第17話

いつぶりだろうか。ずっと昔のような気がする。温かい家で温かいご飯を囲む家族、母からそんな懐かしい感じがしてなんだか急に涙が出そうになった。危ねぇ…母は「上がって上がって!」と今までのことが嘘のように慌ててそう言うと凛は「これ…」と高そうな和菓子を緊張で少し震えながらも手渡した。可愛い。いやいや違う違う。「気にしなくても良いのに。」と困った顔でそう言うと「そういう訳にはいかないでしょばか」と怒られてしまった。凛は和菓子を母に手渡すとどこか寂しかった家のリビングに入る。雰囲気がガラリと変わって青白い空間が橙色に染まっていく。彼女は「    君のお父さんにお線香あげていいですか」と母に聞くと母は「もちろんよ」と笑った。堪えるのに必死なのがよく伝わる母の目には大粒の涙が今にもこぼれ落ちそうだった。凛が手を合わせた後に母は俺のどこを好きになったのか。生い立ち。全てに興味深々だった。そして凛は質問攻めの餌食だ。彼女は時折「助けて…」と目で訴えていたが俺にはそれはできない。何故なら話をしている時の彼女の顔は真っ赤でとても愛おしく感じたからだ。俺は温かい目で見つめ返すと彼女は吹っ切れたように多くを語った。母はそんな彼女が気に入ったのか「今日は泊まって行って!」と言い出した。どう考えてもそうだよな。うんうん。



 ………は?????



「「な、なに言ってるんだよ(ですか)!!」」俺たちが顔を真っ赤にしてそう言うと「でも…」と母はゆっくり時計をみた。待て、10時だと…???そう言われてみれば腹減ったな…「ご飯だけでも食べて行って!」母はそう言うと彼女の返事を聞かずに作っていた料理を運び出した。凛も母の誘いを無碍にはできず結局俺達はご飯を平らげ手を合わせる。御馳走様でした。なんとなく予想はしていた。「もう11時30分じゃないの…」凛は困ったように呟いた。俺は「せめて駅まで送るよ」と言うと母は「もう遅すぎるわ。泊まっていきなさい。」と言い出した。一度断ってるんだ、しつこいよ母さん。その予想とは裏腹に「そうですね。今夜は厄介させていただいてもよろしいでしょうか」と隣の美女は言い出した。なーに言ってんだこの別嬪さん。おらわかんねぇ。違う違う。「お、親御さん心配するんじゃないか??」と聞くと「両親共働きで父親は出張で母親は夜勤で明日の昼まで帰ってこないわ。言わなかったかしら?」と澄ました顔でそう言った。知らねぇよ!!!初耳だよその情報!!!母はその返答を聞くや否や「じゃあ綺麗なお客さんと冴えない男の子は先にお風呂に入って頂戴ね〜母さん先に寝るから。おやすみなさーい」と自分勝手に消えていった。もうツッコまねぇからな…ていうかどうすんだよこれ……パタリとドアが閉まり凛と俺だけがリビングに取り残される。俺達はお互いに顔を見合わせ一言。



「どうすんだよ(するのよ)これ…」

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