容易に想像出来た。1と0の間には途方もない距離がある。デュカルはたった二日で0から剣を準備してきた。見た目を見るに型から作り上げたモノではなさそうだ。剣の持ち手は黒い紐で丁寧に編み込まれていた。

「驚くほどでもねえだろう」

「それにしても自分で作るより買った方が楽じゃないの?」

「そうだな、買った方が楽だ」

 ローエもデュカルの考えに賛同した。

「そう思うなら買えば良いのに」

「ローエは、もし自分の体の一部に変わる道具があったら買うか?」

「買うと思う。便利ならまた買うし、不便ならもう買わないし。道具なんてそんなもんよ」

「魔術師的な考えだな。自分に近ければ近いほど愛着が湧くもんだぜ。自分の道具は自分で作るし、手入れも管理もする。気候、時期、体調によって微調整するのもざらだ。だけど俺は買おうと思ったりはしない。俺の武器も体と一緒。替えは効かねえ。自分で作れるうちは自分で作るさ」

「作れなくなったらどうするの?」

「他の方法を探す、それか誰かに頼む。俺が惚れ込む鍛冶屋を見つけるよ。それでも、仕上げはすると思うけどな。ローエも道具にこだわり出したら、そのうち分かるさ」

「分かりそうにないわよ」

「魔術を参考にしたい先生はいないのか?」

 デュカルにしてみれば、魔術は魔術。現代魔術だろうが、外法だろうが、細かいことはよく分からない。

 それでも魔術にも自分が使う道具と同じように、自分のためだけの調整がある事を信じていた。そう、自分自身の体のように。

 彼にもまた先生と呼べる人がいた。その先生と同じ道具を揃えたが、技は成功しなかった。使いたくても使えない理由がデュカルにはあった。剣も体の一部。替えは効かない。

「……いるにはいる」

 ローエの頭によぎったのは、緑の服を着る男性と少女の二人の姿。

「じゃあ、分かるのも時間の問題だな」

「そうかもね」

 デュカルにさとされたローエはあまり聞く耳を持たなかった。体は道具の一つ。魔術であってもそれは変わらない。目的を果たす機能があれば、形や見た目に求めるものはない。目的は変わらないのだから。もし、ローエの体が動かなくなっても意思を継ぐ者がいれば、結末は一つ。

 ローエの代わりが、弟を魔王にした者を見つけ出し、自らの手で命をほふる為に行動をしている。道具に目的は宿らない。それを理解して、ローエは自らを道具とおとしめたとしても、目的を果たさんとするだろう。ローエという個人概念が意思を抱き、人として快楽と痛みを求めて心を満たそうとしていた。

「ローエ、自分を道具なんて思うなよ。大切にしろよ」

 デュカルはローエの心を見通したように答える。

「何よそれ。悪寒が走ったわ。気持ち悪い。努力が才能を越すと思っていない男の台詞とは思えない。だから……」

 才能がないのよ、と言うのをローエは抑え込んだ。

 デュカルは手痛い反撃を食らって、坊然と立ちすくむ。

「そりゃあ、悪かったな」

 デュカルがローエにかけた言葉は謝罪だった。

 足音が聞けなくなって、ローエは後ろを振り向くと、立ちすくむデュカルを瞳に入れる。

「ごめん。言い過ぎた。ほら一緒に行こう。この道であっているんでしょ?」

「ああ」

 二人は少しギクシャクした雰囲気で、迷宮の奥底へと沈む。


 否応なしに時は進んだ。

 夕暮れ時、橙色に染まる森の中で少し開けた場所。

 周囲の警戒を済ませて、ここが安全であることは確認済み。

 ローエとデュカルは横たわる木に座って、間食や水分補給をしていた。

「もうすぐ日が暮れるぞ。一応提案するけど、野営の準備をするなら今だ」

「平気」

「夜は危険だぜ。無茶するなって言われたろ」

 デュカルはローエをしつこく注意を促した。

「無茶は承知よ。一刻いっこくでも早く今は時間が欲しいでしょ」

「同感だな」

 三度目の否定にデュカルは諦めた。

 目的が同じでなければ互いに意見をぶつけ合ったに違いない。二人の共通した目的は冒険を進めるのに見えない形で助けた。

 ローエの目的のために犠牲をいとわないその姿勢に、デュカルはさっきの気まずいやり取りを忘れるくらい、ニンマリと笑った。

 デュカルはがさがさと鞄をあさり始めた。

「エネルギー補給は必要だろう。イエローベリーのジャムとパンが、一人分余っているんだけど食べる?」

 デュカルは小瓶に入ったジャムと、透明な容器に入ったパンを取り出す

「食べる!」

 ローエはデュカルのすぐ隣に座る。

「私はリーフティー用意したから一緒にのも。デュカル用の木製のコップあるから使って」

「こりゃ、どうも」

 ローエはジャムをパンに付けてもぐもぐ食べる。デュカルはリーフティーをごくごく飲む。

 初めて会った時に、行ったお店でお互いの食に関する癖を把握している。

 ローエはお腹がすきやすく、デュカルは喉が良く乾く。

「美味しかった。ご馳走様でした」

「こっちもご馳走様」

 お互いに渡した道具を受け取って、鞄にしまってしばらく暗くなっていく森の中で短い休憩を取った。


 ***


 森の中の視界は良くない。霧によって光が散乱し、先は見え難い状況。

 木の葉の隙間から青い光が、所々に散りばめられていた。

 暗い世界の中、ローエとデュカルはランタンを握りしめ、足下を照らしながら森の奥へと進む。昼の魔獣は寝静まり、夜の魔獣が目を覚まし活動する頃。二人は一向に出会わない魔獣の異変に気づき始めた。

「こうも魔獣に遭遇しないことってある?」

「いや、かなり珍しい。誰かが狩り尽くしたとしても、跡は残っているもんだが、何もねえからな」

 デュカルは持っているランタンを自分の周囲で照らし改めて確認する。

「魔術にも引っかからないし」

「ローエもか」

 警戒して二人は独自の方法で魔獣を探してはいるが、魔獣を見つけられない。

「こんなことあった?」

「いや、初めてだ」

 デュカルの記憶の中を探してもこのような事態は見当たらなかった。

 奥に進むにつれて、森の霧は徐々に薄くなり始める。散乱する光は収まり、道の先が見やすくなると、ローエの魔術が反応した。

「魔獣を見つけた。後方から二匹凄い勢いで来ている」

「こっちに向かって来ているのか?」

「うん、次は右からも来ている」

「何匹だ?」

「分からない」

「まずい、左からも来た」

「前からも来たみたいだな」

 二人は四方を魔獣に囲われていた。

「どうする?」

「好きにやれ、お前に合わせる」

 この状況で二人は慌てることなく、冷静なやり取りをして、対処方法を決めた。

「分かった」

 ローエは迷いを捨てると四方に魔術を展開した。爆炎が周囲を照らす。

「ごめん! 一匹逃したかも」

 黒い煙が立ち込みさらに視界が悪くなる。逃した一匹がどの方向に、どの位置にいるのか分からない。ローエが掻き乱した状況において、デュカルは焦らず、状況に適合する。長年の冒険の勘と経験が冷静を生む。目の前に突然魔獣が現れても、魔獣を識別し、どの様な判断をすれば良いのか体が条件反射した。

 超人の抜刀。

 腰の剣に手を掛けて、刃が見える間も無く、魔獣の首が切り落とされた。

「怪我はないか」

「うん、大丈夫」

「魔獣が出て来たな、もっと魔獣を感知できる範囲を広げられないか?」

 二人は歩く速度を早めだした。同じ場所に居続けて状況を悪くしないようにするための判断だろう。

「やってみる。だけど、今みたいに四方から同時に来られると分からないわよ」

「無理矢理、進もう。俺がサポートする」

「分かった」

「結界を張るから、とにかく広げるだけ広げてくれ。きっと魔獣の出現場所があるはずだ。その場所の特定を頼む」

 魔王がそこにいる可能性が高い。魔王は魔獣を従える王。この森の魔獣はもしかしたら、魔王の誕生を祝福し、外敵から邪魔されないように集まっているのかもしれない。

「デュカルも頼んだよ」

「ああ」

 最初に遭遇した魔獣を皮切りに大量の魔獣が動き出したのか森が揺れ始める。ローエは点々と生まれる魔獣の数を無視して、さらに広く大きな範囲を意識する。現状は、魔獣が集まっている方向は分かっていない。もし、方向が分かればローエの高度な魔術で道と視界を一度に確保可能だ。そして、まとめて魔獣を対処も出来る。そこからは楽に冒険を進められるだろう。それまでは我慢と準備。

 デュカルは両手を組み祈り始めた。続々と増えていく魔獣の気配をデュカルも肌で感じる。戦況が複雑になる前に結果の準備を終わらせる。

「聖者の祈り、純白の壁、鋼鉄の蓄積——了」

 祈りが終わると、手を解き、結界の名を唱える。

白き壁ヴァイスホール

 顕現する鋼鉄と祈りで作り上げられた白き壁が二人の周囲を包み込み、透明になってその場から消えた。治癒師が対魔獣用に開発された防御の術——陣界術と呼ばれる魔術が魔獣の行く手を阻む。

「ローエついて来い」

「分かった」

 二人は小道から外れた。道には見えない雑草と木々に覆われた通路。枝が道を阻む方向にデュカルは突き進む。木の枝をへし折り、ズボンの枝に布が引っかかって破れる。ローエは手の甲を木の枝で切り傷を付けた。

 道を逸れたのは撒くためが目的ではなく、乱立した木々を壁にして、魔獣の進行の邪魔をする。自分たちの身動きも動きづらくなるが、魔獣の動きも同じように制限できる。多くの魔獣をふるいに掛けて、負担を減らす作戦に出た。

 何十もの大小様々な魔獣が二人の後を追う。

「デュカルごめん、おいつかれそう」

 ローエは慣れない林道に足を取られて、森を進むペースが落ちていた。

「俺が後ろに移動する。あまり長くは俺も耐えられないぞ」

「ごめん、大丈夫。魔獣の発生源は分からなかったけど、来る法則性は分かった。その方角に魔術をぶっ放すから、少し離れてて」

「了解」

 後ろに移動したデュカルは刃を見せるまでもなく、魔術を切り裂いた。一太刀で的確に魔獣の急所を突く。デュカルは剣を構えて、狙える相手を見定める。

 甲羅を被った硬そうな魔獣、腕と尻尾が発達した魔獣、二足で歩く人狼の魔獣。

 デュカルはどの魔獣が斬れて、斬れないか、判断をする。

 近づく魔獣達。

 デュカルは可憐な足捌きで弱い魔獣に近づいて、剣を振り抜き魔獣の体を次々とバラバラにする。最後に残った甲羅の魔獣を剣で斬ると、あまりの硬さで剣そのものが折れてしまった。デュカルは折れた剣を銀色の指輪にしまって、距離を取る。デュカルは足止めのため、術式を起動した。

白き壁ヴァイスホール

 デュカルと魔獣の間に白い鋼鉄の壁が現れる。

 魔獣が壁に触れると、後ろに弾き返された。枝を薙ぎ倒して霧海の森の大樹にめり込んだ。

 デュカルが魔獣を対処していた同じ時。

 ローエの背後に赤い炎が出現する。足下からは円状に炎がメラメラと燃える。

第九の赤の術式ワンド・オブ・ナイン

 ローエは出現させた魔術を従わせて、両手を交互に動かし、赤い炎の渦がトンネル状に、勢い良く前へ伸びた。幅は人が両手を伸ばした二倍の大きさ。魔術に巻き込まれた魔獣は跡形もなく消え去った。残ったのは霧海の森の木々達。筒状に抉りとられた炎の地面。これで、森の中よりは、視界の確保が出来るのと、ある程度は魔獣が寄ってくる方向を予測することが出来る。森の霧の影響を考慮して、ローエは魔素と錬素を応用して一気に範囲を広げて、魔術の火力を維持した。

 ローエの額と襟元は汗で濡れている。かなり無理をしたに違いない。森の奥が見えるのなら、そこまで届いたかもしれない。他の木が燃えないように制御までして、森を貫いた。

 森の木々を黒い炭に変えて、黒煙すら許さぬ白い雲が上空に浮かぶ。

 ローエの魔術が消えると、続々と森の脇から魔獣が一匹、また一匹と姿を見せる。

「この奥だね」

 デュカルがローエの横に立つ。

「そうだな。沢山の魔獣が出てきた。どうしても守りたいみたいだぜ」

 数えるのも骨が折れそうな魔獣の大軍が森の中から現れた。魔獣に出会わなかったのはここに集まっていたからだろう。魔獣の習性については分からないが、この先に何かがあると二人は予測した。

「「グアアアアアアア!!!」」

 魔獣達が雄叫びをあげる。

 デュカルはじっくり魔獣の集団を観察していると、珍しい魔獣が目に入った。デュカルはその魔獣を見てローエに指示を出す。

「ゴブリンが二体。しかも角が二本完全に伸び切ってやがる。やばい完全体だ。ローエ! もう一度魔術をぶっ放せ」

「え!?」

 デュカルがローエに注意喚起をしたのも束の間。

 二匹のゴブリンが二人の目の前に凄い勢いで距離を詰めてきた。

 さっきの魔術でローエの反応が一拍子遅れる。

 デュカルはローエの洋服を掴んで後ろに引き下げる。体勢を崩したローエはその場で尻餅をついて、両手を地面につくと目の前で、デュカルと青い鬼が対面していた。鬼は既に片腕を後ろに引いて、デュカルを殴る構えを完了している。

 ブンと風が横切る音がした。青い鬼が腕を振るう。

 音が消えたと同時に、デュカルの姿は消えていた。

 そして、ローエが地面に座ったまま横を見ると赤い鬼が隣にいた。一息つく暇もなくローエは魔術を発動した。

消し去りなさいキング・オブ・ブレイズ

 ローエは赤い鬼に向かってに魔術を素早く解き放った。赤い鬼は抵抗もせず、その炎によって燃え尽きる。赤い鬼が絶命したのを確認して、ローエはデュカルがいた前方を向くと青い鬼の姿が見えない。青い鬼の気配をローエは探った。後ろを振り向くと。

「しまった」

 青い鬼がローエの後ろに回り込んでいた。

 ブン。

 再び風が横切る音がした。血管を浮かび上がらせて、自慢の筋肉でなりふり構うことなく腕を振り降ろした。

 デュカルと同じようにローエの体も消し飛ぶ瞬間。

 赤い光が青い鬼の腕と体を撃ち抜いた。鬼は膝から崩れ落ち、ローエに向かって巨体が倒れる。ローエは低姿勢で体勢を崩しながらも立ち上がった。

「ローエ無事か!?」

「平気。デュカルは?」

「俺も何とか生きている」

 デュカルの服は汚れているが、体の怪我は見当たらない。

「話している暇はなさそうね。魔術使うから離れて」

 魔獣の軍勢が二人を目指して一斉に襲いかかる。

「絶対、遠慮するなよ」

消し拭いなさいキング・オブ・ブレイズ

 ローエは体に鞭を打ち、魔術を解き放つ。

 吐きそうになる錬素を、喉元で押しとめる。

 前方に見える魔獣の一団に烈火の爪を薙ぎ立てる。魔獣はなす術なく切り裂かれ燃えて消えた。

 ローエとデュカルの目の前は炎の海に包み込まれる。

 ローエは魔術を使い終えると即座に体の門を閉じて、錬素を吐き出した。口で小刻みに呼吸をする。

「さっきの魔獣は?」

「ゴブリンが成長した鬼とよなれる魔獣だ。希少個体だから滅多に遭遇しない」

「それにしてもやばかったね。魔獣同士が連携するなんて」

 青い鬼は最初にデュカルを吹き飛ばし、赤い鬼がローエの気を引いている間に、青い鬼はローエの背後に回った。デュカルが無事でなければ二人とも死んでいた。

「本能で動いているとはいえ、奴らも最適な行動をする」

「どうしたら良いの?」

「答えはねえ。自分の身を守ることに集中しろ。絶対に警戒を切らすな。その隙に死ぬ」

「分かった。次が来たね」

「魔獣の沸きが早いな」

 大地を揺るがす地鳴りが森に響いた。

 炎が消えると牙を剥き出しにした巨大な頭が出現する。

 ランドレックス。

 大地の上では食物連鎖の頂点にいる魔獣の一体。

 ランドレックスを先頭に、多くの魔獣が押し寄せる。

消し飛ばしなさいキング・オブ・ブレイズ

 ランドレックスはローエの魔術に、なす術もなく燃えて命を落とした。周一にいた魔獣もまとめて黒い炭になる。

 目の前の魔獣がいなくなったのを確認すると二人は落ち着いて話を始めた。

「ここを進めば魔王がいるかもしれない。俺が前に出るから、少しは休憩しろ」

 ローエは額に汗を溜めて、息を切らしている。かなり疲弊しているローエを見て、デュカルは気遣った。

「ありがとう……」

 さっきのような最悪の状況を回避すべく、ローエは周囲を念入りに確認した。

「俺が前線で盾になる。支援は頼んだ」

「分かった。ねえ、この魔獣達だったら、行方不明者は出る?」

 デュカルはローエの顔を見て真剣な表情で答えた。

「ああ、数え切れないほどにな」

「そっか。あと、デュカル聞いて」

「何だ」

「魔術の制御が難しくなってる。火力の維持が難しいから、少しだけ魔術の調整がしたい」

 ローエは疲労の正体をデュカルに伝える。

「霧が出始めたからな。今はどれくらいだ」

 二人が話している間にも、森の中の霧が濃くなりつつある。

 ローエは近くにあった手頃な木に魔術を放った。霧が出る前よりも格段に威力が弱い。木を燃やす変化にとどまった。普通の魔術師であれば、魔獣で木を燃やすどころか発動するのも難しいだろう。

「大丈夫。範囲を絞れば、火力は維持できそう」

 ローエの額に汗が流れる。

「頼もしいやつだ」

 霧が濃くなり視界が悪くなった頃、二人の表情は急に顔色が悪くなった。

「あれ、ちょっと、何これ……」

「やばいな。逃げるのも一苦労しそうだな」

 霧の中に無数に赤く光る魔獣の目。魔獣の一団とは比にならない、数の魔獣が集結していた。この森にここまでの数の魔獣が隠れていたとは二人の想像を超えていた。霧越しに感じる気配は魔獣の軍勢。それも一つではない。下手をすれば国一つを滅ぼし兼ねない魔獣の数が集結していた。

 デュカルがローエに無茶振りをする。

「何かとっておきはなしか?」

「探してるけど打つ手なし」

 流石に、あの魔獣の軍勢を消す魔術を使うには、準備が足りない。森の奥に進むにつれて魔獣の威力が落ちていることをローエは実感していた。魔素の制御に問題はない、体の中に蓄積されていく錬素が完全に消費出来ないでいた。呼吸を使って上手く放出してはいるが、度重なる大規模な魔術の連発で想像以上に体の方は疲弊していた。立ち込める霧の影響もあって、魔術の威力が落ちている。今の状態では魔術を使ってもせいぜい皮膚を火傷させるのが精一杯。無理をすれば、魔獣を消し飛ばすことはできるが、肝心に魔王にたどり着く前に気絶しては元も子もない。

「なら探せ。じゃあ、頼んだぞ」

「無茶言わないでよ。ちょっとデュカル!」

 ローエは諦めて頭を全力で回転させ、とにかく息を整えた。

「大丈夫。お前なら出来る」

 そう言ってデュカルは魔獣の軍勢に向かって前に出た。このまま、何もしなければ魔術都市の冒険者街、いや、魔術都市が滅んでしまう可能性もある。助けを呼ぶ暇はない。デュカルは魔獣の軍勢の前に立ち塞がった。森の中では魔獣の方が足は速い。助けを呼ぶ前に自分が死ぬ可能性もある。もし、助けを呼ぶことが上手くいっても、冒険者ギルドが混乱に陥るのは目に見えている。それならば、一匹でも数を減らすことを選んだ。デュカルは親指につけた指輪から剣を取り出した。

 デュカルは剣を強く握りしめて、霧海の森の林道をかける。持っていたランタンはとっくの昔にどこかにやった。視界は暗くよく見えはしないが、デュカルの夜目は正確に魔獣の位置を把握していた。

 誰よりも剣を振り。

 誰よりも剣を愛し。

 誰よりも剣の才能を欲した。

 だが、デュカルには剣の才能がない。諦めるしかなかった。剣一本で魔獣の軍勢を止める技術もなければ、実力もない。

 硬い魔獣が現れれば、突破する術もない。

 誰よりも剣士として、力が足りない事は理解している。

 ただ、剣が好きだった。そして、勇者を目指した。

 剣士の道を諦め、治癒師になっても、こうして剣を握りしめている。治癒師に必要なのは、治癒能力と道具。剣なんて生物を傷つける武器は本来なら不要。まして、肝心な時に仲間の傷を癒せないようでは、治癒師の存在意義すら疑われる。緊急事態だからと言って、前に出る理由はない。後ろを向けて逃げればいい。

 デュカルはそれらを捨てた。

 目に宿すは、数多の魔獣。内に宿すは剣士の心。後ろには大切な仲間。

 剣を腰にある鞘に戻して。構えを取る。

 一呼吸おいて、勢いよく剣を抜いた。

一式赤レッドポイント

 デュカルの手から剣が消えたように見えた。実際には刀身そのものが消えていた。

 消えた刀身はデュカルの目の前で中空に浮かんでいる。


 ギチギチと震え上がり、そして崩壊した。

 赤く染まった一太刀が、流星の如く一直線上に射出される。

 赤い鬼はもちろん、その前後にいた魔獣までも消し飛ばした。

 デュカルの鍛錬で身についた錬術。魔術とは異なり、体の錬素を使って発動する。正しく使えば使う程、強くなり成長する異質な技。

 剣の里を代表する七天流と呼ばれる流派。

 今、デュカルが使った術の本来の名は、一色赤レッドポイント

 七天流の最初の技であり、基本的な突きの技である。剣の先端が赤く染まり、物質の性質や能力を無視して貫く。

 残念ながら、デュカルの技に色は宿らなかった。紛い物の式という名前に変えて自らこの技を編み出した。

 剣の里を追い出されて、自分と向き合いひらすら、技と道具を磨いてきた。

 剣の里では四年の月日、朝から晩まで振り続けた回数は数百、数千万。下手をしたら億に届くかもしれない回数を、ひたむきに繰り返した。一瞬のブレも無く、自然にその構えが出来る。

 道具も自前。絶対に壊れない剣、絶対に斬れる剣をそう容易く入手できる訳もなく、すぐに諦めた。デュカルの錬素の性質と剣の組み合わせは特別、良くも悪くもない。かと言って特別な相性があるわけでもない。平凡な才能だった。

 デュカルは足りない能力を才能を道具で補った。

 治癒師時代に修行した調合薬の知識を用いて長年研究に取り組んだ。

 目指すのは、最強の貫通力。子供ながらに七天流で、一番強い錬術。それは、一番目の技が最強であると強い拘りを持った。その拘りは道具にも伝播する。

 特殊な配合を駆使して作り上げた剣の強度は脆い代わりに、驚異的な爆発力と推進力を手に入れた。本来の剣の特徴である切り裂いたり、叩き切るにはあまりに耐久が低く、満足に使えない。

 これはデュカルが一式を使うためだけに開発した専用の武器。

 刀身は朱色に染まり、刃に蓄積されたエネルギーは、物理的なものになり代わり、圧倒的な貫通力を生む。

 実際、止まること無く次々と魔獣を貫いた。

「ちっ、数が多いな」

 デュカルは現状に満足していない。繰り出す錬術で望むのは圧倒的な力。剣が生む出す貫通力に文句はない。だが周囲にもたらす影響範囲は極めて限定的だ。貫通に特化した結果、大規模な攻撃を行うことは出来ない。魔獣は次々と襲ってくる。

 デュカルは残った魔獣に追撃を加えるべく、親指にはめている銀色のアクセサリーから武器を取り出した。赤い剣が右手に握られている。

 剣は自ら一本、一本、丁寧に作った。かなりの時間も消費している。

 それを何の迷いも無く、観賞用の美術的な要素と切り離し、一つの道具として大切に扱った。

 剣を鞘に戻し、構えを取る。

 七天流最大の教え。それは、どんな時でも決して刀身を見せてはならないこと。七天流の基本は抜刀術。何度も技を繰り出すには、刀身が見えないくらい、振り抜いて戻す動作速度が要求される。刀身を見せるのは半人前の証。デュカルは一切、刀身を見せない。

 繰り出すは光速の抜刀術。予備動作もなく次の瞬間には、振りぬいた手は腰に戻している。達人の領域まで鍛え上げた体と精神は裏切らない。例え紛い物の代物だとしても。才能が努力を凌駕しなくとも。道具と地道な鍛錬が体の可能性を極限まで研ぎ澄まさせる。

 赤い瞬きが魔獣に向かって飛来する。

 魔獣の体には、点と呼ぶには大きな穴が空いた。

 魔獣は確かにデュカルの攻撃で数を減らしてはいるが、期待する数の減少には至っていない。魔獣でひしめく森は未だ健在だ。

「あまり減らねえな。残りはこれだけか」

 ちらっと、右の親指に嵌めた銀色の指輪に目を通して、残りの剣の数を確認した。

 浮かび上がった数は六。

「面倒だ、まとめて吹き飛ばす」

 六つの腕。光速が織りなす奇怪な残像はあたかも同時に一つの腕のように見せる。

六式赤レッドポイント

 深く息を吸い込んだ。

 一本の手から、六本の剣が同時に放射状に振り抜かれた。赤い軌跡が魔獣の体を突き刺し、命を落とす。一本の剣とは違い、広範囲に広がる赤い煌めきが魔獣の体を消失させた。魔獣の数は目に見えて減った。しかし、魔獣の数が続々と増えていった。

 デュカルの攻撃手段もこれで尽きた。あの赤い光がデュカルとローエを守ることはない。

 魔獣は何処からともなく流れ込み、再び集団を形成した。あっと言う間に、デュカルの周囲を取り囲む。結局一本ずつ使おうと、六本まとめて使おうと魔獣の勢いを止めるには数も威力も足りなかったとデュカルは理解する。

白き壁ヴァイスホール

 デュカルの周りに白い壁が出現する。そこら中にいる魔獣の侵攻を妨ぎ、後ろへと押し返した。体の軽い魔獣が壁に衝突すると、反射で体が破裂する魔獣もいた。デュカルが作り出した砦が魔獣を引き止める。だが、それも一部の魔獣には効かない。

 少なくともランドレックスには通用しなかった。強靭な四肢を用いて、デュカルが作った壁を引き裂いた。巨大な口には、魔獣の血をつけて、舌を伸ばし、鋭い牙を見せてデュカルを飲み込もうとしている。

 デュカルは逃げようとはせず、まっすぐ前を見つめた。

 ランドレックスの凶暴な瞳と目が合う。

「最後まで付き合ってくれよ」

 デュカルは壊れた剣を取り出した。この男はまだ諦めていない。死地に取り残されようと、自らの意思で選んだ決断に背中を見せて逃げたりはしない。今のデュカルは治癒師ではなく、剣士としてこの場に立っている。自力で一色を再現させるほどの熱意と努力。そんな剣士に対する思いは、人一倍強い。

 自ら理想とする剣士勇者の面影を追い続けるデュカルは誰よりも、剣士がどう言うものかを脳裏に刻んでいる。

 後ろを向かない。

 倒れない。

 諦めない。

 デュカルの手には、心許ない壊れた剣。刀身は砕け、荒い刃が鈍く光る。剣としては使い物にならない。この剣で一式も使えなければ、振って本来の用途にすることも出来ないだろう。


「デュカル、逃げて!」

 今にもランドレックスに食べられそうなデュカルを見てローエは悲痛な声を上げた。

 後ろの離れた場所で霧の攻略をしているローエは、助けに行くことが出来ないでいた。ただ届くと願って声を出した。

 魔獣の雄叫びと、重い足音の中であろうと、その声は確かにデュカルへ届く。

「大丈夫だ。まだ諦めない。そんな心配そうな声を出すな」

 デュカルの言葉は、ローエに届く間もなく魔獣の雑音に掻き消された。

 ローエは目を逸らさずその瞬間を見届けた。

 デュカルは何やら呟き始める。

 瞬間、世界が黒と白に反転した。

 禍々しくも呪文のような形をした文字が周囲を取り巻く。

 デュカルの右の瞳を覗くと、そこには茶色い髪をした女性の後ろ姿が映っていた。


「我、世界に誓約を結ぶ者。愛のための力を。

 禁忌アルカナの六、恋人——愛しの贈り物を修復せよ」


 デュカルは禁忌を唱えると、剣は元の姿形に修復されていた。

「ぐああああああああああ」

 デュカルの全身に戦慄が走る。徐々に体の先端が黒ずみ、煙が立ち込んだ。

「エンジェル・オブ・ラスタアアアア!」

 デュカルが治癒魔術を使うと体の崩壊は綺麗さっぱり収まった。

 頭部には天使の輪。傷が癒えるとと天使の輪も消えた。

 最高位の治癒魔術が次元を空間を歪ませて、人体をあるべき姿に復元する。


「はあ、はあ、はあ。間に合った」

 右目を抑える。

 目の前には、大きく口を開けたランドレックス。

「相変わらず良い子だ。愛しているぜ、お前恋人

 目の前の危機にデュカルはお構いなく、修復した我が愛剣に口づけをする。

 そして、剣を鞘に戻し、抜刀した。

「一式——」

 ランドレックスがデュカルを口に入れようとした、その時。

「——赤」

 ランドレックスに風穴が空いた。

 ランドレックスの血飛沫すらも跳ね返す破壊の衝撃は、周囲の魔獣を、森の自然を、大地を巻き込み、この一帯を更地にした。

 遥か彼方まで突き進む赤い光線はフォグホーンの森を二つに分断する。


 視界が開けた。

 奥の方で誰かと何かが戦う光景がデュカルの目に入る。

「あれだな、見つけたぜえええ!」

 見えたのは一瞬。デュカルはこの異常な現象の正体を視界に入れる。

 その姿を長い時間、見ることは叶わなかった。

 消えたはずの魔獣達が再び立ち塞がる。その中には、この森に住む主の姿があった。

 穴の空いた大きな角。白い体毛に覆われ、四肢の蹄は銀色に光り、鹿の出立ちをした魔獣。霧の主、フォグホーン。

 フォグホーンが深く鼻で息を吸うと、森全体が風に揺れた。圧倒的な肺活量。瞬間的に大量の空気を体内に取り込み終わると、角から霧が放出された。森の中は白く深い霧の海の世界に満たされた。

 森の霧はさらに深く白くなった。視界は良くない。魔獣と森と、そしてデュカルとローエも白い霧に飲み込まれた。

 何も感じない。霧が匂いを、気配を、魔術を、視界を消す。

 だが、魔獣の足音が次第に大きくなる。

 次には、魔獣の気配。そして、魔獣の匂いも強くなっていく。

 デュカルは五感で認識すると、魔獣の一団が既に自身の目の前にいた。

 後ろには一人の女性。一人の剣士として引き下がれなかった。

「これでも減らねえのか」

 デュカルは振り返ることなく、魔獣と衝突した。

 拳を魔獣の顔にぶつけて振り抜き魔獣を殴り倒す。

 すぐに次の魔獣が押し寄せる。一匹ではない、複数の魔獣がデュカルに飛びかかった。デュカル一人ではもう、前線を支えるのに限界が来ていた。

 霧に隠れた猪のような魔獣がデュカルの体に向かって突進をする。

「ぐううう」

 足に力を入れて、踏ん張り巨体を後ろに押し返した。

「はあ、はあ、はあ」

 すかさず狼の姿をした魔獣がデュカルに飛びかかる。

白き壁ヴァイスホール

 白い壁を作り魔獣を弾き飛ばした。周囲にいた魔獣も同じように後へと吹き飛ぶ。猪のように重く巨大な魔獣は吹き飛ばなかった。猪の魔獣の体は人間の三倍の高さに膨れ上がり、再びデュカルの体めがけて突進する。

 デュカルは同じように体で受け止めた。

 だが、腹部に角が刺さっていた。

「くそ」

 血がぽたぽたと滴り落ちる。

 早く回復を施そうと魔獣を振り払おうとするが、深く角が刺さっていて振り払えない。

「急がねえと」

 横から次々と魔獣が押し寄せる。デュカルの横を何匹も魔獣が通り抜ける。

 そして、立派な二本の角を生やした緑色の鬼がデュカルの横に現れた。

 緑の鬼がデュカルを見つめる。

 デュカルは顔横に向け睨み返した。

 そして、緑の鬼はデュカルと猪の魔獣めがけて、腕を振るった。

 抵抗は無駄だと体の力を抜いた。巨木ように太い腕が、横を掠める。死を悟ってなお、目を逸らさない。

 確信があった。

 後ろにいる相棒の助けを信じてデュカルは待った。

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