第15話

駅に着くとそれはまるで夜空の月の様に美しい、そんな1人の少女が本を読みながら立ち尽くしていた。彼女が夜空の月なのだとしたら、俺は差し詰めそれに群がる虫か何かなんだろう。それ程に彼女は美しかった。割りに合わねえよな…見惚れていると彼女はこちらに気付き小さく手を振った。可愛い。「今日はどこに行くんだ」そう尋ねると彼女は「ついて来て」とだけ言い俺たちは電車に乗った。夕日が綺麗だ。いつも1人でヘッドホンをしスマホで動画を見ながら乗車しているので動く箱のようなイメージだった車内は彼女の存在だけでまるで映画のワンシーンの様な温かい空間へと変わっていた。乗車中は会話はなくただ電車が揺れる音だけが響いていた。ドアが開くと彼女は「ここで降りるわ」と言って改札を出た。一体どこへ向かうのだろう。と俺も改札を出ると彼女はいきなりアイマスクを取り出し俺に付けさせた。うん。そういうプレイなのか??そういうプレイがお好きなのか??と戸惑っていると小さい手が俺の拙い手を引いてどこかへ歩いて行った。ゆっくりと移動すること数分後、「階段登るから気をつけて。」一歩一歩彼女の小さな手を頼りに登り上へと続く階段がなくなったとき、彼女は俺の付けていたアイマスクを勢いよく取るとそこには美しい砂浜が広がっていた。「こんなとこ近くにあったんだな…なんで知らなかったんだろう…」と唖然としていると彼女は「気に入った?」と話しかけてきた。気に入らないわけがない。こんなにも美しい景色が近くにあったなんて。しかもかなり綺麗だ。俺は満面の笑みで「ありがとう」と答えると彼女は何も言わずこんなことを聞いてきた。「辛いこと、理不尽なことが圧倒的に多い本物と、都合の良いようにどこまでも綺麗で自分の思うがままの偽物。あなた、いや君はその選択を迫られたときどちらを選ぶの?」………わからない。何が言いたいんだ。それに『君』と言われると何故かとても懐かしいような…俺は親父を失ったり辛いこともあったが今みたいに綺麗な思い出がないわけじゃない。ならこの世界が本物か偽物なんて俺にはわからねぇ。でも俺ならきっと…「今じゃなくても良い。あなたが納得して答えを出せる日まで待ってるから。だから…お願い」彼女は小声でそう呟くと「そろそろ帰りましょうか」と駅へと向かった。凛、どうしたんだろう…俺は彼女と帰りの電車で一言も喋ることはなく、行き道とは違い真っ暗な外を見つめながら各々家に帰り深い眠りについた。

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