狩人の死

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 張り詰めた空気が、百人は収容できるであろう大会議室に充満していた。それは巨体な男たちによって、あるいは風貌から察するに、どこかの組の若頭のような厳つい男共から放たれているのだろうか。

 全員が黒のシワだらけの背広を身にまとい、首にはそれぞれ愛用ペンダントと称するドッグタグやら、ネックレス、健康磁器ワイヤーをぶら下げ、ある男はサングラスを頭に掛け、ある男はジッポライターの蓋を太い親指でカチカチと開閉し、俺はそんなある男達に囲まれ、一人静かに着席していた。

 全員が前を向き、各々イラつき係長や部長が座るであろう席の、その後ろのホワイトボードをにらんでいた。

 秋葉原。ここ、万世橋警察署四階にある合同会議室には、大きな事件が起きれば、必ず使われ、熱気を帯びる部屋だった。

 そして、大きな事件が起こったから、我々はここにぶち込まれ、静かに着座待機している。

 不幸なことに、この事件の第一発見者は、俺だった。

 もうすぐ三〇を迎える俺は、巡査と称して退屈なパトロールドライブの日々からやっとのことで脱出でき、念願の捜査一課に配属され、多くの死因を解くお助けをし、日々やりがいのある仕事をしていた。

 だが、こんな話は聞いてない。

 隣のデスク島に座る男たちは、どう見てもマフィアである。組織犯罪対策課と、数年前に厚生省から分裂したと聞く麻薬取締局。そんな彼らは、今にも煮えくり返り、この秋葉原を消し飛ばしそうな雰囲気である。

 見ればわかるのだ。

 こんな狼らしからぬ男共と仕事をすれば、気を抜いた瞬間死んでしまう。たとえ身体が強くとも、加えて強靭な、そして狂人な心がなければやっていけない。そんな環境で、これから事件解決まで仕事をすることに、はたまた、そんな彼らに、現場概要をプレゼンする行為など、裸で地雷原を踊るようなものなのだ。

 そんなプレッシャーと戦いあぐねていると、前方の左横のドアから、しっかりとアイロンがかけられた皴のない背広姿の男が数名入室し、着席した。

 一人はパソコンを前面ディスプレイに接続し、事件名をデカデカと表示させた。【全国連続脳死事件】と。

 同時に、組対(組織犯罪対策課)の島の先頭に座る男が叫び、全員がそれに習った。

「キヲツケ! 敬礼! やすめ!」

室内の空気は、前方へと流れたかと感じ、怖気づいた。

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